第32話 千尋だって嫉妬します
それを聞いた千尋と蒼生は顔を見合わせる。
「それたぶん……蒼生だと思います。私がならず者につかまって、ナイフを突きつけられていたので、助ける為に魔法を使ったんです。街中で魔法を使っちゃいけないって決まりのこと、私たち知らなくて。」
「御堂さんだったのかい!?」
健吾は目を丸くする。
「はあ……一気に解決しちゃったな……。」
「ごめんなさい……私のせいで……。」
「私も、知らなかったとは言え、ごめんなさい。」
「いや、まあ知らなかったわけだしね。御堂さん、野良じゃなくて、登録の賢者になるつもりはない?」
「私、マルカール王国から逃げている立場なので……居場所を知らせることになりますし、それはちょっと……。」
「そっか……でも、魔塔がこうして、回復効果のある料理の出す店と、マルカール王国の聖女を結び付けているわけだし、いずれはマルカール王国も気付くんじゃない?」
「だとしても……そのつもりはないです。魔塔なんかに所属したら、行動が制限されるじゃないですか。」
マルカール王国からの使者は既に来ている。だが蒼生は脅して追い返した。これからも、くれば返り討ちにするだけだと思っている。
実際、アクセルがそうなように、魔塔の賢者にはそれぞれ仕事が割り振られる。もふもふカフェレストランの経営と、千尋を守るという目的のある蒼生からすると、魔塔に所属するというのは現実的ではない。
「まあ……店もあるから、そうなるか……。」
健吾はそう言って悩んでいた。
「6年後だったら良かったんですけどねえ……アクセルは魔塔のトップになる人だから、アクセルの権限で、この話は握りつぶすことが出来たと思いますし。」
千尋が言う。
「そうなの?凄いんだね。」
健吾が人ごとのように言う。
「まあ、乙女ゲームのヒーローですからね、スペックが凄いんですよ。」
「一応、事情は話してみるよ。何も情報を持ち帰らないと言うのは不自然だからね。聖女であり、かつ賢者だなんて、きっと貴重な存在の筈だよ。そんな相手が、マルカール王国から逃げているんだ。魔塔も保護するなり、便宜をはかってくれるかも知れないし。」
「そうだといいんですけどね……。」
「まあ、少なくとも、僕は二人の敵にまわるつもりはないから、安心してよ。大事な故郷の同胞で、かつもと同僚だしね。」
千尋がそれを聞いて、ホッとしたように笑った。
「よかった。名高さんも、困ったときはここに来てくださいね。賢者と錬金術師の力で、手助けできることがあれば、お手伝いしますので。もちろん、美味しいご飯も出しますよ?」
「君たちの作ったものが食べられるのはうれしいな。この世界の料理は、どうにも口に合わなくてね……故郷の味が懐かしいと思っていたところだったんだ。遠慮なく頼らせてもらいます。」
健吾はホッとしたような笑顔を浮かべた。
「……名高さんは、変だって思わないんですね。」
「え?」
蒼生の問いかけに、健吾が首を傾げる。
「私たち、職場でも、仲良すぎだとか、変だとか、さんざっぱら言われてきたじゃないですか。私が千尋を優先しても、別に変だと思わないんだな……と思って。」
「ああ、うーん、そうだね……。」
健吾はそう言って考え込む。
「でも、僕の好きになった御堂さんは、高倉さんを大切にして笑顔になってる時の御堂さんだからさ。高倉さんのことを好きな御堂さんを、僕はたぶん、好きなんだと思うんだよね。だから、それ込みで御堂さんだと思っているから、違和感ないと言うか……別に変だとは思わないかな。」
「……名高フロアマネージャー、私のこと、ちゃんとわかったうえで好きでいてくれたんですね。あの時の告白、今のほうがずっと嬉しく感じます。」
健吾のその言葉に、蒼生は初めて警戒を解いたように、ふっと微笑んだ。
健吾が帰った後、もふもふカフェレストランのドアが閉まり、鈴の音が小さく響いたあと、店内はまた静かになった。蒼生が店の戸締りをする中、千尋はカウンターに寄りかかったまま、しばらくその場から動かなかった。
健吾が帰った直後から、千尋の表情が明らかに変わっていた。
「……ふーん」
ぷん、とかわいらしく頬をふくらませて、千尋はカウンターの端を指でトントンと叩き始めた。
目が少し細くなっていて、いつもの明るい笑顔がどこか影を落としている。蒼生が、静かに千尋の隣に寄った。
「どうしたの?」
「……なんでもないでーす。」
即答でそう言ったあと、千尋はさらにぷいっと顔を背けた。
でも、完全に背中を向けるわけではなく、肩だけを少し落として、カウンターに頰杖をついている。
その仕草が、妙に子供っぽくて、どこか拗ねているのが丸わかりだった。蒼生は小さくため息をついてみせたが、口元は少し緩んでいる。千尋が嫉妬しているのが伝わってきたからだ。
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