第15話 子どもだろうが嫉妬の対象です
教会の裏手の農場へと到着すると、広い畑が広がっていた。聖女アリシア(蒼生)の〈豊穣〉の力で、すでにたくさんの野菜やハーブが青々と育っている。
さっそく種を植えようとすると、そこに教会の孤児たちが集まって来る。
十歳前後の男の子が二人、女の子が四人、六歳くらいの男の子が一人だ。
「まずはここに月露草の種を。銀果実はこの区画ね。みんなも手伝ってくれる?」
千尋が土を優しく掘り返しながら言うと、子どもたちは嬉しそうに手伝う!と手をあげて頷いた。
「うん。血の珊瑚草は水はけのいい場所がいいよね。みんな、スコップを持って集まって!」
蒼生がそう言う。すると、教会の孤児たちが、教会にスコップを取りに戻ると、再びわらわらと駆け寄ってきた。
一番年長の男の子が目を輝かせて千尋に抱き着きながら聞いた。
「今日は何を作るの?」
千尋が笑顔で答えた。
「今日は新しい植物を栽培するんだよ!お店の新メニューに必要な特別な果実とハーブなの。原作……じゃなくて、すっごく美味しいデザートとスープに使うんだ!」
子どもたちがそれを聞いて歓声を上げた。
「新メニュー!?もふもふカフェのやつ!?」
「私たちも手伝っていい?スコップ持ってきたよ!」
子どもたちも楽しそうにしている。
「さ、みんな手伝ってね!」
蒼生はそう言いながら、目だけ笑った笑顔で、それとなく千尋から、千尋に抱き着いた男の子を引きはがした。
栽培が始まった。まず、子どもたちが小さなスコップで丁寧に土に種を埋める。土は耕さずとも、蒼生のスキル<豊穣>で最適な状態にすることが出来る。
「ここ、ふかふかだよ!」
土に触れて嬉しそうな子どもたち。
「種、ちゃんと並べなくちゃ!」
ルルゥが尻尾の玉をじゃらじゃら揺らしながら、種の間隔に前足を土に入れ、調整してくれる。
パルゥは上空から「パルゥ!」と鳴き、種が飛ばないよう、風をコントロールしておさえてくれた。種を植え終えると、蒼生が両手を翳した。
淡い緑色の光が農場全体を包む――<豊穣>の力だ。
本来なら、成長を加速させる程度に力を注ぐものだ。国全体に力を行き通らせようと思うと、力が足りないからだ。
だが今蒼生はもふもふカフェレストランの為だけに力を使っている為、遠慮する必要がない。一気に種から、成長して実をつけるまで育ててしまう。
「わあ、銀果実の実がキラキラしてる!星みたい!」
男の子が背伸びしながら実を触ろうとする。するとと、パルゥが「パルゥ!」と注意するように鳴き、男の子の手をパシッと小さな力で払って止める。
蒼生が笑いながら言った。
「銀果実の実がキラキラしてるのは、棘が光ってるからなのよ。素手で触ったら危ないから、これを使って取ろうね。」
そう言って、トングを全員に配る。それで銀果実の実を掴んで、クイッとひねって実を収穫するのだ。
「みんな、準備できた?優しくね。中身はやわらかいから、傷つけないように!実がつぶれて、傷みやすくなるからね!」
銀果実は、星のように輝く銀色の棘の皮に包まれ、触れるとほのかに冷たくて甘い香りがした。
月露草の柔らかな銀緑色の葉を、血の珊瑚草の宝石のような赤い茎を、子どもたちが慎重に摘み取っていく。
「みんなのおかげで、すごく早く終わったよ。ありがとう!」
蒼生が優しく微笑んだ。子どもたちは胸を張り、大はしゃぎだった。
「これで絶対に美味しくできるね。お姉ちゃん。」
女の子がそう言って、笑顔で千尋に抱き着いた。
瞬間、再び能面のような笑顔になる蒼生。
「私たちも味見させてね!」
「新メニュー、楽しみ~!」
嬉しそうに、千尋の両手を両サイドから引っ張って、千尋に甘える子どもたち。
蒼生は内心、触ルナ、触ルナ!と叫んでいたが、顔だけはずっと、子どもや可愛いもの好きの千尋に合わせて笑顔を張り付けていた。
「この子たち、どこか遠くの教会に預けられないものかしら……。」
思わずそう呟いて、千尋に聞かれていなかったと知り、ホッと胸をなでおろす。
蒼生は千尋が自分以外に笑顔を見せるのが嫌いだ。自分が許可していない相手に触れられるのが嫌いだ。たとえそれは千尋の親であっても同じことだった。
ルルゥとパルゥも、浮かびながら「ルルゥ!」「パルゥ!」と喜びの声を上げた。厨房へ持ち帰った材料で、二人は本格的に調理を始める。
厨房の大きな作業台の上に、農場から持ち帰ったばかりの新鮮な素材がずらりと並んでいた。
銀色の輝きを放つ『星降る夜の銀果実』、銀緑色の柔らかな葉の『月露草』、深紅に脈打つような『血の珊瑚草』。他にも必要な材料を並べてある。
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