第42話 ❝1❞のヒロインvs❝2❞のヒロイン①
蒼生の手が、わずかに震えた。その瞬間、店のドアが開いた。アクセルだった。
「ちょっと昼ご飯を食べそびれちゃって……もう、ランチタイムは終わってしまいましたよね?何か適当におすすめのものを……御堂さん?」
様子のおかしい蒼生に、アクセルが心配そうに声をかける。
「その手紙、どうしたの。ひょっとして、その手紙が原因で、そんなに顔色が悪いの?」
アクセルがそう尋ねて来る。
蒼生はゆっくりと顔を上げ、カウンターに手をついたアクセルに、先ほど受け取った手紙を差し出した。
「また、あなたのファンのせいで、千尋が危険な目にあうかもしれないわ。」
アクセルは手紙を受け取り、目を通した。顔色が一瞬で変わる。
「……アグノラか。」
「──知ってるの?」
<悠久のロマンスを君と2人で>どころか、そもそもあまりゲームも漫画もアニメも見ないと言っていたアクセル──健吾が、アグノラの名を知っていることに驚く蒼生。
「前世で……僕を刺した女だ。どうやらその、アグノラという女に、転生したみたいだ。僕のところにもやってきて、絶対に僕を手に入れると宣言をして帰って行った。君たちに危害を加えないか、心配で様子を見に来たところだったんだ。」
蒼生は静かに目を細めた。
「そう。またあなたのせいで、私はあの女に狙われることになるどころか、今回は千尋まで狙ってくるとはね……どうするつもり?」
アクセルは苦しげに息を吐き、頭を下げた。
「ごめん。僕のせいで……。すぐに、何とかする。魔塔に相談して、彼女を監視下に置けるようにするとか……。」
蒼生は淡々と答えた。
「それは難しいんじゃない?今は原作の6年前の世界で、将来魔塔のトップになるアクセルと違って、今のあなたは、なんの権限も持ち合わせていないのだもの。……まあ、私の方でも、ちょっと考えるわ。」
その夜、アクセルはいつものように食事をし、気を付けるようにとだけ告げて帰っていった。
しかし蒼生は、アクセルが帰った後も、カウンターに座ったまま動かなかった。手紙を握りしめた指が、白くなるほどに力が入っていた。
ランチタイムも大きく過ぎ、食事をしていた客がいなくなったもふもふカフェレストランを閉め、ディナー時間まで休憩の看板を外に出して、蒼生は店内で一人、呟いた。
「……千尋を、害する?。」
蒼生は小さく、冷たく笑った。
「冗談じゃないわ。」
数日後。人気のない、町はずれの森の奥。アグノラは、アクセルの名前が書かれた手紙を手に、指定された場所にやって来ていた。
彼女は嬉しそうに周囲を見回しながら、独り言を呟いていた。
「アクセルさま……やっぱり、私たち、結ばれる運命だったのね。嬉しいわ。今日は、ちゃんとあなたとゆっくり話が――」
その時、背後から冷たい声がした。
「――アクセルさまは来ないわよ。」
アグノラが振り返った瞬間、黒い球体が彼女の頭上に出現した。
「雷の牢獄。」
蒼生が無表情で立っていた。手には、もう一つの黒い球体を浮かべている。アグノラは一瞬、目を丸くした。
次の瞬間──ズドンッ!!黒い球体が、凄まじい速度でアグノラの側面に激突した。
「きゃあっ!?」
雷撃が炸裂し、アグノラの体が吹き飛ばされる。
服が焼け、髪が逆立ち、地面に転がった彼女の体が、木の根元に激しく叩きつけられた。木々が大きく揺れ、落ち葉が舞い上がる。立ち込めた煙の向こうから、冷たい声が響いた。
「動かないで。アグノラ・エンデル。」
蒼生が、ゆっくりと目線を下げて、アグノラを見下ろしていた。両手に、それぞれ黒い球体を一つずつ浮かべている。雷の牢獄。内側で青白い稲妻が激しく唸っていた。アグノラが痛みに顔を歪めながら、這いつくばった体を起こす。
「な、なに……?聖女アリシア……?」
蒼生は無表情のまま、ゆっくりと前進した。
「千尋を害するなんて、手紙に書いてあったわね。私にそんな宣言をして、ただで済むと思ってる?……甘く見ないで。私は千尋を守る為なら……化け物にだってなるわ。」
彼女は右手に浮かべた黒い球体を、静かに掲げた。
「雷の牢獄・連鎖。」
ドンッ!ドンッ!ドンッ!三つの黒い球体が連続で放たれ、アグノラの周囲に着弾した。
凄まじい雷撃が次々と炸裂し、地面が抉れ、木々が薙ぎ倒されていく。アグノラは悲鳴を上げながら、必死に転がって逃げようとするが、雷の連鎖が彼女の動きを的確に捉えていく。
「いやあああっ!?やめっ……!」
四発目がアグノラの背中に直撃した瞬間、彼女の体が大きく跳ねた。
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