第48話 千尋の拉致依頼
「まず、聖女アリシアになった、アマルソフィアをおびき出す必要がありますね。彼女はとても警戒心が強く、めったなことで一人にはなりませんが、アマルソフィア──もとの体に近付かれることを極端に嫌がるようです。」
ルキウスが、マルカール王国の影の部隊から受けた報告をそのまま伝える。
「ですが、聖女アリシアが中に入ったアマルソフィアの体は、一人になることも多いようです。主に店の買い出しなどですが、アマルソフィアの体をさらえば、自然と聖女アリシアが中に入ったアマルソフィアが、アマルソフィアの体を救いに現れます。」
その言葉に、ヴェルフェス・クロイツがうなずく。
「直接聖女アリシアの体になったアマルソフィアを襲撃するよりも、まずはアマルソフィアの体をとらえ、おびき出すという作戦ですな。そのほうが、重力魔法を事前に準備しやすく、とてもよいでしょう。」
「では誰にその役目を?」
「拉致などという荒事を、我々魔塔や、マルカール王国の人間がやったと感付かれるのはまずいでしょう。魂の交換を行った犯罪者を捕縛するのには、問題なく国の許可はおりますが、その為に人質を利用したと知られるのはまずい。」
「……ではどのように?」
「この国は、そういった荒事を引き受ける、裏社会の組織が多数存在します。そのいずれかに金で依頼すればことたりるでしょう。資料を読む限り、聖女さまが入っているアマルソフィアという令嬢は、人質に何度もなっている。人前でさらわれたところで、今回もか、と思われて終わりでしょう。実に自然に、人目を気にすることなく、楽に連れて来ることが可能かと。」
「それはよいですね。では、そちらの人選は、魔塔にお任せしても?」
「わかりました。それを準備する間に、我々は聖女アリシアさまから魂を引きはがす準備として、呪いをかけましょう。」
「やめてください!そんな人道にもとる行為を……!」
アクセルがそう叫ぶと、ヴェルフェス・クロイツがちらりとアクセルを一瞥する。
「……冷静になるまで、しばらく彼を閉じ込めておきなさい。儀式の邪魔になります。」
「待ってください!もう一度考え直して……!」
「来るんだ!大人しくしろ!」
アクセルは引きずられて行き、魔塔の中の自分の研究室に、中から扉があかないようにされて、閉じ込められてしまった。開けろと何度叫んでも、扉が開く気配はない。外部への連絡手段もない。このピンチをどうやって蒼生たちに知らせたものか、アクセルは頭を悩ませた。
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夜。アズライアンは自身の組織のアジトのソファに深く腰を下ろし、部下たちから届いた報告書を指で叩いていた。
「――おい。これ、どこの組織が引き受けたんだ?なんでうちは断った?」
そこには、対象の女を拉致して、ある場所まで連れて行き、逃げないよう見張る。その間に、依頼主が別の女を呼び出して用を済ませる……という内容が書かれてあり、取り立てて難しい仕事であるとは思えない。それに、ばかに料金が高い。
本来外部からの仕事を引き受ける際は、いったん部下が吟味したうえで、組織で引き受けるべきと判断した場合のみ、最終的にアズライアンに許可を取りに来るという仕事の流れだ。
だから本来であれば、断った仕事の依頼書に、アズライアンが目を通すことはなかった。
だが、今回その内容が気になった部下が、断るとしたうえで、アズライアンにその依頼書を持参して来たのだった。部下の一人が恐縮した様子で答える。
「それが……対象の女については、証拠を残したくないのか、口頭での説明だったんですが、相手が例のボスの女なんです。」
「──あ?」
自分の女、と言われて、ちょっとキレ気味になるアズライアン。
「つまり、アマルソフィアを拉致しろってのか?あいつ、また人質として狙われてんのかよ。」
「ボスの女を拉致して、それをエサに呼び出そうって別の女は、おそらく、もふもふカフェレストランで一緒に働いている女のことだと思います。」
「あー。妙に仲のいいあの女な。俺のことをよく睨んでくる。青みがかった黒髪の男が、そいつ目当てに通ってる女だ。」
アズライアンは、蒼生の名前にまでは興味がなかった。
「うちのほうでちょっと調べたんですが、依頼主は魔塔で、マルカール王国と繋がっているらしいです。」
「──魔塔?なんだって魔塔が、あの女の相方を狙ってやがんだ。」
アズライアンはいぶかしげに眉を顰める。
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