第34話 魂の交換①
「しかも、その声の人物は『雷の牢獄』という魔法の名前を挙げ、『聖女の回復力と併用すれば、永遠に痛みを与え続けられる』と、極めて具体的に説明しています。これは、ただの洗脳では説明がつきません。」
騎士団長の息子ホーク・アンバインが腕を組んで低く唸った。
「洗脳された人間が、そこまで理路整然と話せるものか?普通の洗脳なら、もっと感情的になり、論理が破綻するはずだ。」
王宮筆頭魔法使いのアイン・チックスが杖を軽く床に突き、静かに続けた。
「加えて、聖女アリシアが賢者の能力を使用しているという点も看過できません。彼女が使えるのは聖女の加護のみです。にもかかわらず、情報部隊は賢者でなければ使えない高度な魔法を、聖女アリシア自身が操っていたと語っていました。」
ルークが歯を食いしばった。
「ならば……いったいどうすれば、アリシアを救い出せるというのだ。」
「魔塔に協力を仰いではいかがでしょうか?」
アインがそう言う。
「──魔塔に?」
「魔塔であれば、賢者がたくさんおります。我々の手に負えないことを解決する力も持ち合わせておりましょう。」
「なるほど……それはいいな、ルキウス、さっそく連絡を取ってくれ。」
「かしこまりました。」
そうして、ルーク王子じきじきに、魔塔へと向かうことになった。ルキウスたちを従えて、案内された部屋に通される。
しばらく待たされ、王子を待たすとは何事か、といらつくルーク王子をルキウスたちがなだめる中、扉がノックされた。
入室を許可すると、中年の賢者が静かに入ってきた。彼は一礼し、淡々とした口調で言った。
「マルカール王国の王族じきじきに、わが魔塔に確認されたい、依頼されたいことがあるとのお話をいただき、まいりました。魔塔所属の賢者、ヴェルフェス・クロイツと申します。」
「話は事前に通してある通りです。魔塔はどのように見ておりますでしょうか?」
ルキウスがクロイツに尋ねる。ルークが即座に身を乗り出した。
「洗脳か、それとも何か別の手段なのか?」
クロイツが静かに頷いた。
「まず、単純な洗脳である可能性は極めて低いと判断されます。魔法による洗脳には、主に二つの種類があります。」
クロイツが、2、とわかるように、指を立ててしめす。
「一つは、対象者の意思を完全に奪い、命令に従わせるだけのもの。もう一つは、記憶や人格の一部を改ざんし、特定の行動を強制するものです。かし、どちらの場合も、対象者は本来の自我を失うか、大きく損なわれます。」
「では今回はやはり……。」
アインが口を開く。
「はい。感情が平板になり、論理的な説明や、相手の弱点を的確に突いた脅しはできません。ですので、洗脳であるとは考えにくいでしょう。」
ルークが眉をひそめた。
「洗脳された人間が、自分を他者であると認識した上で、近づくなと警告させる。ここまでは簡単です。洗脳で行うことが可能です。ですが、魔法は洗脳された状態で使うことはとても難しいものです。騎士などの近接職であれば、本人の能力を使うことは可能ですが、こと、魔法となると難しい。」
「ましてや聖女が、賢者の能力を行使するともなると、不可能であるということですね。」
アインの言葉にクロイツがうなずく。アインが杖を握りしめ、声を震わせた。
「では……何が起きているのですか?」
ルキウスの問いかけに、クロイツが静かに答えた。
「最も可能性が高いのは、魂の交換です。」
「──魂の交換?」
ルーク王子が首を傾げる。
「あなた方が聖女と呼ぶ女性の体に、他者の魂が入る。この場合であれば、器の持つ能力と、魂がもともと使っていた能力の、両方を行使することが可能なのです。」
「そんなことが?その場合、魂が抜けて、別人の体に入った人間の体はどうなるのだ?」
ホークが尋ねる。
「その場合、魂が抜けた体に、体を奪われた人間の魂が入ります。つまり、魂が入れ替わるのです。それが魂の交換ということです。」
「アマルソフィアの魂が、聖女アリシアの体に入り、逆に聖女アリシアの魂がアマルソフィアの体に入った状態であるということか……。」
ホークが納得したようにうなずく。
「それならば、聖女アリシアの性格が急に変わった理由にもうなずけますね。あんな悪辣非道な精神を持つにいたったのは、きっとアマルソフィアの魂だからなのでしょう。」
アインがそれに同調する。
部屋に、凍りつくような沈黙が落ちた。ルークが荒い息を吐いた。
「魂の交換……だと?そんなことが本当に可能なのか?」
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