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異世界のもふもふカフェレストランで、君は私を独占する  作者: 陰陽@4作品商業化(コミカライズ・書籍・有料連載)


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第46話 ごめんなさい

 アグノラが捕縛され、騒ぎが収まった後。眠る健吾を客間に残して、もふもふカフェレストランの一階のテーブル席で、蒼生は千尋と向かい合って座っていた。

 あんなことがあった後では、興奮してしまって、すぐに眠るどころではなかった。


 熱いミルクティーを覚ましながら、紅茶のカップを見つめつつ、千尋がつぶやく。

「……蒼生。」

「ん?」


「私ね、さっきまで、蒼生が怖かった。まるで、人殺しも、自分が私の為に死ぬことも、いとわないみたいで。遠くから見えた、あの子と戦ってる蒼生は、まるで……。」

 その先の言葉を濁す千尋に、蒼生の指が、わずかに動いた。カップの縁を握る力が、少しだけ強くなる。千尋は続ける。


「蒼生が誰かを傷つけて。それが、私のせいなんじゃないかって、怖かった。」

 蒼生は無言で千尋の顔を見ていた。視線を逸らすこともできず、ただ、千尋の潤んだ瞳を受け止めるしかなかった。


「……私、千尋を守る為なら、化け物になってもいいと思っていたの。それで千尋が傷ついて、千尋を失うくらいなら……そうなってもいいと思ってた。でも……こんな私、嫌だよね。」

 千尋は少し笑った。でもその目は、少し潤んでいた。


「でも……でもやっぱり、私は蒼生がいいの。」

「……千尋。」

「蒼生が化け物になっても、蒼生が私を傷つけるような人になっても……それでも私は、蒼生がいい。」


 千尋は蒼生の両手を、自分の両手で包み込んだ。温かい。確かな感触が、蒼生の指先から胸の奥まで伝わる。


「だって、私の蒼生だもん。誰がどう言おうと、私の蒼生なんだから。」


 蒼生は、しばらく言葉が出なかった。ただ、千尋の手を握り返すことしかできなかった。握り返す力が、少しずつ強くなっていく。


「……本当に、いいの?」

「うん。」

 千尋は頷いた。迷いのない、はっきりとした頷きだった。


「蒼生が化け物みたくなるのが怖いのは本当だよ。でも、それ以上にさ……。」

 千尋は蒼生の額に、自分の額を軽くくっつけた。息が混ざる距離。千尋の体温が、直接伝わってくる。


「蒼生がいなくなったら、私の方が壊れちゃうから。」

 その言葉を聞いた瞬間、蒼生の目から、静かに涙がこぼれた。千尋はそれを見ても、驚かず、ただ優しく微笑んだ。

「泣いていいよ。今は、私が蒼生を守る番だから。」


「ん……。」

 千尋が蒼生の涙をぬぐう。化け物になってしまったら。それを千尋に知られたら。きっと離れて行くと思って怖かった。


 だが、千尋はそんな蒼生をも受け入れてくれた。蒼生の胸に、優しい気持ちと、暖かな満足感が広がる。

 もう、千尋を失うことはないのかも知れない。本当に化け物になってしまっても。ほんの少し、そう思えたことが、蒼生を穏やかな気持ちにさせていた。


 けれど、その穏やかさは、長くは続かなかった。

 その夜、千尋が寝静まった後、蒼生は涙を流しながら、月夜を見上げていた。

「私は千尋を守るためなら、化け物にでもなるって決めたのに、そのせいで、その化け物が周りの人を傷つけている。」

 ボソリとそう、呟く。声が、自分の耳にだけ響く。


 健吾が前世で告白してきたとき、蒼生は即座に振った。千尋が何よりも大切だったから。

 だけど結局、自分はあの時も今も、健吾の気持ちをちゃんと受け止めていなかったな、と感じる。


 自分が関わったせいで、彼を危険に晒してしまった。前世も、今も。

 結果的に健吾を利用した。千尋を守る為だからと。

 自分のような化け物ではないけれど、深く自分を愛してくれていたのだと、今ならわかる。


 健吾が自分をどれほど大切に思ってくれていたかを考えられていたら。

 自分を理解してくれている健吾が、自分の行動を予測して、蒼生を守りに来たり、危険に晒したりすることは、なかったのではないのか。


 自分が、千尋以外に愛されるなんて、考えたこともなかった。

 自分の見た目以外に、そこまで興味を持つ人がいるとも、考えたこともなかった。


 窓の外の月を見つめたまま、蒼生は自分の手をゆっくりと見つめた。

 さっきまで千尋を抱きしめていた手。あの手で、アグノラを雷の牢獄に閉じ込め、傷を負わせた。


 千尋の寝顔を横目で見ながら、静かに部屋を出た。そして、誰もいない三階の廊下に出て、壁に寄りかかるようにしてしゃがみ込んだ。


 膝を抱え、額をその上に押しつける。声を出さないよう、必死に歯を食いしばって、ただ涙をこぼした。

 肩が小さく震える。息を殺した嗚咽が、喉の奥で何度もつまる。

 月明かりだけが、細い廊下を照らしていた。


「……ごめん、ごめんなさい。」

 誰に向けた言葉なのか、自分でもわからなかった。

 健吾に。千尋に。そして、たぶん、自分を大切にできない、自分自身に。



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