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異世界のもふもふカフェレストランで、君は私を独占する  作者: 陰陽@4作品商業化(コミカライズ・書籍・有料連載)


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第23話 マルカール王国情報部本部①

 千尋の背中に、ぽたりと水滴が落ちた。千尋は振り返らずに笑った。

「蒼生、のぼせた?汗がたれてきてるよ?」

「……ごめん、早く洗って出ようか。」


 そう言って苦笑する蒼生に、千尋が声をかける。

「ねえ?蒼生。私さ、私、蒼生が何をしてても、自分のこと、化け物だなんて思ってても、嫌いになんてならないからね?だから、話せる時がきたら、言ってね?」

「ええ……そうするわ。」


 そう言ってほほ笑む蒼生。それが本心であると信じたい。だけど、本当の自分を見せていない状態で言われたところで、本当にいいのかと、疑う気持ちを消すことは出来ない。


『私を人間扱いしてくれるのも、人間にしてくれるのも千尋だけ。私はこんなに化け物なのに。千尋にだけは気付かれたくない。私が千尋の為なら、なんだって、自分自身だって壊せるってことを。』


 蒼生はすぐに笑顔を取り繕い、千尋の背中をもう一度優しく流した。

 だがなぜか蒼生の瞳からは、止まらない涙が、静かにこぼれ続けていた。千尋には決して気付かれないように、湯船に落ちる音だけを立てながら。


 その夜、千尋が寝静まった後で、起きていないか確認する為、蒼生はそっと千尋の手を強めに握った。


 少し痛かったのか、ん……と顔をしかめながら寝返りをうつ千尋の髪に顔をうずめ、臭いを思い切り吸った後で、指をすかしながら髪を撫でる。


 そうしてすいたことで抜けた髪の毛を唇に挟んでみる。まるで口づけの代わりのように。

「千尋……。」


 目を閉じて、そう呟く。月明かりの中、ベッドから起き上がると、千尋の抜けた髪の毛を紙に包んで、作っておいた布袋に入れ、キュッと紐を縛った。


 それを首からさげて、上から手のひらで撫でると、チェストの上に飾られた花瓶に目をやった。アズライアンからもらったシャパルの花を、千尋がいけたのだ。


 蒼生はそれを瞬きもせずに睨むと、手をかざして、ゆっくりと萎れる魔法をかけた。花なんて一日で枯れたっておかしくないものね、と笑いながら。


 花は完全に萎れて枯れかけてしまった。これではどんなに世話をしても、元気になることはないだろう。やっと安心したようにため息をつき、再び千尋の隣で、ようやく眠りにつけたのだった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 マルカール王国情報部本部、地下に巧妙に隠された「黒の間」。重い鉄扉が軋む音とともに開いた瞬間、室内の空気が凍りついた。二人の男が、ふらふらと足を引きずるように入ってきた。


 情報部隊第二小隊長と、斥候担当。二人は先刻、第一王子直々の密命を受けてブリュンヒル王国国境へ向かったはずだった。だが今、彼らの瞳は完全に虚ろになっていた。焦点が合わず、唇は半開きのまま、よだれが糸を引いている。


 肉体は傷一つない。

 しかし、心は明らかに壊れていた。まさかアマルソフィアは、魔物だけでなく、人も操ることが出来るのだろうか。


 魔王に匹敵する魔女という二つ名を持つ女だ。そんなことが出来てもおかしくないのかも知れなかった。


「お前たち、いったい何があった?聖女アリシアさまはどうなさったんだ……?」

「……報告……いたします……。」


 情報部隊第二小隊長の声が、機械のように平板に響く。部屋にいた十数名の情報部員が、一斉に息を呑んで、逃げるように椅子から立ち上がる。上官である情報部長は、椅子から立ち上がるのも忘れて呟いた。


 情報部隊第二小隊長の首が、ぎこちなく傾く。

 まるで糸に引かれるマリオネットのように。

「……聖女アリシアは……無事です。……ただし……あなた方が近づくことは……二度と……許されません……。」


 斥候担当が、情報部隊第二小隊長の言葉を継ぐように口を開いた。

 声はまるで女性のようで、どこか甘く、優しい響きを帯びていた。

 それは紛れもなく、聖女アリシア――御堂蒼生の声だった。


「……あの子に、危害を加えるつもりなら……私は、どんな手段を使ってでも、排除します。……次に近づいたら、『雷の牢獄』の球体を解除しません。永遠に、痛みだけを味わわせ続けます。……どうか、忘れないでくださいね?」

 ああ、それと、と、蒼生が続ける。


「私、ブリュンヒル王国で賢者に転職しました。聖女の力と併せ持つことで、永遠に回復しつつ、『雷の牢獄』で傷付けることが可能です。……範囲はそうですね、狂うほどに拷問するつもりなら、宰相が持っている領土程度。……ただ閉じ込めるだけであれば、マルカール王国全体を覆う程度……でしょうか?」


 部屋が、静まり返った。情報部長は、背中を冷たい汗が伝うのを感じた。指先が小刻みに震える。彼はこれまで、数十の暗殺計画を立案し、数百の「始末」を実行させてきた男だった。




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