第35話 魂の交換②
クロイツが頷いた。
「理論上は可能です。過去にそういった事例もあります。強力な魔力と特殊な儀式を組み合わせれば、魂の交換は実行可能です。」
「今の聖女アリシアは賢者だ。そこにアマルソフィアの魂が入っているのだとして、彼女が賢者の力を手にしていたとするのであれば、それが可能だったということか。」
ルキウスがそう呟く。
「聖女アリシアは連れ去られたのではなく、アマルソフィアとして、自ら抜け出していたということか……。」
ホークも独り言のようにそう言った。
「アマルソフィアの体は、他国に追放されましたからね、それを追いかければ、自分の体ともはぐれないですむことでしょう。」
アインがそれを補足するように言う。
「なんとたちの悪い女だ……!聖女アリシアの命を狙うのに失敗したら、今度は体を奪うなどと!」
ルーク王子が、聖女アリシアの身をおもんばかって叫ぶ。
「なじんだところで、聖女アリシアとして戻るつもりだったのではないでしょうか?聖女アリシアの姿をしていれば、ルーク王子に愛されると思って。」
「うむ、おそらくそういうことだろう。」
アインの言葉に、ルーク王子がうなずく。
その理屈であれば、マルカール王国の影の部隊が救出に来た時点で、聖女アリシアの姿をしたアマルソフィアは、喜々としてマルカール王国に戻らなければおかしいが、逆に追い返されたことに、少しも疑問をいだかないルーク王子たちであった。
「ならば、具体的にどのような儀式でそれが行われたというのか?そして、どうすれば元に戻せる?」
クロイツは、静かに息を吐き、魔塔から持参した古い羊皮紙の巻物を広げた。そこには、複雑な魔法陣と、古語で書かれた儀式の工程が記されていた。
「魂の交換は、極めて高度で危険な禁忌魔法です。魔塔の記録でも、実際に成功した例は極めて稀です。」
その言葉に、アマルソフィアはそんな禁忌魔法を使うような悪女なのだ、という印象が、ルーク王子たちの中で広がっていく。
「まず、儀式を行うには二つの条件が必要です。一つは、両者の魂が『強く結びついている』こと。もう一つは、強力な『媒体』と『触媒』が必要になります。」
ルークが眉をひそめた。
「結びついている?アマルソフィアとアリシアが?アリシアはアマルソフィアに殺されかけたんだぞ?」
クロイツが静かに首を横に振った。
「それもひとつの関係性です。殺そうとした者と、殺されかけた者。それらは強い結びつきを産むのです。なんであれば、来世まで結びつく、強い関係性を生み出すことが出来ると、魔塔の研究では言われています。」
「まさか……その為に殺そうと……?」
「本当に殺す為ではなく、アリシアの体を奪う為に……?」
過去のアマルソフィアの行動が、ルーク王子たちにとって都合のいいストーリーに書き換えられていく。
「魂の交換は、『相手の体を自分のものにしたい』という強い執着が、魔力の触媒になる場合があります。その執着が儀式の成功率を大幅に高めます。」
その想像を肯定するかのように、クロイツがそう補足する。アインが杖を強く握りしめた。
「では、具体的な儀式の工程を教えていただけませんか。」
クロイツが羊皮紙を指でなぞりながら、ゆっくりと説明を始めた。
「魂の交換の儀式は、主に三つの工程に分かれます。第一工程、魂の解放。対象者二人の体を、特殊な魔導陣の上に横たえます。陣の中心に、二人の魂を繋ぐ『魂の糸』と呼ばれる魔力の媒体を置きます。これは、両者の髪や血、または大切にしていた品を混ぜて作ります。これらは、同時に魔法陣に横たえる必要はありません。」
「例えば、片方のベッドの下に忍ばせるなどして、魔法陣の上に横たえさせたうえで、もう片方が後から魔法陣の上に横たわる……または先に横たわっておく、というやり方が可能だということでしょうか?」
アインの質問に、クロイツがそうであるとうなずいた。
「次に、強力な『触媒』として、魔力結晶を用います。これにより、魂を体から一時的に引き剥がします。」
ホークが低い声で確認した。
「魂を引き剥がす……?それは危険ではないのか?」
「非常に危険です。魂が体から完全に離れた状態が長く続くと、肉体が崩壊します。そのため、儀式は極めて短時間で完了させる必要があります。既に魔法陣のうえに横たわった状態を満たしたうえで、短時間で儀式を発動させる必要があります。」
「それを地下牢の中で行ったということだな。」
ルーク王子が言う。
「持ち物検査はなされなかったのか?」
ルキウスがホークに尋ねる。
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