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異世界のもふもふカフェレストランで、君は私を独占する  作者: 陰陽@4作品商業化(コミカライズ・書籍・有料連載)


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第27話 パブロフの犬なんです

 詠唱とともにバチバチバチ……という不気味な音が、蒼生の両手の間から響き始めた。真っ黒な球体が、稲妻を内側に孕みながらゆっくりと形作られる。


「分散。ターゲットマクロ、指定対象、千尋以外の、千尋を囲む三人。」

 蒼生の声は冷たく、感情を殺したように平板だった。


 蒼生がそう言うと、黒い球体は3つに小さく分裂し、まるで意志を持った生き物のように弧を描いて飛んでいく。そして千尋を取り囲んでいた3人の男たちの頭にそれぞれとりついた。


「ぎゃああああああああああああああ!」

 男たちが大絶叫する中、黒い球体は男たちの頭にまとわりついて、中で電撃をスパークさせる。


 球体の中で、雷が容赦なく降り注ぐ。肉が焦げる匂いが漂い、男たちは地面を転げ回りながら悲鳴を上げ続けた。蒼生はそれを、表情一つ変えずに見下ろしていた。


「よくも……千尋に……千尋に触れた……千尋を汚した……。」

 呟きながらも、魔法が途切れないよう、魔力を注ぎ続けることを忘れない。


「──あっちです!街中で魔法を使っている人が!」

 その声と共に、警備兵らしき人間たちがこちらに駆けて来るのが見える。

「千尋!逃げるわよ!」

「う、うん。」


 千尋の手を引いて逃げる蒼生。慌てて手を引かれるまま追いかける千尋。

 走りながら、蒼生は一度も千尋の手を離さなかった。

 むしろ、握る力がどんどん強くなっていく。痛いくらいに。


 千尋は息を切らしながら、蒼生の横顔を横目で見た。

 先ほどの怖い表情はなりを潜め、ともかく千尋を心配しているのが伝わって来る表情をしていた。


 2人は追いかけて来る警備兵から逃げながら、いつしか笑いあっていた。


 なんとか警備兵から逃げおおせることに成功し、二人は町が見下ろせる高台で額の汗をぬぐいながら息をついた。


「ハア……ハア……街中で魔法って使っちゃダメだったのね。知らなかったわ。」

「ね、気を付けないとだね。」

 蒼生の言葉に同調する千尋。


 蒼生の手が、千尋の肩をゴシゴシと拭きだす。その手が、わずかに震えている。

「……あの男たち、千尋に触れた。」

「え?」

「私の千尋に、汚い手で触れた。今すぐきれいにしなくちゃ……。」


 蒼生の声が、低く掠れた。またさっきのような、怖い表情に戻っている。千尋は思わず息を飲んだ。その様子に気付いたのか、蒼生はすぐに笑顔を取り繕ったが、目が笑っていない。


「それにしても、アズライアンがせっかく来てくれたのに、私を助けてくれないとは思わなかった!」

 話を変えるように、千尋がそう言ってプリプリする。


「あれ、千尋の推しでしょう?どうしてあの場にいたのに千尋を置いて逃げたのかしら。信じられないわ。」

 蒼生も同調してため息をつく。どうやらいつもの調子に戻ったようだ。


「ほんとだよ~。蒼生が戻ってきてくれて助かったよ~。」

 そう言って蒼生に半泣きで抱き着く千尋。


「怖かったわよね、よしよし。人質なんて、何度やっても慣れるものじゃないものね。」

 千尋の頭をナデナデする蒼生。


「……ま、あの男が逃げたのにはムカついたけど、千尋を助ける役目を譲ってくれたから、そこは感謝してあげるわ。」

「──ん?なんか言った?」


「千尋が無事でよかったわって言ったのよ。」

「うん、ありがと、蒼生。」

 千尋をギュッと抱きしめる蒼生を抱きしめ返す千尋。


「お礼はないの?千尋。」

 そう言って、目を細めながら、顔を傾ける蒼生。そう言われて、千尋は子どもの頃からの習慣で、蒼生のほっぺにチュッとキスをした。嬉しそうに目を細める蒼生。もはやパブロフの犬である。


 千尋の匂いが自分の腕の中にある。誰にも奪われていない。奪わせない。

『でも私はまた……化け物になりそうになった。』


 千尋のキスでだいぶ落ち着いたものの、その自覚が、蒼生の胸を締め付けた。いつか千尋に見放されるのではないかという恐怖。

 それと同時に、激しい喜びのようなものが込み上げてくる。

 千尋を守れた。千尋を、誰にも渡さなかった、と。


 その夜、千尋が眠りについた後で、蒼生は一人震えていた。

 千尋はまたしても人質になった。まるで❝2❞のヒロインになったかのように。千尋の前では何事もないかのような顔をしているが、一人になるといつも恐怖に震える。また千尋を失うかもしれない。それが怖くてたまらない。


 パニックになってしまう自分を、無理やり抑え込む。千尋の前ではいつだって、頼れるカッコいい蒼生でいたいのだ。それが本当の蒼生と違っていたとしても。


 本当はとても弱くて、千尋を失うことだけが、何より怖くてたまらない。一度千尋を死なせてからは、それがなおさらひどくなっていた。


「だいじょうぶ、千尋は死んでない、無事、無事だから……。」

 自分自身にそう言い聞かせるように、自らの体を抱きしめ、お守りのように身に着けている、千尋の髪の毛が入った小さな小袋を握りしめた。




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