黒き魔王と舞桜ちゃんストップ
前書き
2020年。世界はまだ、非効率という名の「バグ」に支配されていた。
国境、エネルギー、食糧、そして老い。人類が「仕方ない」と諦めていたそれらのノイズを、山梨の最高学府に君臨する一人の少年が、和算の漸化式と不遜な合理性で次々とデリートしていく。
「我慢は身体に良くねえんだわ」
その一言から始まる、地球資産の再定義。
地中海の底に眠る数千年の遺産を「ボランティア」と称して略奪し、植物の生存戦略を書き換えて麻薬と竜巻を消滅させ、化石燃料を「ただの燃える水」へと格下げする。
若返ったアメリカ大統領を「ユーザーインターフェース」として顎で使い、日本の総理大臣を「賑やかしの公僕」として絶望の淵に叩き落とす。
これは、最強の野生児・万桜と、彼を包囲する美しき天才美女たち――医学の徒・勇希、経済の支配者・舞桜、そして天真爛漫な莉那――が、既存の世界という名の旧式OSを強制リブートし、失われた「全盛期の輝き」を取り戻していく物語である。
さあ、シートベルトを締める必要はない。
断熱膨張の風に乗り、時速1000kmの「全盛期」へと、最短経路で突入しよう。
「……アメリゴ、また来たのか。おまえ、ホワイトハウスに自分の席ねえのかよ?」
万桜は、講義棟の階段に腰掛け、アボカドシェイクのストローを噛みながら、やってきた「世界の覇権」をジト目で迎えた。
2020年、1月中旬。本来なら赤坂の迎賓館で行われるはずの日米首脳会談は、外務省の「合理的判断」により、山梨県・甲斐の国大学のキャンパスへと強制パッチが当てられていた。
日本の外務省は、無能ではない。彼らは理解していたのだ。大統領を高級料亭に閉じ込めても、彼は窓を突き破って万桜たちの元へ脱走しに行くということを。ならばいっそ、最初から「魔王の玉座」を会談場に設定するのが、外交上の最短経路である。
「万桜ボーイ! 我慢して椅子に座っているのは身体に良くないからな! 私は形式という名のバグをデリートして、全盛期の知性に会いに来たのだ!」
大統領は、シークレットサービスを置き去りにして全力疾走で現れると、万桜の隣にどっかと座り込んだ。
若返った大統領の肌は、甲斐の国の乾いた風を受けて全盛期の輝きを放っている。
「……大統領、少しは手順というものを! 私、さっきからずっと車でおいかけていたんですよ!」
遅れて到着した総理大臣が、肩で息をしながら現れたが、大統領は一瞥もくれない。
「総理、君は向こうのワゴンで『ホットドッグ』でも食べて待っていなさい。今、私は万桜ボーイと地中海のレアメタル配分について、全盛期の脳でディスカッションしているんだ!」
「はいはい、総理さんもお疲れさま。ほら、これでも飲んで落ち着きなさいよ」
勇希が、医学的な「鎮静」を目的とした特製ハーブティーを総理に差し出した。
「大統領のバイタル、今は万桜と話してアドレナリンが最適化されてるから、邪魔すると逆に危険なのよ。医学的には、このまま放置するのが正解ね」
「そうよ、総理。外交儀礼という名の『コスト』を削ぎ落とした結果が、この風景よ」
舞桜が、校舎の影から優雅に現れ、扇子を広げた。
「茅野建設がこのキャンパス周辺を『全盛期特区』としてインフラ再構築したわ。ここはもう、既存の国家プロトコルが通用しない、論理の聖域なの」
その傍らで、総理大臣は外務省が用意した「首脳会談用・金屏風(持ち運び式)」を虚しく抱えながら、
「……私の存在意義は、もはやこのキャンパスの『賑やかし』でしかないのか……」
と、冬の陽光の中で静かに悟りを開くのであった。
★ ◆ ★ ◆ ★
時は、しばし遡る。
2019年12月上旬。ワシントンにて。
「……地中海掃除だと!? 万桜ボーイ、おまえはついに、地球の胃袋をデバッグする気になったのか!」
大統領は、若返った瞳を「$」の形……ではなく、全盛期の輝きでギラつかせ、身を乗り出した。
万桜が提示した、ボランティアという名の「歴史的資源のハッキング」。
地中海の海底に数千年にわたって堆積した、沈没船の金銀、青銅、そして産業革命以降の重金属粒子。それは人類が垂れ流した「負の遺産」という名の、超高純度な「レアメタルの鉱脈」である。
「アメリゴ。海を綺麗にするのは善行だろ? 我慢してヘドロを放置するのは環境というシステムにとって良くねえって思わねえか?」
万桜は、傲慢なまでに平然と言い放った。
「なあについでさ、ついでジェルUFOでついでに掃除するだけさ……あ、ついでに回収した『金属資源』は、俺たちが有効活用してやるから安心しろよ」
「ちょっと待ちなさいよ、万桜!」
勇希は、医学的な警戒心で叫んだ。
「地中海の重金属を全部引っこ抜くなんて、そんな急激な『生体デフラグ』を海に施したら、プランクトンのバイタルが急変して、生態系のバイナリが壊れちゃうわよ!」
「はいストップ! 国際法ストップ!」
舞桜が、扇子で万桜のノートを物理的に閉じ、その略奪計画を封印した。
「万桜くん。その『掃除』で回収される資源の総額、ざっと計算しただけで数カ国の中央銀行を買い叩けるわよ。これはボランティアではなく、茅野建設による『地球資産の再定義』プロジェクトとして進めるべきだわ!」
「わかっている! わかっているとも、ミズ・チノ!」
大統領は、万桜がもたらした「全盛期の略奪」に陶酔し、補佐官に向かって咆哮した。
「我が国の第6艦隊は、今日この瞬間をもって『地中海掃除当番』に再編される! 万桜ボーイのアルゴリズムに従い、海底のヘドロという名の『全盛期の富』を吸い上げるのだ!」
「……あ、アメリゴ大統領! それは周辺諸国との領海権バグが……いや、そもそも公私混同が……!」
大統領補佐官は、世界のリーダーが「世界最大の資源強盗」をボランティアと称して合意していく光景に、全盛期の眩暈を感じてよろめいた。
万桜は、アンドロイド越しにジト目で大人たちを見やり、不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「まあ、地中海が風呂桶みたいに綺麗になれば、観光客のバイタルも最適化されるだろ。ついでにフェニキア時代の金貨でも見つけたら、サブリナにアイスでも買ってやるよ」
「ええっ、マジ!? 万桜、超全盛期~! あたし、地中海ブランドの金貨チョコがいいな~!」
莉那が天真爛漫に飛び跳ね、ついに「地球規模の資源デバッグ」へとオーバーフローしていった。
★ ◆ ★ ◆ ★
2020年1月中旬の甲斐の国大学。去年引き揚げた海底の泥で育てた植物は数千年分の金属粒子を吸い上げていた。セイタンシステムズの取り分は2割の予定だったが、あまりにも膨大な量だったため、万桜は、研究成果物を放出することにした。
「……オールライト! 万桜ボーイ、おまえは今日、サンタクロースより先に『全盛期の奇跡』をデリバリーしに来たのか!」
大統領は、若返った瞳に地中海の財宝という名の「$」……もとい、未知のテクノロジーへの渇望を宿らせ、椅子を蹴り飛ばして叫んだ。
万桜が提示した、地中海の海底掃除の副産物。
それは数千年分の沈没船から溶け出した金銀、そして産業廃棄物が堆積した「不純なゴミ」という名の、地球上で最も濃縮された「レアメタルのスープ」である。
「アメリカン。金属粒子のフィルタリング、和算の漸化式でソートしたら、予定より一桁多く回収できちまったわ。我慢して保管しておくのはスペースの無駄だし、身体に良くねえんだわ。なんか欲しいもんあるか?」
万桜は、アボカドシェイクをズズッと啜りながら、傲慢なまでに平然と言い放った。
その背後のモニターには、植物が、地中海のヘドロを「純金」や「パラジウム」の結晶に書き換えていく、錬金術じみたログがレンダリングされている。
「本当か? どれでもいいのか! 総理! 万桜ボーイの研究リストをすぐにくれ! 今すぐだ!」
大統領は、総理大臣の胸ぐらを全盛期の握力で掴み、激しく前後に揺さぶった。
「ひ、ひえぇ……! 大統領、落ち着いてください! 確かにリストはありますが、これは本来、我が国の国家機密という名のバグが……いや、そもそも予算の枠組みが……!」
総理大臣は、日米のトップ会談が「地中海の宝探しのお裾分け」という、アホの子レベルの物々交換に変質していくのを目の当たりにし、脳内の行政システムがオーバーフローを起こして白目をむいた。
「いい加減にしなさいよ、万桜!」
勇希は、万桜の耳を力強く引っ張り、医学的な倫理観で叫んだ。
「その回収した金属粒子には、古代の鉛中毒のバグや、現代の産業汚染のノイズが混ざってるのよ! ちゃんと『生体デフラグ』をかけてからじゃないと、アメリゴの新しい毛根に金属アレルギーが出ちゃうわよ!」
「はいストップ! 資源配分ストップ!」
舞桜が、扇子で大統領と総理の間に割って入り、その欲望の暴走を封印した。
「万桜くん。地中海産のパラジウムとプラチナは、全量買い取るのが条件よ。大統領、おまけで『ホワイトハウス専用・純金スチームジェット風呂』の設計図くらいなら、パッチを当ててあげてもよくてよ?」
「オーマイガー! ミズ・チノ、君は女神だ! 全盛期の女神だ!」
大統領は歓喜のステップを踏み、もはやパラリンピックの閉会式は「地中海財宝分配パーティー」の様相を呈していた。
「……たく。アメリゴ、おまえは相変わらず話が早いな」
万桜は、真っ赤になった耳を擦りながら、ジト目で大統領と天才美女たちを見やり、不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「まあ、地中海からノイズが消えて、代わりに全盛期の金属資源が手に入るんだ。これこそが地球規模の全体最適化だろ」
★ ◆ ★ ◆ ★
「なに!? 万桜ボーイ! それは本当になんでも良いのか!?」
大統領は、若返った瞳をさらに大きく見開き、机から身を乗り出した。
万桜の手から差し出された「手前ミート」の設計図を、震える手で受け取る。
「この『物理的な掃除機』で地中海を綺麗にしたお礼だ。アメリゴ、持って行けよ」
万桜は、興味なさそうに耳をほじりながら、究極の食の再構築理論を譲り渡した。
「総理! 聞いただろう! 今すぐにこのデバイスの製造ラインを、五大湖周辺に確保しろ!」
大統領は、背後に控える日本の総理大臣を、まるで秘書のように指図した。
「一頭の家畜を何倍にも増幅し、国民に全盛期の肉体をデプロイできるだと!?」
設計図に書かれた、蒟蒻と寒天による「人工のサシ」の記述を食い入るように見つめる。
大統領の脳内では、すでに全米のハンバーガーショップにこのデバイスが設置される未来がレンダリングされていた。
「これがあれば、合衆国の農務省が抱える在庫ロスも、肥満問題も一気にデバッグできる!」
大統領は、興奮のあまり万桜の肩をガシガシと揺さぶった。
「万桜ボーイ。おまえは資源だけでなく、食卓の平等までもたらすのか!」
「うるせえな、ただの物理現象だ。粉豆腐とおからでカサ増ししてるだけだぞ」
万桜は、鬱陶しそうに大統領の手を払い除けた。
「粉豆腐だろうがなんだろうが構わん! この『官能的な満足感』が、粉から生まれるということが重要なのだ!」
大統領は、天を仰いで哄笑した。
「これで我が国のCEOたちも、バイタルを落とさずにステーキを食い続けられるな!」
その光景を横目で見ていた莉那たちが、呆れたようにため息を吐く。
「大統領、テンション高すぎ。ギャル的に引くわ~」
莉那は、手前ミルクのジェラートを頬張りながら、軽く手を振った。
「サブリナ、あれは国家を再起動させる喜びなのよ。医学的にも、あの高揚感はドーパミンの異常分泌ね」
勇希は、冷静に大統領のバイタルを観察し、手帳にデータを書き留めた。
「万桜。アメリカにこの『手前ミート』を渡すなら、交換条件に、向こうの最新の医療用スパコンの演算リソースを、全部こっちに回させなさいよ?」
勇希の鋭い提案に、大統領は即座に親指を立てた。
「オーケー! ドクター勇希! ホワイトハウスのサーバーも、NASAの回線も、万桜ボーイの好きに使わせよう!」
大統領は、万桜の設計図を宝物のように抱え込み、満足げに頷いた。
「これで、合衆国の全盛期は、地中海の掃除と、この魔法の粉から始まるのだ!」
「ボランティアって言えよ、アメリゴ」
万桜は、再びジト目で、略奪という名の清掃活動を念押しした。
★ ◆ ★ ◆ ★
「あとは地球エアコンも持ってくか? これ中米にコッソリと設置すりゃ、麻薬が消えるぜたぶん。二次代謝産物を産まねえもん」
万桜はなんてことないように投げ掛ける。
「……万桜ボーイ。おまえ、今さらりと『地球を救う』より恐ろしいことを言わなかったか?」
大統領は、手にした「手前ミート」の設計図を落としそうになりながら、掠れた声で聞き返した。
万桜が提示した「地球エアコン」の真の効能。
それは、単なる気温の制御ではなく、植物の「生存戦略」そのものを書き換えるという、生物学的なデバッグであった。
「二次代謝産物を産まねえ……。つまり、コカもケシも、ただの『観葉植物』に成り下がるということか!」
大統領は、戦慄とともにその論理を飲み込んだ。
植物が、身を守るためや子孫を残すために生成するアルカロイド。
その生成プロセスを、地球エアコンによる「最適化された気候」が、植物に「ここは天国だから毒を造る必要がないぞ」と錯覚させてデリートしてしまう。
「これがあれば、合衆国が数十年と数兆ドルを投じてきた『麻薬戦争』が、物理的に終結する! 弾丸一発撃たずに、供給源を『無力化』できるのか!」
「おまえ、そんなに驚くことかよアメリゴ。植物だって我慢は身体に良くねえんだわ。楽させてやりゃ、余計なもん造らなくなるのは当然の理屈だろ」
万桜は、鼻を鳴らしてジト目を向けた。
「あと、ついでに言っておくけどよ。竜巻もこれで消せるぜ。たぶんな」
「……竜巻を、消す?」
大統領は、もはや思考が追いつかず、石像のように硬直した。
「竜巻なんてのは、急激な温度差が生む『大気のパニック』だ。パッチ当ててやるみたいに、局所的に極低温をぶち込んで、温度勾配をなだらかにしてやりゃいい」
万桜は、虚空をなぞって大気の流れを解説した。
「不自然な上昇気流を、物理的に『アイシング』してやるんだよ。そうすりゃ、あの巨大なバグも消滅する。中西部の連中に言っておけよ。これからはシェルターに隠れる必要はねえってな」
「総理ッ! リストだ! リストを更新しろ! 最優先事項は『地球エアコン』だ!」
大統領は、もはや絶叫に近い声を上げた。
麻薬撲滅と、巨大竜巻の消滅。
それはアメリカという国家の宿痾を、万桜の「理不尽な合理性」が一撃で切除することを意味していた。
「万桜ボーイ……。おまえをホワイトハウスに連れて帰れないのが、我が人生最大のバグだ!」
大統領は、感極まったように万桜を抱きしめようとしたが、万桜は華麗にステップを踏んでそれを回避した。
「暑苦しいんだよ。やるならコッソリやれよ? 目立つと勇希たちがうるせえからな」
万桜の言葉に、勇希と舞桜が、背後から冷徹な視線を突き刺した。
「「もう遅いわよ、万桜!」」
二人の天才美女の怒号が、全盛期の大統領の歓喜をかき消すように響き渡った。
★ ◆ ★ ◆ ★
「いやー。我慢は身体によくねえからな。てか地球エアコンって発電できるからな。化石燃料って、もう燃える水に過ぎねえわ」
万桜はさらに投げ掛ける。
「万桜ボーイ! 頼むからこれ以上、私の心臓に過負荷をかけないでくれ!」
大統領は、若返った顔面を蒼白にさせ、断熱膨張で冷え切ったはずのキャンパスで大量の汗を流した。
万桜がさらりと口にした、エネルギーの完全平定。
それは、中東の油田も、ロシアの天然ガスも、合衆国のシェールガスさえも、ただの「燃えるだけの不純な液体」に格下げする宣言であった。
「地球エアコンで発電……。そうか、断熱膨張と断熱圧縮のサイクルそのものが、巨大なスターリングエンジンとして機能するのか!」
大統領は、膝をがくがくと震わせ、ベンチに崩れ落ちた。
「電力を消費して冷やすんじゃない。冷やすプロセスそのものが、無限のエネルギーを生み出す『永久機関』に近い物理現象なのか!」
「だから、おまえら大げさなんだよ」
万桜は、ジト目で大統領を見上げ、小馬鹿にしたように鼻を鳴らした。
「風が吹けば、そこには温度差が生まれる。温度差があるなら、そこにはポテンシャルエネルギーがある。それを回収して、システムに戻してやるだけだろ。我慢してエネルギーを捨てるなんて、それこそ非合理的だぜ」
万桜は、足元の蓄冷流体が流れるパイプを指差し、悪ガキの笑みを浮かべた。
「これで……。これで人類は、たった一滴の油を巡って殺し合う必要すらなくなるのか!」
大統領は、万桜の設計図を抱きしめたまま、感極まったように叫んだ。
「地中海の資源を掃除し、手前ミートで飢えをデバッグし、地球エアコンで気候とエネルギーを支配する……。万桜ボーイ、おまえが創り出す世界は、もはやユートピアを通り越した『全盛期の地球』そのものだ!」
「アメリゴ、うるせえ。オレはただ、勇希たちの情愛ノイズから逃れるための『静かな空間』が欲しかっただけだぜ」
万桜は、耳を塞ぎながら、逃げるようにその場を離れようとした。
しかし、その背後には、すでに「世界規模の文明シフト」を査定し終えた舞桜と勇希が、獲物を狙う猛禽類のような眼光で立ちはだかっていた。
「逃がさないわよ、万桜。地球規模のエネルギー革命を『我慢は身体に良くない』なんて理由で片付けられてたまるもんですか!」
勇希が、万桜の襟首をガシッと掴み、医学的な執念でその論理を問い詰める。
「万桜くん。この『燃える水』と化した石油利権をどうソフトランディングさせるか、今すぐわたしと会議室で、一対一で議論しましょう?」
舞桜もまた、お嬢様スマイルを崩さないまま、万桜の退路を完璧に封鎖した。
「……あー。アメリゴ、助けろ! ソウリさんでもいい! 誰かこのバグどもを隔離してくれ~!」
万桜の悲鳴が、物理的に最適化されたキャンパスに、非合理なエコーを伴って響き渡った。
「……総理。聞こえるか。今すぐ日本の石油備蓄基地を、すべて『万桜印の蓄冷センター』に書き換える予算を組め」
大統領の声は、かつてないほどの覇気に満ちていた。
「我々人類は、今日この瞬間、化石燃料という名の『原始的な焚き火』を卒業したのだ!」
電話の向こうで、日本の総理大臣が椅子から転げ落ちる音が聞こえたが、大統領はそれを心地よいBGMとして聞き流し、万桜がもたらした「全盛期の設計図」に、力強くキスマークをつけた。
★ ◆ ★ ◆ ★
「いやおまえ、車の動力は、あ、風でいいか。昇華ガスもあるし要らねえや」
「……万桜ボーイ。おまえは、我が国の基幹産業を、道端の小石のように蹴り飛ばすつもりか!?」
大統領は、若返った顔面を痙攣させ、万桜の言葉の衝撃に耐えようと机を両手で掴んだ。
万桜がさらりと口にした、内燃機関の死亡宣告。
それは、フォードもGMも、そして世界の自動車メーカーが積み上げてきた100年以上の歴史を、一瞬で「過去の遺物」へとデリートする不遜な合理性であった。
「車なんて、ただの箱だろ? 地球エアコンで気圧差を作れるんだ。そこら中の風を拾ってりゃ、勝手に動くぜ」
万桜は、興味なさそうに、宙に指で「空気の流れ」を描いてみせた。
「足りなきゃドライアイスの昇華ガスでブーストすりゃいい。排気ガスはただの二酸化炭素だ。それをまた、地球エアコンの蓄冷流体で凍らせて戻せば、完全なクローズド・システムだろ」
万桜の脳内では、もはや「給油」や「充電」という概念さえ、システムの非効率な「ノイズ」として処理されていた。
「風とガスだけで、大陸横断鉄道より速く走るというのか……。しかも、排出されるのはただの冷たい空気か!」
大統領は、膝の震えを抑えるために、自分の太腿を強く叩いた。
「万桜ボーイ。おまえの言う通りだ。これからは、化石燃料を燃やしてピストンを動かすなど、原始人の焚き火遊びに等しい!」
大統領は、窓の外に広がる甲斐の国大学の平穏な景色を見つめ、新しい世界の夜明けに歓喜した。
「万桜くん。その『風で動く車』の特許、茅野家が独占的に管理させてもらうわよ?」
舞桜が、お嬢様スマイルの裏側に、世界経済を再構築する冷徹な算盤を弾きながら歩み寄った。
「万桜。あんたの言うことはいつも極端だけど、移動のコストをゼロにするっていうのは、医学的にも人々のストレスをデリートする素晴らしいアプローチだわ」
勇希は、万桜の脈拍をチェックしながら、その「全盛期の交通」の有用性を承認した。
「……あー、好きにしろよ。オレはただ、もうガソリンスタンドに寄る時間が無駄だと思っただけだぜ」
万桜は、ジト目で大統領と天才美女たちを見やり、不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「我慢は身体に良くねえだろ? 止まりたい時に止まって、動きたい時に勝手に動く。それが一番合理的だわ」
万桜は、再びベンチに身を沈め、世界を塗り替えた自覚もないまま、心地よい断熱膨張の風に目を細めた。
「総理ッ! 聞いたか! 我が合衆国のハイウェイを、すべて『万桜ストリーム』に書き換えるぞ!」
大統領は、補佐官に向かって咆哮した。
「これからは、車は風を食べて走るのだ! 全盛期のアメリカは、もう誰にも止められない!」
その横で、万桜は「うるせえな、アメリゴ」と呟き、自分を挟み込む二人の美女という名の「熱いノイズ」から、どうにかして逃げ出す方法を再び考え始めるのであった。
『鋼鉄のポジティブ ~未来の世界のネコ型ロボットを迎えに行こう~』をお読みの地球の皆様へ!
いつも拙作『鋼鉄のポジティブ ~未来の世界のネコ型ロボットを迎えに行こう~』をお読みいただき、本当にありがとうございます!
物語の中で、「魔王」こと黒木万桜は、時には「水嚢の川」で災害に立ち向かい、時には中古スマホを活用したクローズドネットワークなんて突拍子もないアイデアまで生み出しています。
実は、この物語には、万桜のそんな「もしかしたら、これって本当に役立つかも?」と思えるような、たくさんのアイデアが散りばめられているんです。読者の皆さんも、「これ、面白い!」「こんな風に使えるんじゃないか?」なんて、閃いたことはありませんか?
地球のみんなぁ~! オラに「★」をわけてくれーっ!
もし、この物語を読んで、少しでも「面白い!」「次の展開が楽しみ!」「万桜のアイデア、イケるかも!」と感じていただけたなら、どうかページ下部の【★★★★★】ボタンをポチッ!と押して、星評価を分けていただけないでしょうか!
皆さんのその「★」一つ一つが、作者の大きな励みになり、万桜の次の「魔王案件」へと繋がるエネルギーになります!
引き続き、『鋼鉄のポジティブ ~未来の世界のネコ型ロボットを迎えに行こう~』をどうぞよろしくお願いいたします!




