第19話 迫りくる追手
「蒼生を悲しませたくないから、そんなに蒼生が嫌なら、もう推しの話はあんまりしないようにしたほうがいい?」
「別にいいわ。ただの推しなのは、わかってるし。正直ちょっとムカついて、ヤキモチを焼いただけよ。」
「はいはい、さみしかった?ごめんね。私の一番は蒼生だよ。アズアズはあくまで推しだからさ。」
千尋はそう言って、後ろから腰を抱かれたまま、蒼生の頭を撫でた。
蒼生は目いっぱい千尋の臭いを吸い込んで、自分の気持ちを落ち着けた。
「私がいない間に、変なことされなかった?」
「されないよ~も~。」
そう言って笑う千尋。
「……あなたがそう言ってくれる限り、私はあなたを閉じ込めないでいられるのよ、千尋。」
ポツリと、そう呟く蒼生。
試食を終えたアズライアンを見送る頃には、すっかり蒼生はご機嫌になっていた。
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千尋と蒼生がいなくなったマルカール王国では、新たな問題が勃発していた。
聖女アリシアの<豊穣>頼りで作物を育てていたことにより、あまり手をかけなくても作物が育つことに慣れてしまった農民たちは、仕事をサボるようになっていた。
聖女アリシアは既にいない。<豊穣>の祈りを行っていないことを知らずに、あまり農場に行かないようになっていた。あまり手をかけなくても育つ作物もあるが、雑草や虫食いに弱い作物は、日々の手入れが重要になってくる。
<豊穣>はそれらを無視するのだ。良質な土を作り、害虫や雑草を寄せ付けない。マルカール王国では、聖女のおかげで農民は楽して稼げる仕事という認知にまでなっていた。
アリシアが<豊穣>の聖女として、教会に見つけられてからのほんの数年。たったそれだけの期間でも、人を怠惰にするにはじゅうぶんな期間だった。
いざ畑に行くと、作物がまったく育っていない。それどころか、害虫や雑草にやられ、明日食べられるものもないようなありさまだった。
既に昨年収穫して保管していた小麦などがある為、今すぐ飢え死にするわけではないが、長い目で見た場合、食べるものがすぐに底をつくだろう。
また、冷害などにあった場合は、税金の免除が行われるが、それは領地をおさめる貴族たちに対してのみで、農民が領主に対して納める税金。いわゆる地方税のようなものは、支払わなくてはならない。
国は一部の地域から税金が入らずともやっていかれるが、農民からの税金がなければ貴族は最悪破産する。
その結果、大勢の農民たちが、聖女は何をしているのかと、王宮につめかけることとなった。
「──まだアリシアとアマルソフィアは見つからんのか!」
ルークは苛立たし気に机を拳で叩いた。
「アマルソフィアは少なくとも、ブリュンヒル王国以外には行かれない筈だ!着の身着のままで、隣国に追い出してやったんだからな!」
久しぶりに魔物狩りから戻り、ルークに報告に来ていたアインも同調する。
「少なくともあの見た目だ、金がないからには奴隷になっていることだろう。ブリュンヒル王国の貴族が所有する、奴隷を当たれとアドバイスしたのを忘れたのか?」
「……それなのですが、ルーク殿下。」
宰相の息子、ルキウスが、おびえながら言う。
そのブリュンヒル王国なのですが、最近国境の町で、とある店が有名になっているようなのです。」
「それがどうした。」
「食べると体が癒されたり、古傷が治ったりする料理を提供しているそうなのです。しかも、その店には、大量の魔物が、まるでペットのように接客をしているとか。」
「それが何の関係がある?」
「こうは思いませんか?聖女の癒しの力と、魔物を大勢従える力を持つ人間が、そこで働いていると。」
「まさか、アリシアとアマルソフィアが、同じ店で働いているとでも言うのか?自分を殺そうとした相手だぞ!?なぜそんなことが出来る!」
「……それはわかりませんが、現状なんの手がかりもないのです。情報部にその店を調べさせる指示を出していたけないでしょうか?」
ルキウスは提案は出来るが、情報部に調査の指示を出せるのは、王族と騎士団だけだ。騎士団は魔物討伐でそれどころでなく、なんなら情報部にも手伝って欲しいくらいなので、人探しに人手をさくことは出来ない。
「わかった。すぐに調べさせよう。ルキウス、指示書を用意しろ。サインする。アマルソフィアは手足がついていれば、状態は構わんとな。」
「かしこまりました。」
そうしてルークの指示書を携えた情報部隊が、ブリュンヒル王国の噂の出どころについて、調べることになった。
そして彼らは、アズライアンがもふもふカフェレストランから出て来るところを、近くの木々の間から監視していた。
アズライアンが帰って行くのを見送る為に、千尋だけでなく、今度は蒼生も店の外へ出て、小さく手を振っている。
情報部隊は通信具を取り出し、暗号用の通信指定番号を打ち、相手を呼び出した。
「……見つけました。聖女アリシアさまです。」
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