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異世界のもふもふカフェレストランで、君は私を独占する  作者: 陰陽@4作品商業化(コミカライズ・書籍・有料連載)


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第29話 僕の名は。

 アクセル・ラーゲンは、魔塔から与えられた指令を胸に、ブリュンヒル王国の国境近くの小さな町に足を踏み入れていた。


 <未登録の賢者>と<回復効果のあるもふもふカフェレストラン>。

 二つの情報を同時に調べるよう命じられた彼は、街中で目撃されたという黒い球体と雷の魔法、そして「食べると体が回復する」という噂の店。


 その2つは重なっているのではないかと考えていた。

 町の中心から少し外れた、教会のすぐ横に建つ小さな白い建物。

 看板には可愛らしい手書き文字で「もふもふカフェレストラン・ルルゥ&パルゥ」と書かれている。


 ドアを開けると、柔らかい鈴の音が鳴った。店内は、思っていたよりずっと賑やかだった。木の温もりを感じる内装。ガラス張りの天井から柔らかな光が差し込み、壁際や専用のスペースには、色とりどりの小さな生き物たちが自由に動き回っている。


 手のひらサイズのピンクの毛玉が客の膝に飛び乗り、銀色の小さな狐が尻尾で頰をくすぐる。青い毛並みの子犬のような生き物が、ちょこちょこと客の足元をうろうろしていた。

「ここが……噂の店か」

 アクセルはカウンターに腰を下ろしながら、静かに周囲を見回した。


 回復効果のある料理を提供しているという話は本当らしい。客たちの表情が、どれもどこか穏やかで、疲れが取れたような顔をしている。

「いらっしゃいませ!」


 明るい声がした。カウンターの向こうに立っていたのは、金髪に少しウェーブのかかった髪をした美少女だった。 見た目は華奢で、どこかきつめの目つきをしていたが、それと反対に、雰囲気はほわほわしているという、ギャップのある少女だった。


 白いブラウスにエプロンを着け、笑顔で彼を見ていたが、瞬間、ぎょっとしたように固まった。

 調査で来たのがバレているのだろうか?少し警戒しつつ、様子を見る。

「……おひとりさまですか?カウンターでよろしいでしょうか?」


「はい、大丈夫です。」

「本日のランチは『ハーブ胸肉を使ったパスタ』がおすすめです。スープとサラダ、デザート付きでございます。」

「……じゃあ、それで。」


 アクセルは少しだけ緊張を解きながら注文した。

 少女は「はい、少々お待ちください」と言い、厨房の方へ声を飛ばした。

「アリシア!ランチパスタ、もう一つ!」


 それからしばらくの間、何事か話し込んでいるのか、少女は戻って来なかった。

 こちらに来て覚えた技、魔力を耳に集中し、厨房の奥の音を拾う。

「……普通に食事しに来ただけみたい。まだ、変なことは言ってないよ。」


 そう話している声が聞こえた。

 しばらくして、料理を持って厨房から出てきたのは、ストロベリーブロンドの愛らしい美少女だった。にもかかわらず、まなざしがクールで、これもまたギャップのある少女だった。


 エプロンを着け、トレイに料理を乗せてカウンターまで運んでくる。彼女がトレイを置いて、ごゆっくり、と言った瞬間、なぜだか既視感を感じた。


 先ほどの少女をかばうように、前に立ちつつ、自分を警戒している。やはり、この店は何か関係があるのかも知れない。


 料理を一口食べると、その味に驚く。覚えのある、味。何度も前世の職場で食べた味。……今はもういない、愛した人の作った味。

 懐かしさと切なさを胸に、料理をたいらげると、デザートに手を伸ばす。


 そしてそこでまた衝撃を受けた。これはおかしい。さすがにおかしい。料理だけならまだわかる。料理にスイーツ。その2つが、どちらもなじみのある味だったのだ。

 どちらか片方だけならわかる。だが、両方揃ったら、これはもう、確信しかない。


「御堂……さん、高倉さん……?」

 思わず小さな声が漏れた。その声を聴いた美少女二人は同時に、びくりと体を震わせた。最初に会った少女がトレイを持ったまま固まり、厨房から出て来たアリシアと呼ばれた少女がゆっくりと目を丸くする。

 その視線が、アクセルと重なった。一瞬の沈黙。


 アリシアの瞳が、そのままわずかに細くなった。まるで何かを警戒するような、冷たい光が一瞬だけ宿る。彼女は無意識にもう一人の少女を後ろに下がらせようとした。


「アクセル……?なんでここに……?」

 厨房から出て来た少女が、左手でトレイを持った少女の腰を軽く抱き寄せた。

「大丈夫。私がいるから。」


 その目は、客として入ってきた男を、ただの客として見ていない。まるで、何か危険なものを測るような、静かな警戒心が宿っていた。その行動と眼差しにも、既視感があった。


 胸を締め付けられるような、甘い痛み。心が、本能が、彼女がそうだと告げている。姿こそ違えど、前世で愛した女性だと。

「僕だよ……名高健吾。……フロアマネージャーの。」

 彼は自分を指差しながら、小さく笑った。





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