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異世界のもふもふカフェレストランで、君は私を独占する  作者: 陰陽@4作品商業化(コミカライズ・書籍・有料連載)


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第38話 親しくなるヒーロー2人

「気づかねえわけねえだろ。カウンターの奥から、始終睨まれてる気がする。」

 アズライアンが低い声で続ける。


「あの目、ただの警戒じゃねえ。『近付くな』って言ってる目だ。俺にはわかる。」

 裏社会のボスとして日が浅いアズライアンではあるが、他人の殺気には敏感だ。蒼生の笑顔の奥の、自分に対する嫉妬と不快感には、気付いているようだった。


 アクセルは静かに紅茶を一口含んだ。

「彼女は……アマルソフィアをとても大事にしています。誰よりも。アマルソフィアが誰かと少しでも親しくなると、態度が明らかに変わります。なので、最近彼女と親しいあなたの存在が、面白くないんでしょうね。」


「はあ?お前、やけに詳しいな。」

 アズライアンが赤い瞳を細めてアクセルを睨んだ。

「……お前も、あいつを狙ってんのか?」


 アクセルは一瞬だけ目を見開き、それから穏やかに微笑んだ。

「いいえ。僕が好きなのは、アリシアさんです。」

 アズライアンの表情がわずかに強張った。


「……はあ?」

「アリシアさんです。この店で働いている、もう一人の方。」

 アクセルは静かに、しかしはっきりと繰り返した。


「だから、アマルソフィアさんのことは……ただ、大切な友人として見ています。それと同時に、アリシアさんの大切な人なので、傷付けてはいけない存在だと思っていますね。」


 アズライアンはしばらく無言でアクセルを見つめていたが、やがて小さく鼻を鳴らした。

「……そうかよ。ならいい。」

「はい。」


「てかお前、趣味悪くねえか?あいつ絶対性格悪いだろ。確かに美人ではあるけどよ。」

「僕はち……アマルソフィアさんを好きなアリシアさんを好きになったので。彼女がアマルソフィアさんに向けている笑顔が好きなんですよ。彼女はとても、優しい人です。ちょっぴりやきもち焼きで、独占欲は強い方だと思いますけどね。」


 そのとき、厨房から蒼生が出てきた。

 トレイに『不死王の秘薬スープ』の小皿を乗せ、アズライアンの前に静かに置いた。


「……特別です。アマルソフィアが『アズライアンさんにだけ』と譲らなかったので。」

 蒼生の声は穏やかだったが、目はほとんど笑っていなかった。


「……すまねえな。俺はこいつに目がなくてな。」

 アズライアンが短く礼を言うと、蒼生は小さく首を傾げた。


「礼はいりません。アマルソフィアが喜ぶなら、それでいいので。」

 そう言って、蒼生はアクセルのほうに視線を移した。


「アクセルさん。今日のパスタは少し味を変えてみました。前にあなたが『懐かしい』とおっしゃっていたハーブの配合を、少し近づけてみたんです。」

「そうなんですね、とても楽しみです。」


 アズライアンがそのやり取りを横で聞きながら、スープを一口すすると、目を細めた。

「……うめえ。やっぱり特別扱いは悪くねえな。ここでしか味わえない味だ。」


 千尋が再びカウンターに戻ってきて、二人の間に笑顔を挟んだ。

「どうでしたか?スープ。」

「悪くねえ。……いや、うめえよ、アマルソフィア。」


「よかった!じゃあ、また特別に作っちゃおうかな。」

 千尋が嬉しそうに目を細めると、アズライアンの耳がわずかに赤くなった。

「……調子に乗んなよ、お前。」


「はい?」

「……なんでもねえ。」

 照れたように、カウンターに肘をついてそっぽを向くアズライアン。アクセルがそれを見て小さく微笑んだ。


「アズライアンさん。彼女は本当に純粋なんです。だから、あまりからかわないであげてください。」

「からかってねえよ。むしろ、遊ばれてんのは俺のほうだろ。毎回振り回されてんだからよ。」


「でも、彼女が純粋なのは、わかるんですよね?」

「…わかってるよ。」

 アズライアンは湯気の立つスープを見つめながら、ぼそっと続けた。


「わかってる。……だから余計に、アリシアの視線が気になるんだよ。」

 蒼生は厨房の入り口に立ち、無言で二人を見ていた。

 千尋がアズライアンに笑いかけ、アクセルが穏やかにそれを見守る光景を、静かに、しかし確かに観察していた。


 そして、千尋が少しでも長くアズライアンのほうを向いていることに気づくと、蒼生はゆっくりとカウンターに歩み寄り、千尋の袖をそっと摘まんだ。


「……アマルソフィア。少し厨房を手伝って。」

「あ、うん!」


 千尋がすぐに蒼生の隣に戻ると、蒼生の表情がわずかに和らいだ。

 その様子を、アクセルとアズライアンは、それぞれ違う思いで見つめていた。


「……やっぱり、あの二人は特別なんだな。」

 アズライアンが低く呟く。


「ええ。」

 アクセルも静かに頷いた。

「誰にも、踏み込めない場所がある。……それが、彼女たちの関係なんだと思います。」


 二人はそれ以上何も言わず、ただカウンターに座ったまま、店内の穏やかな空気を味わった。

 女性客たちの視線は相変わらず熱く、もふもふたちが時折二人の膝に飛び乗ってくる。


 それでも、アクセルとアズライアンの間には、以前にはなかった、微妙な共通認識が生まれ始めていた。

 ――この店の、この二人の関係を、簡単に壊してはいけないと。




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