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異世界のもふもふカフェレストランで、君は私を独占する  作者: 陰陽@4作品商業化(コミカライズ・書籍・有料連載)


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第50話 パブロフの犬なんです

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 千尋はいつものように、教会の近くの広場で買い物をしていた。突然、黒いローブを着た男たちに囲まれ、口を塞がれて拉致された。

「――っ!?」

 抵抗する暇もなく、馬車に押し込められる。男たちは冷たく言い放った。


「大人しくしていろ。逃げようとしたら、殺す。」

 千尋は心臓が跳ね上がるのを感じながらも、冷静に状況を分析した。

『また人質……?でも、今回はいつもと様子が違うような……。』


 近くの人間を人質にし、銀行強盗を行おうという、行き当たりばったりで短絡的な犯罪を犯そうとする連中は、等しく自分の顔を隠そうともしなかった。

 アズライアンもそれは同じだ。手配されて悪人として名前と顔が売れたほうが、むしろ裏社会ではメリットになるのだと、解放されたのち、警備兵から聞いたことがある。


 だが、今回の相手は全員顔をフードで隠していた。しかも、銀行に向かうわけでもない。馬車はどんどん町を離れて行くようだった。拉致された千尋が連れて行かれた先は、町はずれの廃倉庫だった。


 乱暴に石を敷き詰めた床に、縛られた状態で放り出される。こんなことは初めてだ。まるで身代金目当ての誘拐だ。最近もふもふカフェレストランがはやっているから、お金が取れるとでも思ったのだろうかと、千尋は考えた。

 蒼生に危険が及んでいないといいけど、と、人質にされたことを申し訳なく思いながら、犯人がちが何か要求してくるのを待った。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 ──アズライアンは部下を率いて、夜の闇に紛れて廃倉庫に近付いた。

「ボス、入口は2箇所。裏口と表の入り口です。中には10人以上いる模様です。」


「よし。俺が単独で潜入する。お前らは外で待機。合図があったら一斉に突入しろ。」

 アズライアンは黒いマントを翻し、倉庫の裏口から忍び込んだ。中は薄暗く、埃とカビの臭いが立ち込めていた。


 奥の倉庫の一室で、千尋が縛られて転がされているのが小窓から見えた。アズライアンは静かに動くと、中で見張りをしていた10人の男たちを、一気に制圧した。驚いた声と、一瞬悲鳴が聞こえただけで、ほぼ静かな状態での完全制圧は、将来裏社会のすべてを牛耳る男の片鱗を感じさせるものだった。


 アズライアンは倒れた男たちの体から鍵を探し出し、千尋が閉じ込められている部屋の鍵を開け、ぐったりと倒れている千尋に近付き、耳元でささやいた。

「……おい。人質、何回目だよ。」

 千尋はびくりと体を震わせ、バッと顔を上げた。アズライアンの顔を見て、ほっとしたように息を吐く。


「アズライアンさん……!」

「無事なようで何よりだ。……おい、何にもされてねえだろうな?」

「なんにもって?」

「なんにもは、なんにもだよ!」


 荒くれ男が10人もいたところに、美少女が一人閉じ込められていたのだ。何もなかったと想像する男は少ない。だが千尋のきょとんとした様子を見るに、何もなかったのだと思い、アズライアンはホッとため息をついた。


「助けてやった俺に、礼くらいないのか?」

「あ、ごめんなさい。助けてくれてありがとう。」

「そうじゃねえだろ。」


「え?」

「美女が男に救われて礼するって言ったら、ほっぺにキスくらいすんのが普通だろうが。」

 そう言ってにやりと笑い、千尋をからかうアズライアン。


 だが、千尋は真顔で、アズライアンのほっぺにチュッとキスをした。瞬間、真っ赤になってたじろぐアズライアン。

「な……何ほんとにキスしてんだよ!」

「え?え?だって、アズライアンさんが、しろって言ったんですよ!?」


 困惑する千尋。日頃蒼生から、お礼にキスして、と言われて、ほっぺにチューする癖がついている千尋としては、現時点では殆どパブロフの犬状態でのキスである。

 意識も何もあったものではなかったが、後々思い出して、推しにとんでもないことをした……!と赤面することになるのだった。


「ああ、もう。お前に普通を求めた俺が間違いだった。……それにしても、お前も毎回災難だな……。まあ、今回は普通の人質ビジネスじゃないらしいが。」

 千尋が不思議そうに目を丸くする。

「え?」


 アズライアンは千尋の縄を素早くナイフで切って解きながら、低い声で説明した。

「今度の依頼主は、金目当てじゃねえ。お前の相方を呼び出すための囮に、お前を使おうとしてる。『もう一人の女を呼び出す間、逃げないよう見張っていろ』って依頼内容だ。最初にうちに来たんだが、それを断ったことで、今回の依頼内容を先に知れて、お前を助けに来れたのさ。」


 千尋の顔から血の気が引いた。




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