第16話 意外なお客さん
「――錬金創造」
千尋の指先から淡い金色の光が溢れ、作業台の上に小さなガラス瓶が次々と現れる。
この力で、『星降る夜の銀果実タルト』と、『不死王の秘薬スープ』のレシピを事前に作っておいたことで、必要な材料がわかったのだ。
だが、レシピはあくまでレシピ。美味しく作るには、当然シェフとパティシエの実力が必要になってくる。
ガラス瓶の中には、月露草の葉から抽出した『月光エキス』、通常のバターに『星の雫』が練りこまれたバター、木の上の黄金鶏の鶏ガラを使ったフォンドボライユの下地に『活力のエキス』を入れたもの、などが入っている。
千尋が『星降る夜の銀果実タルト』を再現し、蒼生が『不死王の秘薬スープ』を再現すると、早速試食してみる。スープは血のように深紅に輝き、飲むと体が芯から温まるような感覚がした。
「ん~~!美味しい!コンソメスープとはまた違った美味しさね!」
「これは作るのが大変だから、二番だしも使わないとね。」
「子どもたちには二番だしでスープを作ったらいいんじゃないかしら。人数分これを一番だしで作るのは大変だもの。お客様にお出しすることも考えるとね。」
「そうね。料金もかなり取ることになるし、子どもたちに出すのは、ちょっと採算が合わないわ。」
千尋の言葉に蒼生がうなずく。
「ていうか蒼生、さっき子どもたちに嫉妬してたでしょ。」
「バレた?」
蒼生がペロッと舌を出す。
「私にはなんでもわかっちゃうんだからね?どうしたの?最近ちょっと怖いよ?前から私に誰かが近付くと、機嫌悪くなるのは知ってたけどさ。」
「うーん、こっちに来てから、私が頼れるのって、本当に千尋だけになっちゃったじゃない?もともと両親が死んで、あっちでもそうではあったけど、少なくとも職場の人とかいたわけじゃない。」
「まあ……それはそうだね。私も不安はあるよ。蒼生しか頼れる人はいないなって思うもん。でもだからこそ!たくさんこっちの人たちとも仲良くなって、新しい人間関係を構築していかないと!」
「……うーん、千尋はそうなの?私は、千尋さえいてくれたら、それでいいんだけどな……。私が千尋のことを大事にするだけじゃ、駄目なの?」
眉を下げ、困ったように言う蒼生。
「蒼生、私のこと大事にしてくれて嬉しいよ。でも……私、全部を蒼生とばかりやりたくない時もあるんだ。私は推しだって大事だし、彼氏も欲しいし、他の人ともかかわりたい。だから、ここの人たちと仲良くすることも許してよ。」
蒼生は一瞬表情を曇らせるが、すぐに笑顔を見せた。
「そうだね。あんまり千尋にばっかり、甘え過ぎちゃダメだよね。甘やかしすぎも……かな。」
そう、納得した風を装うが、内心新たに親しくなる人間なんて、別に作らせたくないと蒼生は思っていた。
「そうだよ。蒼生がそんなだからさ。私は他の人とかかわる時に、蒼生に悪いなって、罪悪感が生まれちゃうんだからね?ここに蒼生がいたらなって、さびしくなる時だってあるしさ。あんまり私を甘やかさないでよね?」
はいはい、と答える蒼生。
続いて『星降る夜の銀果実のタルト』を試食する。
「私、こんな美味しいもの食べたことない……こんな食べ物があるなんて……自分で作ったとは思えないくらいよ。」
千尋は目を丸くしながらそう言う。
「これ、完璧に再現できたんじゃない?」
普段クールな蒼生が、自分にだけ向ける笑顔で、嬉しそうに言う。
千尋が再現したがっていたレシピが作れたことを、こんなにも喜んでくれる蒼生。
思わずジーンとしてしまう。
この笑顔を守るために、私は何度でも死ねる。千尋はそう心から思った。
「これは出来たと言っていいと思う!」
両手の拳をぐっと握って、千尋がほほ笑む。
千尋と蒼生は向かい合って、互いの両手のひらをパチンと打ち合わせると、イエイ!と言った。
そこに、もふもふカフェレストランの扉がノックされる。
「お客さんかな?」
「初めての人は定休日を知らないものね。外にお休みのプレート、早く取り付けなくちゃ。」
「私、ちょっと伝えて来るね。」
千尋は立ち上がり、扉を開け、笑顔を浮かべた。
「ごめんなさい、表に書いてないんですけど、実は今日定休日で……。」
「なんだ、休みか、そりゃ悪かったな。」
そう言って軽く首を傾げてニヤリと笑っているのは、アズライアンだった。
思わず目を丸くする千尋。
「え、ど、ど、どうして。」
「店やってんだろ?食いに来ちゃ悪いかよ。それに──またっつったろ?」
そう言って目を細めるアズライアン。
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