第5話 錬金術師の精霊と賢者の精霊
最初に現れたのは、錬金術師の精霊だった。ふわふわの白い毛に包まれた、小さな狐のような姿。
耳は長く、尖った先端と、しっぽの先が淡い金色に輝いている。尻尾は三つに分かれ、それぞれの先端に色とりどりの小さなガラス玉のようなものが付いていて、ゆらゆらとしっぽが揺れている。
瞳はエメラルドのような緑色で、好奇心旺盛にキラキラ光り、鼻先がぴくぴくと動いて、こちらの匂いをかいでいるようだった。
狐精霊は千尋の体に飛びつくと、尻尾の玉鳴らしながら顔をすり寄せてきた。その愛らしさに、千尋の頰が自然と緩む。
「かわいい……!あなたの名前はルルゥよ!」
狐精霊は満足そうに「ルルゥ!」と喉を鳴らし、千尋の手に鼻を押しつけた。つけた名前が鳴き声となり、また、能力を発動させる呪文にも変わる仕様だ。加護の光が、柔らかく千尋の体を包み込む。
「蒼生、見て見て! すっごく懐いてくれてる!」
「ほんとだ!可愛い!私にも懐いてくれるかな?」
次に、蒼生の前に現れたのは賢者の精霊だった。小さなフクロウのような姿。羽は深い青紫色で、羽ばたくたびに、星屑を散りばめたようにきらめいている。賢者の精霊らしい知的な眼差しだが、ちょこんと頭を傾げる仕草が愛らしい。
首には古びた小さな巻物がぶら下がり、翼の先端は淡い光の粒子を落としながら舞っている。足元には小さな杖を掴んだまま飛んでる。
「私も前世と同じ……パルゥ、だよ。」
フクロウは「パルゥ!」と喜びの声を上げ、すぐに名前を受け入れた。
賢者の加護が、蒼生の全身を優しい光で満たす。
フクロウ精霊は蒼生の肩にとまり、頭をすりすりしてきた。蒼生は珍しく目を細めて笑った。
「見て見て、千尋!私にも懐いてくれた!」
「ほんとだ!やったね、蒼生!」
「千尋をを守れる……これで、絶対に大丈夫だよ。」
蒼生が小さく呟くと、ルルゥとパルゥの二匹の精霊は、すぐに楽し気に、仲よさそうに、空中でじゃれつきだした。
妖精たちが周りで拍手喝采し、森全体が祝福の光に包まれた。
「これで本当のスタートだね。錬金術師の私と、賢者の蒼生で……もふもふカフェ、絶対に成功させよう。」
千尋が蒼生の手を自分の手で包み込むようにして笑顔になる。
蒼生は、初めて「お姉ちゃん」と呼んだ時のように、にっこり笑った。
千尋が蒼生の手を強く握った瞬間、蒼生の胸の奥が熱くなった。
この手が離れたら、私は生きていけないのだと強く感じる。
千尋との未来をまた取り戻せたことに、蒼生はただ神に感謝していた。
「……ほんとはね、千尋さえいれば、結婚なんてしなくたって、推しに会えなくたって、どうでもいいの。」
蒼生はうつむきつつ、そうつぶやく。
「ん?何か言った?」
「ううん、なんでも!」
先を歩く千尋を追いかけるように、蒼生は小走りで千尋の背中に追いついた。
精霊たちを連れて、二人は森を後にした。
開業資金は、聖女アリシアの「豊穣」の能力で、貴重な薬草を育て、販売して貯めた。
教会の近くに店舗の建築が始まり、もう一方の森では、千尋がゲームで見た可愛い魔物や動物たちを集め始めた。
もふもふたちが、嬉しそうに千尋の周りを飛び回る。
「あと少しで、お店が始められるね。錬金術師の力でステータス強化スイーツ、聖女の力で回復効果のある料理を出すんだもん。絶対はやるよ!」
「うん。絶対に成功させよう!」
しかし、開店準備で町へ出かけるたび、千尋は奇妙なことに巻き込まれた。なぜか犯罪事件の人質になってしまうのだ。
これは❝2❞のヒロインの巻き込まれ体質と同じもので、そうなることで、攻略対象者たちと知り合ったり、親しくなることになるのだが、今の千尋は今は❝1❞の悪役令嬢、アマルソフィアにも関わらず、なぜか巻き込まれ体質が発動している。
人質になっている最中、警備兵たちに攻撃されて、ケガをした犯罪者たちを、見ていられなかった為、思わず錬金術の薬をその場でクリエイトして、助けてしまった。
すると彼らは「こんな優しくされたのは、初めてだ……。」と次々頬を染め、捕まって賠償金を支払い、解放された後で、千尋に賠償金やプレゼントを持ってきてくれるのだった。
賠償金は法で定められたもので、人質に取られた人間に対し、加害者が保証する資金があった場合、支払われなくてはならないものである為、それ自体は特別不思議なことではないのだが。
だが、既に5回も人質になってしまった。人前で捕まる為、大勢の人々が、千尋が人質にされている状況を目撃している。
結果、町では不名誉な二つ名が定着した。
「人質ビジネスで稼いでる女」「犯罪者たらし」である。
「犯罪者たらしって何よ……賠償金だって、全額突っ返してるのに。まあ……プレゼントは返し辛いから、もらってるけどさ……。」
「まあまあ、千尋。町のみんなもだんだんわかってくるよ。私たちが本気で店をやるってこと、絶対に伝わるから!」
唇を尖らせる千尋を、蒼生が眉を下げながら、まあまあ、となだめていた。
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