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異世界のもふもふカフェレストランで、君は私を独占する  作者: 陰陽@4作品商業化(コミカライズ・書籍・有料連載)


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第25話 穏やかな聖地観光?

 数日後。ブリュンヒル王国の国境近くの町。もふもふカフェレストランの買い出しの為、近くに広場のある町で、千尋は買い物袋を抱えながら立ち止まっていた。


 近くの露店の中年女性たちが、ひそひそと話をしていたのが聞こえて来たからだ。

「ねえ、聞いた?マルカール王国から、変な噂が流れてきてるらしいよ。」

「聖女さまが、公爵令嬢に操られてるって話?」


「そうそう。聖女さまが、王子と聖女さまの関係に嫉妬した元婚約者に、さらわれた挙句、その力で操られて、国に戻ることが出来ないらしいわ。」


 千尋の手が、びくりと震えた。

「……え?」

 中年女性たちは気づかず、話を続けた。


「王宮が本気で動き出したらしいわよ。聖女さまを連れ戻すために。公爵令嬢を殺せば聖女さまが元に戻るかも知れない、って話も出てるみたい。」


 千尋の背筋に冷たい汗が伝い、胸がギュッと締め付けられた。千尋は急いで店に戻った。

 カウンターで材料を並べていた蒼生が、千尋の顔を見て小さく首を傾げた。


「どうしたの?顔色が悪いけど。」

 千尋は一瞬、言葉を詰まらせた。

「……町で変な噂を聞いたの。」


「噂って、どんな?」

 蒼生は微笑んだ。いつもの、優しい笑顔だった。でもその笑顔の奥で、目がわずかに細くなった。


「私が蒼生を操って連れ出したってことになってるみたい。ほら、魔物を操る力があるじゃない?アマルソフィアは。」


「でも、そんなの事実じゃないわ。アマルソフィアは人間は操れないじゃないの。」

「うん……そうなんだけど、王宮じゃそういうことになってるみたいなの。蒼生を取り戻す為に、アマルソフィアを殺せって話が出てるって……。」


「噂なんて、気にしなくていいよ。……私がここにいる限り、誰も千尋に手を出すことはできないから。」


 千尋は蒼生の視線を、じっと見つめた。その瞳は、優しいはずなのに、どこか熱を帯びていて、底知れぬ闇を感じさせた。


「……蒼生。」

「ん?」

 千尋は買い物袋をぎゅっと抱きしめたまま、小さく呟いた。


「なんか……最近、蒼生が怖い。私の知らないところで、何かしてないよね?」


 蒼生の微笑みが、一瞬だけ凍りついた。次の瞬間、彼女はカウンターを回り込み、千尋を強く抱きしめていた。


「ごめんね。ちょっとピリピリしてて……。ほんとはいつ追手が来るかって、毎日心配なの。」

「そっか……そうだよね。私たちは私たちであって、私たちじゃないんだもん。ルーク王子たちからしたら、私は敵なわけだし。」


「あなたはアマルソフィアだけど、アマルソフィアじゃないでしょう?私だってそうだわ。あんな人たちとは一緒に行かない。私はずっとここにいるわ。もし来たら、千尋だって一緒に戦ってくれるでしょう?」


「もちろんだよ。ずっと一緒にいたいもん。」

 千尋は力強くうなずいた。


「……でも、もしも私が変わっても、千尋は私から離れないでね?そしたら私、ほんとに怖い人になっちゃう。」

 声は甘く、耳元で囁かれた。千尋は、蒼生の腕の中で、ただ小さく頷くことしかできなかった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 次の休み、千尋と蒼生の二人はようやく聖地巡礼に出かけた。ブリュンヒル王国の古い観光地――「星降りの泉」。そこは、伝説では女神が最初に涙を流し、飢えた人々を救った場所とされており、ゲーム内では攻略対象者とデートをする場所だ。


 巨大な白大理石の泉の周囲を、透き通った水晶のような石畳が取り囲み、陽光が七色の光を散らしてきらめいている。

 泉の水面は鏡のように澄み、時折、風に運ばれてくる花びらが、まるで星屑のように舞い落ちる。


 千尋は目を輝かせて周りを見回した。

「わあ……ゲームの背景よりずっと綺麗……!蒼生、見て見て!水が光ってる!」

  隣で蒼生は、ずっと千尋の横顔だけを見つめていた。


 唇の端が、抑えきれないほど緩んでいる。

 今日は完全に、千尋を独り占めできる日だ。

 店も子どもたちも、もふもふたちも、すべてを置いてきた。


 ここには、ただ二人だけ。

「うん……本当に綺麗だね。」

 蒼生はそう答えながら、そっと千尋の指先に自分の指を絡めた。


 人差し指と小指を優しく包み込むように。

 千尋が笑うと、蒼生の胸の奥が熱くなる。

 この笑顔は、今日だけは誰にも渡さない。


 二人は泉の縁に並んで座り、足を軽くぶらぶらさせた。

 買ってきた二種類の蜂蜜入りの果実ジュースを、二人で飲み比べしてみいる。

 千尋が一口飲んで「甘っ!」と目を丸くすると、蒼生はくすっと笑って、自分のジュースを千尋の唇に近づけた。


「ほら、私のもちょっと飲んで。……千尋のと比べてどう?」

 千尋は照れながらも素直に口をつける。

「ん、こっちのほうがさっぱりかも!こっちにすればよかったかな。」


「私にもちょうだい。」

 蒼生が髪をかき上げて耳にかけながら、千尋の手から直接ジュースのストローに口をつけた。


「私はこっちのほうが好きね。」

「じゃあ交換する?」

「そうしましょ。」


 蒼生は本当は、別にどちらもそれほど好きではない。強いて言えば千尋に渡したジュースのほうが好みだったが、単にそのほうが、千尋が喜ぶだろうと思ってそうしただけだった。




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