第17話 推しに手料理を食べてもらおう
「ほら、これ。やる。」
そう言って、シャパルの花をジャケットのポケットから出して、一輪差し出してくる。
「こ……これ、シャパルの花ですか?」
「好きっつってたろ?手土産だ。」
「──どうかしたの?」
定休日だと伝えるだけなのに、戻ってこない千尋を心配して、店の玄関にやって来た蒼生は、千尋がアズライアンと対面しているのを見て驚くと、「ちょっとごめんなさいね。」と言って、千尋を店のカウンターの奥へと引っ張っていく。
「ちょっと!あれ、アズライアンよね!?どういうこと?人質になっただけじゃなかったの?知り合いになったってこと!?」
「し、知り合いっていうか、ちょっとした顔見知りって言うか……。」
「──聞いてない。」
蒼生がプクーッと頬を膨らませる。
「私はなんでも千尋に報告してるのに、よりにもよって、千尋の推しが店に来るほど親しくなったなんていう、大事なことを黙っていたなんて。」
「ご……ごめん、ちょっと説明しにくかったって言うか。込み入った事情があったっていうか。」
「ひょっとして、私に『不死王の秘薬スープ』の再現を提案したのは、アズライアンが店に来る約束をしてたからなの?」
「ち、違うよ!偶然!前に店の前まで送ってもらったことがあって、食べ物やだったから食べに来たみたい。定休日だって知らずに。」
「そうなの?だったら、ラッキーじゃない。食べてもらいましょ、『不死王の秘薬スープ』。きっと喜ぶわ。」
蒼生は目を細めて、内心は面白くない気持ちを隠しつつ、千尋が喜ぶであろう言葉を言った。
「そ……そうだね!」
蒼生の態度にホッとしたように、緊張するな~と思いながら、料理を作る決意を固めた。
千尋は蒼生と打ち合わせを終えると、店の玄関へと戻り、待たせてしまったことをアズライアンにわびた。
「ごめんなさい、お待たせして。今日は本当は定休日なんですけど、ちょうど新作メニューの試食会をしてたんです。よかったら、感想を聞かせてもらえませんか?今までに食べたことのないものだと思います。」
「へえ?そんなに自信があるんなら、ちょっと食べてみるか。」
アズライアンはそう言って笑うと、もふもふカフェレストランの中に入って来た。
「今日、部下の方たちは?」
「置いて来た。ここに来るって知られたら、からかわれるからな。」
「カウンターとテーブル、どちらにしますか?」
蒼生が尋ねる。
「ならカウンターにするか。」
アズライアンはカウンターを選び、千尋は丁寧にすくった『不死王の秘薬スープ』を、カウンターテーブルに置いた。
「なんだこりゃ、凄い色だな。」
「まあ……見た目は……血の色みたいですけど。でも、味は保証しますよ!さっき二人で味見したばかりなんで!」
そう言われ、テーブルの紙ナプキンの上に置かれたスプーンを手に取ると、アズライアンは『不死王の秘薬スープ』をひと口、口にした。
粗野に見えて、こういうところのマナーはちゃんとしている。
こんなところも設定通りだ。上品に食べるなあ、と思いながら、千尋はドキドキしながら、アズライアンの反応を待つ。
「なんだこりゃ……うめえ!こんなスープ、飲んだことねえぜ!」
アズライアンは目を丸くしてスープを見つめている。そして、あっという間にスープをたいらげてしまった。
「なんか、体が妙に軽い気がするな。味も最高だったし、今度はちゃんと客として店にくるよ。」
「よかった……!今度から店に出す予定なんです、この『不死王の秘薬スープ』。」
千尋が笑顔でそう言うと、水を飲んでいたアズライアンがむせて噴き出す。
「は!?なんだそりゃ。なんでそんな名前に……。」
「あ……え、と、ほら、色からくるイメージで……?」
千尋はごまかすように言ったが、本来ゲーム内でこのスープに、『不死王の秘薬スープ』という名前を付けるのは、アズライアン自身なのだ。
ヒロインに名前を付けて欲しいと言われ、その名を付けた後、俺の秘薬なんだから、他の奴に飲ませんなよ、と言われるというエピソードがあるのだ。
アズライアンにつけてもらえば良かったな、と思ったが、それではヒロインの手柄を奪ってしまうことになるのではないかとも考える。
本来6年後まで出会えない筈だった為、現時点でアズライアンに飲ませる予定はなかったから、今後ヒロインがアズライアンに作って、スープに名前をつけてもらうことだって可能だった筈だ。その機会を奪ってしまった、と思う。
「お前……俺の二つ名、知ってたのか?」
「なんのことでしょう?」
今の時期にも既にもう、不死王と呼ばれているらしい。
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