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異世界のもふもふカフェレストランで、君は私を独占する  作者: 陰陽@4作品商業化(コミカライズ・書籍・有料連載)


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第39話 現れた第二部のヒロイン

 そして蒼生は、厨房の奥からその背中を見ながら、千尋の肩に軽く額を寄せた。

「……千尋が笑っているなら、いいの」

「ん? 蒼生、どうしたの?」


「なんでもないわ。……ただ、少しだけ、安心しただけ。」

 千尋が不思議そうに首を傾げると、蒼生はいつものように、千尋にだけ見せる小さな微笑みを浮かべた。カウンターの奥では、そんないつもの光景が広がっていた。


 千尋が笑顔で紅茶を淹れ、アクセルが丁寧に頭を下げた。

「今日も来させていただきました。ありがとうございます。この店の料理は、どうにも落ち着くんです。」

 アクセルが千尋にそう言う。後ろから蒼生が無言で料理を運んでくる。


「ありがとうございます、名高──アクセルさん。故郷の料理はどうしたってそうですよね。」

 千尋がそう言って笑う。そうだね、とつられたようにほほ笑むアクセル。


 パスタを一口食べて、うまい、とポツリと呟くアクセル。

「以前まかないで出した時も、お好きだったですよね、この味。」

 蒼生がそう言う。


「……気づいていましたか。ありがとうございます、嬉しいです。」

 アクセルが嬉しそうに言うが、蒼生は小さく頭を振った。


「いえ。アマルソフィアが『アクセルさんが好きそうな味』と教えてくれたので。お礼なら、あの子に言って下さい。」

 アクセルの表情が、わずかに柔らかくなった。

「……それでも、それを僕の為に再現しようと思って下さった気持ちが嬉しいです。ありがとうございます。アリシアさん。」


 蒼生は短い沈黙のあと、静かに続けた。

「こうして顔を見せてくれるのは、悪い気はしません。アクセルさんのことは、嫌いではなかったので。」


「……はい。それだけでも、僕はうれしいです。」

「でも、アマルソフィアが一番です。それだけは、変わりません。」


「……はい。わかっています。」

 アクセル──健吾は、気にした様子もなく、穏やかにほほ笑んだ。その穏やかで優しい笑みに、近くの女性客が小さく息を呑んだ。


「……笑った……。」

「やば、かっこよすぎる……。」


 アズライアンは、膝の上で小さく眠る魔物の子犬を撫でながら、千尋の方を見上げた。

「アマルソフィア。今日のタルトも、いつも通り美味いな。というか、あのスープ、いつになったら店に出すんだ?」


「──不死王のスープのことですか?」

「その名前、恥ずかしいからやめろよ。」

 アズライアンが、照れているのをごまかす為に、苦虫を嚙み潰したような表情でそう言う。


「ご……ごめんなさい。あれはまだ店には出せないですね。原材料費が高いので、確保がまだ安定しないんです。するにしても、夜の特別なコースに入れようかなと……。」


「他のやつらに出すなよ。俺だけにしろ。」

 頬杖をついて、にやりと笑うアズライアン。その目に射抜かれたように、千尋がビクッとして頬を染める。


「アズアズ……アズライアンさんが、そう言うなら。」

 千尋はお盆で赤面する顔を隠しながら、そう答えた。


「なんかいい雰囲気……。」

「やっぱりあれだけ美人だと、ああいう素敵な人に好かれるのね。」

「さすがに私たちは、眺めるのがやっとよねえ……。」


 ❝1❞のヒロインと悪役令嬢に転生した千尋と蒼生は、当然とんでもない美少女である。2人のイケメンと並んで遜色がない。

 だが、どこかで客たちは安心もしてもいた。蒼生と千尋が、まるで最初から一緒にいるのが当然であるかのように、隣り合って作業をしている姿。


 千尋が時折、蒼生の袖を軽く引いて、何か囁く。蒼生がそれを聞きながら、わずかに目尻を緩める。その光景を見て、2人はイケメンよりも、互いのほうが大事なのだろうと感じていたからだ。


 特に、千尋が蒼生に懐いている様子や、蒼生が普段あまり笑わないのに、千尋にだけ笑顔を見せる様子を見ると、この2人の間には入って行かれないと感じるほどだ。

 そんな女性客のざわめきとは対照的に、店内の別の場所では、別の視線が飛んでいた。男性客たちだ。


 特に、開店当初から常連の数人の若い男性が、カウンターの方をじっと見つめていた。一人は冒険者風の青年で、剣を腰に下げたまま紅茶を啜りながら、蒼生と千尋を交互に見つめていた。

「……なんで、あのイケメンたちとあんなに普通に話してるんだよ。」


 隣に座っていたもう一人の男性が、低く呟いた。

「マジで腹立つ。俺たちのほうが先に常連になったのに、毎日あんなに優しく接っしてもらってるなんて……。」


「……あんな笑顔、俺たちには見せてくれないのに。」

 若い男性たちは、カウンターで笑う千尋の姿を羨ましそうに見つめていた。彼らは女性客とは違う種類の視線で、カウンターを見つめ続けていた。


 嫉妬と苛立ちと、わずかな諦めが混じった目で。そんな店内の空気を、誰よりも敏感に感じ取っていたのは、窓際の隅の席に座る一人の黒いマントの少女だった。


 ある日を境に、店の一角、窓際の席に、黒いマントを深く被った一人の女性が常連として座るようになっていた。彼女の名前は、アグノラ・エンデル。

 前世では、乙女ゲーム『悠久のロマンスを君と2人で』の❝2❞のヒロインとして知られる少女だった。




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