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異世界のもふもふカフェレストランで、君は私を独占する  作者: 陰陽@4作品商業化(コミカライズ・書籍・有料連載)


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第26話 人質n回目、また人質になっちゃいました

 二人は自然と肩を寄せ合い、額をくっつけて笑い合った。

 周囲の観光客が微笑ましげに見ているのも、気にならない。

 ここは二人の世界だ。


 その時、千尋がジュースの杯をツルッと滑らせて落とした。

「あっ……!」

 冷たい果実ジュースが、千尋の胸元に勢いよくこぼれた。


 白いブラウスが一瞬で濡れ、透けて肌の色が浮かび上がる。

「わ、わわっ!冷たっ!」

 蒼生は慌てず、すぐに自分のハンカチを取り出した。


 柔らかい布で、優しく、けれど丁寧に千尋の胸元を拭いていく。

 指先が布越しに肌に触れるたび、千尋は少しドギマギしてしまって、肩が小さく跳ねる。


「大丈夫……?冷たかったよね。ごめん、私がもっと気をつけてあげればよかったのに。」

 蒼生の声は甘く、まるで子どもを甘やかす母親のように優しい。

 でもその瞳は、千尋の濡れた布地に張り付くように注がれていた。


 千尋の体温、千尋の匂い、千尋のすべてを、今日だけは誰にも見せたくない。

 蒼生は立ち上がると、肩に羽織っていた薄いカーディガンを千尋の肩にかけ、それでも着てて、と指をさした。


「新しい飲み物、買ってくるね。千尋はここで待ってて。絶対動かないで。」

 蒼生は遠くの売店へと、軽やかな足取りで歩いていく。

 路地に入る瞬間も、蒼生は振り返って千尋を安心させるように微笑みかけて、小さく手を振った。


 蒼生の姿がまったく見えなくなる。──その瞬間だった。乱暴な手が千尋の腕を掴んだ。

「動くな!これからお前を人質に、大商人の店を襲う!女、ついて来い!」


 今度はただのならず者三人組だった。

 昼間っから酒の匂いを漂わせ、ナイフをチラつかせながら千尋を囲む。

 観光客の悲鳴が上がる中、千尋はまたしても「人質体質」が発動してしまった。


「え、えええっ!?また!?」

 ちょうどその光景を、泉の反対側に通りがかって見ていた男がいた。

 長い銀髪を風に揺らし、赤い三白眼を細めた、アズライアン・ソーサレス。


「……はあ!?」

 彼は一瞬、固まった。

 アマルソフィアが、笑顔で自分を見送り手を振っていたあの女が、またしても人質に取られている。


 アズライアンの顔が、みるみる赤くなった。

 怒りと、恥ずかしさと、凹みとが一気に混ざる。

「この……嘘つきがぁ!!!」


 彼は大声で叫びながら、なんと泉を飛び越えて駆け寄ってきた。

 千尋は必死に首を振った。

「嘘なんかついてませんよ!なんなんですか!」


「お前、こないだ、『あれから人質になってない』って言ったじゃねえか!裏切者!俺以外の人質になってないって言ったじゃねえか!くだらねえ嘘つきやがって!」


「違う!違う違う!違います!本当に巻き込まれてるだけなんです!」

「やっぱりビジネスなんじゃねえか!ボスともあろう俺をハメるとはな……。」


 銀髪を乱暴にかき上げ、耳まで真っ赤にしながら、アズライアンは完全に頭に血が上っていた。

「なんでですか!助けて下さいよ!」

「知るか!この嘘つきがぁ!」


 そう吐き捨てると、アズライアンは踵を返し、走り去っていった。

 不死王の威圧感など微塵もなく、ただの凹んだ少年のように背中を丸めて。

 千尋は呆然とその背中を見送った。


 一方、アズライアンは聖地のすぐ近くにある酒場に飛び込んだ。

「あーもー、全部忘れたい……。店主!一番強い酒くれ!」

 カウンターに突っ伏すように座り、彼はグラスを一気に空けた。


 強い酒が喉を焼く。それでも足りない。

「遊ばれた……ボスなのに遊ばれた……。」

 店員が肩をすくめながら、新しいグラスを置いた。


「ペース、早くないすか?」

「今日はドロッドロに酔いつぶれたい気分なんだよ……。」

 アズライアンはグラスを握りしめ、ぼそりと呟いた。

「六人目どころか……毎日人質やってんのかよ……俺だけじゃなかったのか……。」  


 銀髪が酒の雫で濡れ、赤い瞳がうるうるしている。

 不死王と恐れられる男は、今この瞬間、ただの面倒くさくて、可愛くて、めちゃくちゃ凹んでいるメンヘラ少年に戻っていた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 突然アズライアンが怒りのままどこかに行ってしまい、茫然としている千尋。千尋を捕まえていたならず者たちも、茫然としている。


 ──そこに、ピシャッ……パチャンという音が響く。

 見れば驚愕した表情で、買い物から戻った蒼生が手にしていた果実ジュースのカップが、地面に落ちて赤い液体を撒き散らす。


 蒼生は目を大きく見開き、驚愕と、それ以上に激しい怒りが一瞬で表情を歪めていた。

「……私の千尋に何してるの?」


 蒼生がボソリと呟いた声は、ほとんど聞き取れないほど小さかった。

 途端に、バチバチバチという音と共に、蒼生の瞳が大きく見開かれ、瞬きすらしないまま、唇がわずかに震えた。





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