第20話 千尋を守る為に
予約設定を忘れていた為、本日は3話更新です汗
蒼生は無表情で、店の周囲をぐるりと見渡すと、すぐに千尋に向き直って笑顔になった。
「今日は疲れたでしょ、千尋。推しにも会っちゃって、緊張したんじゃない?」
「ほんとだよ~。予定外に緊張して疲れた~。」
「片付けは私がやっておくから、先に部屋でゆっくりしてきたら?食事の準備も私がしてあげるから。」
「えっ、いいよ。私もやるよ?」
「いーのいーの。それに、推しに会って話せた余韻をかみしめたいでしょ?」
「う……じゃあ、お願いします。」
その通りだったのだろう。千尋は照れたように赤面しながら、三階へと引き上げて行った。蒼生はエプロンを外し、カウンターに放り投げると、そのまま店の外に出て、店のドアのカギを閉めた。
「……誰かいるんですか?」
弱弱しい声で、茂みに声をかける。
「聖女さま!よくぞご無事で!」
情報部隊の二人の男は姿を現し、蒼生に駆け寄る。
「いったい何があったと言うのです?なぜアマルソフィアなどと働き、共に暮らしていらっしゃるのですか?」
「ここでは彼女に聞かれるかも知れません。少し離れませんか?」
「確かに。悪女のそばは危険です。」
「こちらに安全な森があります。人けはありませんので、お話でしたらそこで……。」
「かしこまりました。」
情報部隊は、蒼生に誘導されるがまま、森の奥へ、奥へと入って行く。
「ここまでくればOKね。」
蒼生はそう言うと、ゆらりと振り返った。
目が血走り、その目に狂気が宿る。
「あなたたち……あの子に危害を加えるつもりね?」
まるで全白眼のように、目をひんむいて、瞬きもせず見つめて来るさまは、美しい顔の筈なのに、男たちの背筋に怖気を走らせた。
「ここに連れて来たのは、あの子に気付かせない為。狙われていることを気付かせない為。あの子に聞かれたらまずいの。」
「せ……聖女さま?」
「あの子を傷付ける人間は、私がずっと排除してきた。前世でも、そしてこの世界でも。これからも、ずっとそう。――二度と、あの子を死なせない。」
蒼生の特技は、人の悪意や嘘を見抜くことだった。特に千尋関係となると、その嗅覚はより鋭くなる。
父親が浮気して、それを隠していた時、千尋の隣に住むために、祖父母にそれを報告し、両親を離婚させ、母親の実家へと戻った。
無邪気な千尋をだまして、3人がかりで襲う計画を同級生が立てていた時も。
職場の同僚が千尋をストーカーしていた時も。
千尋に近づくすべての悪意を、千尋に悟られることなく、蒼生は潰してきた。
「……知ってる?賢者にはね、対象を『雷の牢獄』に閉じ込めて、雷撃を浴びせ続ける魔法が使えるの。そして私は同時に聖女の回復魔法も使うことが出来る。」
「く……くるな!」
「それ以上こっちに来るな!」
ゆらりと一歩足を前に踏み出した蒼生に、なぜだか恐怖を感じて、そう叫んでしまう情報部隊の男たち。
「攻撃と同時に、治してあげる。簡単には死ねないように。私とあの子を引き裂く人間は、誰であろうと許してあげない。」
呪文を詠唱しつつ、肩幅に開いた蒼生の両手のひらの間に、内側に雷撃が走る、黒い球体が浮かぶ。
「て……撤退だ!本部に報告を!」
「無駄よ。この球は対象者を追尾する。この距離なら、はずさないわ。」
蒼生の詠唱が終わった瞬間、黒い球体は、情報部隊の男たち二人の体を取り込んだ。森に、男たちの絶叫が響いた。しかし声は球体の外には一切漏れない。完璧な密室。
蒼生は黒い球体をじっと見つめながら、満足そうに息を吐いた。
「へえ……声も漏れないのね。これはいいわ。」
蒼生が球体を解除する。黒い球体が消えた時、中から無傷の情報部隊の男二人が現れた。だが、それは肉体だけのこと。
いつ解放されるのかわからない、脱出できない球体。治されはしても、痛みがないわけではなく、暗黒の中で永遠に繰り返される雷撃。
人はそれを、拷問と呼ぶ。
訓練された騎士団の情報部隊と言えども、これには耐えられなかった。
「これは警告よ。あの子に手を出すなら、容赦なく始末する。……さあ、あなたたちの主人に報告なさい。ここには二度と近付くなとね。」
蒼生は傀儡魔法を情報部隊の男たち二人にかける。譲歩部隊の本部に、そして第一王子ルークに届くように。
男たちは糸の切れた人形のようにふらふらと立ち上がり、よろめきながら森を去っていくのを見送った蒼生は、その場に膝をついた。
「千尋に嫌われたくない。これ以上、化け物になりたくない……でも千尋を守るためにはこれしかできない。」
蒼生は頭痛でもするように頭を抱えて、そうボソリと呟いた。
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