第11話 新たに転生した2人
女性の目が、狂気じみた光を帯びる。
「アクセルさまは誰にも渡さない……!渡すくらいなら、私と一緒に死んで!」
次の瞬間、彼女の手には銀色のナイフが握られていた。
彼は咄嗟に後ずさり、厨房の方へ逃げようとした。しかし、女性の動きは予想以上に素早かった。
背中に鋭い痛みが走り、視界がぐらりと傾く。血の匂いが鼻を突いた。
「う……あ……!」
床に崩れ落ちる間際、女性の歪んだ笑顔が最後に見えた。
それから――意識が途切れた。次に目が覚めた時、彼は知らない天井を見上げていた。体中に痛みはない。
刺されたはずの背中も、血の跡もない。
女性の姿も、どこにもない。
代わりに、柔らかいベッドの上に横たわっていた。
身に着けているのは、見覚えのないシルクのようなパジャマ。
部屋は豪奢で、どこか中世ヨーロッパを思わせる調度品が並んでいる。
「いかがされましたか、アクセルさま?」
優しい若い女性の声が、すぐ近くから聞こえた。
メイド服のような服装の少女が、心配そうに覗き込んでいる。彼は体を起こし、眉を寄せた。
「……どなたですか?」
その言葉に、少女が少し首を傾げる。
「アクセル、とこかで聞いた名前だ……。」
彼は無意識に呟きながら、周囲を見回した。寝ぼけていらっしゃるようですね、と少女が微笑む。
「顔を洗われた方がいいですよ。」
促されるままにベッドから降り、部屋の奥にある洗面所へ向かった。
冷たい水で顔を洗い、鏡に向き合う。
そこに映っていたのは――自分に似ている、けれど明らかに違う顔。
外国人風の整った輪郭。深い青みがかった黒髪、優しい印象の青い目。
彼は知らない。ここがゲームの中だと言うことを。
自分が<悠久のロマンスを君と2人で>というゲームの攻略対象者である、アクセル・ラーゲンに転生してしまったことを。
「……は?」
彼は鏡に手を伸ばし、自分の頰を触った。
鏡の中のイケメンも、同じ動作をする。
声が出なかった。
心臓が、激しく鳴り始めた。
「……僕、どうなってるんだ?」
少女が洗面所の入り口から、穏やかに声をかけてきた。
「アクセルさま、朝食のご準備ができました。食堂に参られますか?それともこちらにお持ちいたしますか?」
体は空腹を主張するように腹が鳴った。持ってきてもらうよう頼むと、メイドは部屋を出て行った。
彼――今はアクセルとなった男は、ベッドの上に座りなおして、ゆっくりと息を吐いた。
知らない世界。
知らない顔。
彼はまだ知らない。
千尋と蒼生の二人がすでにこの世界で、もふもふカフェレストランを切り盛りし、互いの絆を深めていることを。
そして、自分がこれから、ゆっくりとその物語に絡んでいくことを。
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「やった……やったわ!まさか、<悠久のロマンスを君と2人で❝2❞>に転生出来るなんて!待っていてね、本物のアクセルさま。あんな偽物じゃなないあなたに、今すぐ会いに行きます……!」
美しい少女は醜く顔をゆがめて、頬に両手を添えて、だらしなくほほ笑んでいた。
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次の日、アズライアンのアジトでは、部下の一人が分厚い法律書を広げて真剣に説明していた。
「ボス、人質を取った場合、法的に賠償金を支払う義務が発生します。しかも、支払い能力があれば強制執行されるシステムなので……例の女の子に、ちゃんと渡しておいた方がいいかと。」
アズライアンはソファに深く腰掛けたまま、銀髪を乱暴にかき上げた。
「……めんどくせえ。まあ、迷惑かけたのは事実だ。カフェに届けてくるか。」
部下たちがニヤニヤしながら出かける支度を準備する。
アズライアンは黒いコートを羽織り、赤い三白眼を細めてため息をついた。
『あの薬、予想外に効いたし……礼くらいは言っておくか。』
一行は教会近くのもふもふカフェレストランへと向かった。
しかし、エアバイクを走らせられない狭い路地の途中の路地で――「助けて……!」という聞き覚えのある声に、アズライアンの足が止まった。
路地奥で、ならず者らしき見た目の男たちが千尋を囲んでいた。
彼女は両手を上げ、涙目で震えている。アズライアンの表情が一瞬で凍りついた。
「……やっぱり人質ビジネスじゃねーか!」
「違います……!助けてください……!本当に、ただの通りすがりなのに……!」
涙目で訴える千尋の顔を見て、アズライアンの胸がざわついた。
部下たちが「あー、またか」と呟く中、アズライアンはコートを翻して飛び出した。
銃を抜き、男たちを威嚇しながら千尋の腕を掴む。
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