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異世界のもふもふカフェレストランで、君は私を独占する  作者: 陰陽@4作品商業化(コミカライズ・書籍・有料連載)


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第33話 私のほうが好きだよね?

「私、名高さんと親しくしすぎた?」

「違うよ!」

 千尋が即座に振り向いた。


 でも、その顔は明らかに拗ね顔のままだった。頰が少し膨らんでいて、目が泳いでいる。

「……だって、だってさ、名高フロアマネージャー、蒼生のこと、僕の好きになった御堂さんって、普通に言っちゃうんだもん。」

 千尋は唇を尖らせながら、蒼生の顔をじっと見る。目が少し潤んでいた。


「前世の話なのに、なんか……堂々としてて、今も当たり前に好きみたいにさ?」

「前世の話だよ?」

「でも! 蒼生が……あの時、ちょっと笑ってたじゃん。名高さんのこと、私のことちゃんとわかってるって言った時。」


 千尋はそう言いながら、またぷいっと顔を背けた。

 今度は本当に少しだけ、蒼生から体をずらしている。

 でも、完全に離れるわけではなく、カウンター越しに蒼生の袖の端を指で軽く摘まんでいるのが愛らしい。蒼生はそんな千尋を、静かに見下ろした。


「……嫉妬してる?」

「してない!」

 即答だったが、声が少し上ずっていた。


 千尋はさらに頰を膨らませて、カウンターに額をくっつけるようにして俯いた。

「……だって、名高フロアマネージャー、優しすぎるんだもん。蒼生のことを、ちゃんとわかってて、好きだったって言うし。そんな人、今までいなかったじゃん。蒼生は美人だから、めちゃくちゃモテたのにさ?」


「まあ、確かに初めてね、そんな人は。」

 感心したように蒼生が言う。

「おまけにもともと顔が似てたのに、今じゃほんとのアクセルなんだよ?蒼生の推しの!私……蒼生が誰かを好きになるの、初めて見た気がして……。」


 千尋はそのまま言葉が詰まる。

「でも、蒼生は今まで私のこと、ずっと千尋が一番って言ってくれてたのに……なんか、悔しい。」


 と、最後の方は、ほとんど独り言のように小さく呟いていた。蒼生は、くすっと笑った。

 珍しく、声に出して笑う。蒼生はカウンターを回り込み、千尋の両肩を優しく掴んだ。


「千尋。」

「……なに。」

「こっち向いて。」


 千尋は少しだけ抵抗したふりをしてから、ゆっくりと顔を上げた。

 その目は、明らかに拗ねたままだった。蒼生はそんな千尋の頰を、両手で優しく挟んだ。


「名高さんは、優しい人よ。確かにとてもいい人ね。顔もタイプだった。おまけに私の推しに転生した。正直、びっくりしたわ。──でも、推しだってことより、予定外にここにアクセルが来たことで、私は千尋を守らなきゃって気持ちのほうが、先に働いたのよ?」


「……本当?」

「本当。私の中で、千尋が一番大事なのは、今も、未来も変わらない。千尋以外に、私がこんなにくっついてる人なんて、過去にも未来にもいないよ。」

 蒼生はそう言いながら、千尋の額に自分の額を軽くくっつけた。


 距離が近い。息が混ざり合うくらい近い。千尋の頰が、みるみる赤くなった。

「……もう。蒼生ってば、急に甘いこと言うのずるい……。」

「甘いこと、言いたくなるくらい、千尋が可愛いから。」


 千尋は、完全に顔を真っ赤にして、蒼生の胸に顔を埋めた。

 拗ねていたはずの声が、どこか甘えた響きに変わっている。


「……名高さん、もう帰ったよね?」

「うん。帰ったよ。」

 蒼生は千尋の背中を、そっと撫でながら、小さく笑った。


「これからは、千尋が拗ねるたびに、こうしてあげるから。」

「すねてなーいー。」

「はいはい、約束ね。」


 千尋は蒼生の胸に顔を埋めたまま、小さく頷いた。

 その指が、蒼生のエプロンをぎゅっと掴んでいる。

 店内は、再び静かになった。ただ、千尋が蒼生の胸に顔を埋めて、時々小さく息を吐く音だけが、優しく響いていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 マルカール王国、第一王子私室。重厚な黒檀のテーブルを囲むように、第一王子ルーク・バレンシアを中心に四人の男たちが座っていた。

 部屋の空気は冷たく淀み、誰の表情にも苛立ちと焦りが色濃く浮かんでいた。机の上には、情報部から上がってきた報告書が山のように積まれている。


 しかし、どれも決定的な手がかりにはなっていなかった。ルークが最初に重い口を開いた。

「アリシアが……あんなことを言うはずがない。彼女は聖女だ。優しく、穏やかで、誰かを苦しめるような人間ではない。あれは絶対に、アマルソフィアに操られているに違いない。」


 宰相の息子ルキウス・エンヴィーが、冷静に資料をめくりながら答えた。

「殿下。情報部隊の二人が帰還した際の言葉は、すでに何度も検証済みです。彼らの声は、確かに聖女アリシア本人のものでした。」


「それはわかっている……!」

 いらだたしげにルーク王子が答える。




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