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終章 人形師の企み

 笑い顔の仮面を被った、豪奢なマントに継ぎ接ぎの道化服という出で立ちの男が、粗末な等身大の木彫りの人形の前に立っていた。彼のいる薄暗い部屋には、まだまだ多くの人形がありそうだがそのすべては薄闇に沈んでいて見えなかった。

「風の王妃、戻すの?」

白衣の女性が彼に声をかけてきた。

「姉上の迷惑になるといけない。ほとぼりが冷めたらまた入れ替える」

「そう」と白衣の女性は冷ややかな瞳で頷いた。

「ねえ、あの風の精霊の女を許しておくの?」

男は振り返った。

「離婚は姉上に阻止された。それが答えだ」

「だけど……」

彼女は不満げだ。

「余は、姉上の幸せだけを願う」

「それは!」

「動くな。逆らうのならば、関係はこれで終わりだ」

白衣の女性は押し黙った。

風の王妃の傀儡を使い、あのシャナインという女にギンヨウを裏切る行動を促そうとしたが、それをギンヨウ自身に察知されて回避された。

だが、あの女、ギンヨウの言葉がなければ、傀儡の手紙にあった「子を処分することが、ギンヨウの為になる」という言葉を鵜呑みにしただろう。あんなに、ギンヨウが我が子を切望していたというのに、それに気がつくことなく。しかしながら、傀儡からの贈り物を口にしても、流産なんぞしない。男の目的は、シャナインには子を産ませ、我が子を殺そうとしたとして離婚させるつもりだったのだ。我々がギンヨウの子を殺すはずがないのだ。彼女の、いや、今世では彼の幸せを守る為にいるのだから。

「ねえ、風の王妃を入れ替えるまでの間、どうするの?」

ギンヨウは傀儡の排除までした。それは致し方ない。こちらが味方だとは知らないのだから。むしろ、容赦なく暴いて排除した態度は、惚れ惚れするほど威厳に満ちていた。

男は思案するように上を向いた。

「余が探りを入れよう」

「あなた自ら?大丈夫なの?」

彼女は案ずるように難色を示した。

「風の王を侮りはしないが、ノインにさえ気をつければ、短期間の接触で我々の存在が露呈することはない」

「ノインを認めているのね」

「騎士だ。不甲斐なくても」

わかりきったことを言うものだ。ノインは今世でもギンヨウを選んだ。これまで、風の王・リティルに雁字搦めだったというのに、ギンヨウを認め、自分の心を優先した。今までの彼からは信じられない行動だ。これは、真に黄昏の大剣として目覚めたのだろう。前世の記憶はないようだが、それでもギンヨウを選んだその心は本物だと男は思う。ならば、これほど心強いことはない。

「どうして同じことをするのかしらね?」

「世界の嫌がらせだ。しかしそれは、ノインのせいではないよ。あれが黄昏の大剣を継承した時、姉上はまだ目覚めていなかった。それに、姉上は今世では男性だ」

「そうだけど、ノインの妻は風の王の守護精霊よ?障害になるわよ?」

「それはその時だ」

男は人形に向き直った。彼の手にはいつの間にか仮面が握られていた。

「排除などいつでもできる」

男が人形に仮面をかぶせると、その姿が風の王妃・シェラに変わった。だが、シェラは瞳を開かない。人形のようにただ立っているだけだった。

「今世では必ず、あなたを幸せにしたい。ギンヨウ……」

グッと男は胸の前で固く拳を握った。彼の隣で白衣の女性も胸に手を当てた。


 ルリホシは、許嫁のリフラクがいる太陽の城に暮らしていた。

父と母は風の城という所にいるが、父はしょっちゅう会いに来てくれる。父親のギンヨウは料理が上手くて、母親のシャナインはとても強い。らしい。母にはあまり会ったことがないのだ。許嫁のリフラクは優しいが、どこか得たいが知れない。義兄弟だという太陽光の精霊・レイシが心配して「変なことされてない?」と聞いてくれるがリフラクにつきまとう数々の噂を体験したことはなかった。

それに、ルリホシには秘密の友達がいる。

「ルリホシ、息災か?」

夢の中に現れる、風の精霊だ。ノインと同じ仮面をつけている、金色の美しい長い髪の人だ。背格好はノインと同じだと感じている。故に、髪の長い金色の色素を持つノインのような認識だった。名乗った名も「イン」という風という意味の言葉だし、もしかするとノインなのかもしれないと思っている。

「イン!うん、元気よ?」

短く、夢の中でいろいろな話をするのが毎晩の日課だった。彼の夢を見るのは本当に短い時間だ。あまり長居するのは危険だといって、インはすぐにいなくなってしまう。引き留めても、やんわりと諭されてしまって引き留めさせてくれない。

ノインなのかもしれないと思った時からずっと、ルリホシは妄想なのだと思っていた。ノインとギンヨウは喧嘩ばかりしているが、ノインのギンヨウを見つめる瞳が優しいことをしっているルリホシは、きっと父にノインと仲良くしてほしくてこんな夢を見るのだと思っていた。だが、違うのかもしれないことを、知ってしまった。

「イシュラースには、この昼の国・セクルース以外に、夜の国・ルキルースってのがあるんだ。そこは夢の国で、こっちとはいろいろ常識が違ってる」

教えてくれたのは、レイシだった。リフラクもギンヨウもガードが堅いが、レイシは甘い。ルリホシがギンヨウと一緒に作ったお菓子でもてなすと、知りたいことを教えてくれるのだ。

「ルキルース……」

毎晩夢に現れるインは、ルキルースにいるのだろうか?どうして、ルリホシの夢に出てくるのだろうか?どうして、ギンヨウのことを聞くのだろうか?ノインと同じ、心配そうな目をして。

「あんまりお勧めしないよ。まあ、行けないだろうけど」

「行けないの?」

「ルキルースに入るには手順があるから。まさか、行きたいとか言わないよね?お姫様」

「行きたい!レイシは行けるの?」

「オレは……まあ」

目が泳いでいる。この人は嘘が苦手だ。行き方を知っているのだ。

「ねえ」

「ダメだよ。さすがのオレもそれはできないよ。君はギンヨウの娘だし、リフ兄の大事な人だから」

レイシは渋った。迂闊な彼のこんな態度から、ルキルースは相当に危険な場所なのだと察しはついた。インも危険だからと長居しない。そのこともルリホシに危険なことだと教えてくれていた。だが、現実のインに会いたい。彼がノインなのだとしたら、なぜそんなことをしているのか聞きたい。ノインは、ルリホシのことを避けている。近づくなオーラで近づけないノインだが、インになら近づけると思うだけにルリホシの想いは募ってしまっていた。

「お願い、ルリをルキルースに連れてって」

「ダメ!ダメだよ」

レイシは絆された顔をしながらも、ルリホシのお願いを断った。でも、1回断られたくらいで諦めたりしない。こちらでは近づけないノインに、近づいてやるのだ!

ルリホシは使命感に燃えたのだった。

これにてワイルドウインド滅3終幕です

楽しんでいただけたなら幸いです

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