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番長神主のハギスステーキ

前書き

 2020年1月。甲斐の国大学併設カフェ・ジャカジャカは、美食という名の「宗教」を解体する、残酷な実験場と化していた。

 舞台は、若返った伝説の巨匠たち「シリコン・シェフ」と、的屋衆の三代目元締め・番長(バンチョー)による、成形食材とヌードルの激突。

 一握りの富裕層が独占する「価格の味」を、万桜(マオ)が導き出した「等周問題」のアルゴリズムと、番長(バンチョー)の「再構築フードメイカー」が、圧倒的な「合理性の味」で塗り替えていく。

 それは、高級食材という虚飾を剥ぎ取り、大衆の胃袋に「最高級の安物」を叩き込む、食の格差への宣戦布告。

 伝統的なフレンチの技法すら、保存可能な粉末パーツ(手前ミート)の構成要素として飲み込まれ、数学的に最適化された「ハギス」へと昇華される。

 一方で、アンドロイドの滑らかな動きの裏には、魔王たちの理不尽な口論と、身重の妻からの容赦ない有罪判決という、あまりにも人間臭いノイズが隠されていた。

 

 日本の加工技術という巨大なインフラをハックし、食の官能をデジタルで制御する。

 これは、アホの子たちが無邪気に、しかし冷徹に「世界の価値基準」を再定義していく、不純極まりない美食革命の記録である。



 2020年1月中旬。甲斐の国大学併設カフェ・ジャカジャカは、異様な熱気に包まれていた。

 かつてテレビの向こう側で美食の戦いを司っていた主宰が憑依したかのように、加賀谷(カガヤ)教授は、手にした黄色いパプリカを無造作に齧り、その果汁を滴らせた。

 教授は豪奢な金色の刺繍が施されたマントを翻し、天を仰いで哄笑した。

「私の記憶が確かならば! この学び舎は今、文明の分岐点という名の厨房へと変貌を遂げた!」

 教授は、まるで深紅の緞帳を自らの手で引き開けるかのような大振りな動作で、特設ステージの右翼を指し示した。

「さあ、本日の美食の巨星たちを迎えよう! かつての栄光を背負い、魔王の魔法によって全盛期の肉体を取り戻した、シリコン・シェフの再降臨だ!」

 スポットライトが、見違えるほど若返り、肌に艶を取り戻した三人の男たちを照らし出した。

「海原の哲学、寿司職人、葛城(カツラギ)幸四郎(コウシロウ)! 厨房の革命家、フレンチの千葉(チバ)譲二(ジョウジ)! そして町中華の巨匠、新田原(ニュウタバル)元治(ゲンジ)!」

 モーションキャプチャのセンサーを全身に纏った巨匠たちは、モニターの向こう側から遠隔でアンドロイドを操り、現役時代を凌駕する鋭い眼光を放っている。

「さあ、今日の挑戦者を紹介しよう! 魔王対策委員会セイタンシステムズ、フード部門総帥にして、兼業農業的屋衆、祭谷(マツリヤ)一家が三代目元締め、番長(バンチョー)神主(カンヌシ)、リーゼントの祭谷(マツリヤ)(ユイ)!」

 的屋衆と学生たちの地鳴りのような歓声が会場を揺らした。

 番長(バンチョー)は、鋭いリーゼントを揺らしながら、条件反射のように叫んだ。

「女の名前で呼ぶなッ!」

 もはや様式美となったその叫びに、会場は盛大な笑いと拍手に包まれる。

「千葉さん。今日こそ勝たせてもらうぜ?」

 不敵に笑う番長(バンチョー)に、全盛期の肉体を再定義された千葉(チバ)譲二(ジョウジ)は、白い歯を見せて獰猛に呼応した。

「Go ahead!」

 加賀谷(カガヤ)教授は、銀のトレイに載せられた一抱えもある巨大な「ドライパーツ」の山を掲げた。

「本日のテーマは! 成形食材とヌードル!」

 教授は、手に持った乾麺をまるで指揮棒のように振り回しながら、その「理不尽な再構築」について説き始めた。

「これは単なる料理ではない! 乾麺という骨格に、超音波で水分を浸透させ、打ち粉の膜でグルテンを封じ込める、食のテラフォーミングだ!」

 教授の背後のモニターには、イボイボ加工が施された乾麺の断面図が表示される。

「肉もまた同様! フリーズドライの肉粉を核とし、植物油脂と寒天でサシをデザインする! 一頭の犠牲を万人の充足へと増幅させる、これぞ魔王がもたらした『手前ミート』の真髄なり!」

 会場の空気は、未知の食感への期待と、文明が書き換わる予感に、爆発寸前まで加熱された。


「ヴェブレン・ブレイクだ。価値のピラミッドが、今まさに物理法則のハンマーで打ち砕かれようとしている」

 加賀谷(カガヤ)教授が、滴るパプリカの汁を拭いもせず、陶酔したように呟いた。

 獣医学科の権威として、生命の「価格」と「価値」を見つめ続けてきた加賀谷(カガヤ)教授にとって、この光景は社会実験の極致であった。

 高価であること自体に価値を見出すヴェブレン効果。一握りの富裕層が独占する最高級のヒレ肉。

 対して、番長(バンチョー)が扱うのは、一頭の牛から抽出したエッセンスを万倍に増幅させた、大衆のための「再構築肉(手前ミート)」である。

 顕示的消費という名の虚飾を、圧倒的な「合理性」が焼き尽くしていく。

「ずいぶんリアルになったな。あれアンドロイドなんだろ?」

 白井(シライ)勇希(ユウキ)が、調理台の前で神速の包丁捌きを見せる千葉(チバ)ソックリのアンドロイドを見つめ、感嘆の息を漏らした。

 かつてのぎこちなさは消え、皮膚の微かな震えや、包丁の抵抗を感じる指先の撓みまでが、全盛期の千葉(チバ)そのものであった。

「ああ、まあな。秘訣は等周問題にあるんだぜ?」

 論理の魔王こと黒木(クロキ)万桜(マオ)が、傲慢な笑みを湛えて口を開く。

 万桜(マオ)の視線の先では、人工筋繊維が複雑にうねり、アンドロイドの腕に人間らしい躍動を与えていた。

「一定の周長の中で最大の面積を確保する。あるいは、一定の体積を包む表面積を最小化する。円や球体という、自然界が選択した最も効率的な『最適解』だ。これを人工筋肉の収縮アルゴリズムに組み込んだんだよ」

 万桜(マオ)は、虚空に数式を描くように指を動かした。

「無駄な表面積を削ぎ落とし、最小のエネルギーで最大の出力を得る。物理的な曲率の極限を計算し尽くしたからこそ、あの滑らかな『人間性』が再現されるんだ」

「面積とあのリアルさになんの関係があるのよ?」

 叡智の魔王であり、経営の天才である茅野(チノ)舞桜(マオ)が小首を傾げる。

「断面でござるよ。茅野(ウジ)、白井(ウジ)

 セイタンシステムズのアンドロイド部門首席技師である西郷輝人が、自信に満ちた仕草で指を立てた。

 調理場からは、もはや暴力的なまでの香気が漂い始めていた。

 最高級ステーキ肉を贅沢に叩き、肉塊の繊維をあえて残しながら成形する千葉(チバ)の、伝統的な牛脂の甘い香り。

 それに対抗するように、番長(バンチョー)の調理台からは、手前ミートパウダーと小麦粉を纏ったヌードルが、高温の鉄板で弾ける香ばしい匂いが立ち上る。

 植物性油脂と魚粉の旨味、そして動物性エッセンスが熱反応を起こし、本物の肉を超えた「脳に直接届く」旨味の粒子が、会場の酸素を塗り替えていく。

「断面? いい匂いね……」

 茅野(チノ)舞桜(マオ)は答えを掴まえるように、医学の徒である勇希(ユウキ)に視線を向けた。

「なるほど、人工筋繊維の収縮制御を等周問題で解決させたってことか?」

 勇希(ユウキ)が、その人工人体の仕組みを鮮やかに言い当てた。

「筋肉の断面における密度の変化を、常に最短の周長で維持し続ける。だから、急激な方向転換でも関節に『不自然な慣性』が生まれない。あの滑らかな曲線こそが、数学的な正解なんだわ」

 その間にも、番長(バンチョー)は再構築フードメイカーのレバーを、機動兵器を操るパイロットのごとく繊細かつ大胆に操作していた。

「手前ミート」のペーストを、ヌードルという骨格の上に、ミリ単位の厚みで積層させていく。

 それは、パスタを芯材とした、世界で最も「肉質」を感じさせる成形ハンバーグの構築であった。

 肉を焼くのではなく、肉という「構造」を鉄板の上で組み上げていく。

 対する千葉(チバ)は、自身の分身であるアンドロイドを通じて、刃渡り一尺を超える牛刀を振るっていた。

 熟成された最高級のステーキ肉を、あえて不揃いに、しかし完璧な計算の下に刻んでいく。

 肉を成形する際、指先に伝わる弾力と温度。その「非線形な情報の揺らぎ」を、万桜(マオ)の等周アルゴリズムが、完璧な「職人の手付き」へと変換していた。

 一握りの特権階級にしか許されなかった贅の極みが、アンドロイドという器を得て、今、大衆の熱狂の真っ只中でその牙を剥く。

 伝統的な肉の繊維と、数学的に再構築されたヌードル。

 異なる二つの「正解」が、激しい蒸気の雲の中で、激突の瞬間を迎えていた。


★ ◆ ★ ◆ ★


「ハギス……。本来は羊の胃袋に、心臓や肝臓といった内臓のミンチ、それにオート麦やタマネギ、香辛料を詰め込んで茹でるスコットランドの伝統料理よ」

 茅野(チノ)舞桜(マオ)が、目の前に並んだ番長(バンチョー)の料理を凝視しながら、博識な解説を口にした。

「でも、番長(バンチョー)が作ったこれは、その『構造』を再定義したものだわ。ヌードルを芯材にして、手前ミートパウダーで動物性エッセンスを積層させ、複雑な食感と香りを閉じ込めている。まさに、現代の科学が産んだ『再構築ハギス』ね」

 舞桜の言葉通り、皿の上には野性味溢れる香りと、計算し尽くされた機能美が共存していた。

「……これ、反則やろ。こんなん食わされたら、高い金払って高級店行くのがアホらしくなるわ。美味すぎるんやもん」

 赤いメガバンク頭取、土御門(ツチミカド)晴景(ハルカゲ)が、ハギスステーキを口に運んで呻いた。

「せやな。この食感の重なり、建築物で言うたら完璧な複合構造やで。材料費を抑えてこの強度……いや、この旨味を出せるんは、魔法やなくて技術の暴力やわ」

 茅野(チノ)建設社長、茅野(チノ)淳二(ジュンジ)も、職人の顔でその断面に感嘆の声を漏らす。

「ふむ。実に……実に興味深い。このヌードルの喉越し、そして肉の粒子が弾ける瞬間のリズム……。ボクはね、こういう『新しい正解』というのに、とても弱いんだ。どうですか事務局のみなさん」

 甲斐の国大学学長、北野(キタノ)爽大(ソウダイ)が、どこか茶目っ気のある笑みを浮かべ、紅茶を嗜むような優雅さでフォークを置いた。

 会場の判定ランプが点灯する。淳二と晴景は番長(バンチョー)に、北野学長は千葉譲二に投じた。

 二対一。番長(バンチョー)の勝利が確定するかと思われた、その刹那。

 主宰である加賀谷(カガヤ)教授が、高らかに右手を挙げた。

「待たれよ! 私の判定は、千葉譲二だ!」

 会場に衝撃が走る。主宰の票は二票分。これで二対二の引き分けへと、結果が書き換えられた。

番長(バンチョー)、君のハギスはヴェブレン・ブレイクを成し遂げた。高級な内臓料理を『雑草と粉末』で再現し、価値を逆転させた。しかしだ! 千葉譲二が示した『本物の肉を刻む贅沢な所作』。これを安価に再構築できてこそ、真のデバッグと言えるのではないかね?」

 加賀谷教授の厳しい指摘に、番長(バンチョー)は不敵な笑みを崩さずに頷いた。

 対決が終わり、三体のシリコン・シェフたちが、一糸乱れぬ動きで格納庫へと消えていく。

 等身大の人間が機械的な正確さで箱に収まる様は、まるで精巧なシュールレアリスムの舞台のようであった。

 扉が閉まり、静寂が訪れた直後。

 格納庫の裏から、全盛期の活力を全身に漲らせた本物の巨匠たちが姿を現した。

「番長。これの使い方を教えてくれや……。組み合わせ次第で、こいつはもっと美味くなるぜ」

 ハギスステーキヌードルを最後の一片まで完食した千葉(チバ)譲二(ジョウジ)が、番長(バンチョー)の元へ歩み寄った。

 フレンチの巨匠の瞳には、敗北感など微塵もなく、新しい道具を手に入れた子供のような純粋な好奇心が宿っていた。

「伝統を壊すのは、いつだってこういう理不尽な合理性だ。俺のぶつ切りハンバーグを、おまえのその機械で『安く、最高に』再現してみせろよ」

 千葉の言葉に、番長(バンチョー)はリーゼントを誇らしげに揺らした。

「……当たり前だ。千葉さんの技、全部飲み込んで、誰でも食える『最高の安物』に仕立ててやるよ」

 

 大手町の冷徹な経済戦争とは対照的な、熱く、不純な美食の共創。

「ヴェブレン・ブレイク」の先にある、食の完全平定に向けて、魔王たちの厨房はさらに加速していく。


★ ◆ ★ ◆ ★


(ヌエ)みてえなもんだろハギスって?」

 誰もが口にしなかった発想を、万桜(マオー)はバッサリと空気ブレイクした。

 アホの子丸出しの発言に、会場の熱気が一瞬で霧散する。

「言っちゃったよ……。おまえさぁ、キメラとか食べる気しねえだろ? 空気読もうぜ黒木?」

 西郷輝人がオタクキャラを捨て、素でツッコミを入れた。

「あーあ。万桜、それは禁句だわ。ハギスっていうのはね、羊の胃袋に内臓を詰め込むっていう、その構造自体が『得体の知れないナニカ』を想起させる伝統料理なのよ。それを『鵺』なんて、キメラの代名詞で呼んじゃったら、美味しさの魔法が解けちゃうじゃない」

 白井勇希が、呆れたように補足を加えた。

 万桜(マオー)は素早く、西郷の顔面にアイアンクローを炸裂させて吊り上げる。

「この前、等周問題の時に言ったよな? おまえ一生ござるだってよ」

 万桜(マオー)の右手に力が籠もる。

 それは暴力による現状強要であり、この世で最も不純な理不尽であった。

「ぐぬぬぬ。く、黒木(ウジ)……拙者、もうすぐ父親でござるよ? それはあまりにも理不尽では?」

 西郷が藻掻きながら不満を述べた。

 実際、この二人の口論が、アンドロイドの滑らかな動きを生むヒントになったのは事実である。

「いいか西郷。一辺が4センチの正方形、周長は16センチ。面積は16平方センチだろ? でもな、同じ周長16センチの円を計算してみろよ。面積は約20.4平方センチだ。同じ距離を囲っても、円の方が面積は広くなる。この『曲線の効率性』を人工筋肉に反映させろって言ったのは俺だぞ?」

 万桜(マオー)が理屈で西郷を追い詰める。

「面積と滑らかさは、物理における最適解の同義語なんだよ。角張った計算ばっかりしてるから、おまえの作る腕はガクガクすんだよ!」

 アイアンクローを解除した万桜(マオー)が、観客席を指さした。

 そこには、身重の西郷の妻である寧々(ネネ)が、巨大なカンペを出していた。

【もっとやっちゃって! こっちは悪阻が酷いのに自分ばっかり楽しそうにして!】

 カンペには、家庭内のリアルな怨嗟が綴られていた。

「西郷がギルティだと思う人ー?」

 万桜(マオー)が会場に尋ねた。

 その瞬間、的屋衆から学生に至るまで、満場一致で有罪判決の拳が突き上げられた。


★ ◆ ★ ◆ ★


「これ保存効くし、仕入れとかが楽になるよなー」

 再構築フードメイカーを手に、番長(バンチョー)は唸るようにそう言った。

 設計から全面的に携わった番長(バンチョー)にとって、学食のメニューが次々とこのデバイスから生み出される光景は、一つの快挙であった。

 安価なハギスステーキと、ぶつ切り感を精密にシミュレートしたハンバーグ。

 そして、グルテンの膜を後から纏わせることで、茹で上げた瞬間に完璧なコシと粘りを再現するヌードル。

 それは、長期保存が可能な乾物という「死んだ食材」を、調理の瞬間に「生麺」として蘇生させる魔法の工程であった。

「いや、インスタントラーメンとかって、メーカー指定通りやれば、相当美味くなるもんだぜ」

 万桜(マオー)は、湯気を立てるヌードルを啜りながら、傲慢なまでに平然と言い切った。

「おまえ、日本の加工食品の精度を舐めすぎなんだよ。あれはな、数兆円規模の資本と、数万人の研究者が『最も安価で、最も普遍的な旨味』を追求し続けた究極の結晶だ。乾燥工程でのデンプンのアルファ化、油の酸化を防ぐパッキング、そして何より粉末スープに含まれるアミノ酸の精密な配合。あれはもはや食品じゃなくて、化学兵器に近い完成度の『最適解』なんだわ」

 万桜(マオー)は、再構築フードメイカーのノズルを見つめ、不敵に鼻を鳴らした。

「俺たちがやってることは、その『完成された既存の最適解』に、物理的なテクスチャの自由度を与えただけだ。メーカーが数十年かけて削ぎ落としたノイズを、俺たちが『贅沢なノイズ』として再配置したに過ぎねえんだよ」

「なにを難しく言ってるのよ。要するに、これまでの加工食品にはなかった『歯ごたえの官能的満足感』を、安く大量に流通させられるようになったってことでしょう?」

 舞桜(マオ)が、ハギスステーキの断面をフォークで愛でるように眺めながら、経営者らしい鋭い視線で言葉を添えた。

「日本の加工技術という巨大なインフラの上に、私たちの『再構築』というプラグインを差し込む。それだけで、世界中の安価な食卓が、一気に全盛期のレストランへと昇華されるわ。これはもう、食の格差をデリートする人道的な侵略ね」

「まあ、袋麺の裏側に書いてある『お召し上がり方』を完璧に守るのが、この世で一番コスパの良い美食だってことだな」

 拓矢(タクヤ)が、再構築されたぶつ切りハンバーグを頬張りながら、感心したように頷いた。

 メーカーの執念が生み出した「加工の極致」と、セイタンシステムズがもたらした「構造の自由」。

 その二つが融合した学食の風景は、不便という名のノイズをデリートした、最も合理的で幸福な「欲望の特区」そのものであった。


★ ◆ ★ ◆ ★


「見て見て勇希! 千葉さんの、デザートの盛り付けも神業なんだけど~!」

 莉那(リナ)が、溢れんばかりの「手前ミルクジェラート」を両手に抱え、天真爛漫な笑顔を弾けさせた。

 莉那(リナ)の隣では、香織(カオリ)もまた、芸術的な曲線を描くジェラートに目を輝かせている。

 二人は、最高学府の医学生美女と進学校出身のギャルという肩書きを完全にデリートし、アホの子丸出しでスイーツに食らいついた。

「ん~! これ、超濃厚なのに後味スッキリで最高! 拓矢、一口食べる? ……あ、やっぱりあげない!」

 莉那(リナ)は、大きなスプーンでジェラートを口いっぱいに頬張り、幸せそうに頬を緩めた。

 その様子は、まさに「戦えるアホの子」の休息そのものである。

「サブリナ、そんなに勢いよく食べても大丈夫だぞ。それは番長(バンチョー)たちが設計した、究極のヘルシー仕様なんだから」

 勇希(ユウキ)が、白衣を翻しながら、医学的な視点でその中身を解説した。

「ベースは、牛乳から分離されたスキムミルクとホエイパウダー。そこにアーモンドや大豆の植物性パーツを、黄金比のアルゴリズムで再構成しているの。通常のジェラートで懸念されるラクトース(乳糖)は、設計段階で完全にデリートされているから、おなかを壊す心配も皆無よ」

 勇希(ユウキ)の言葉を裏付けるように、ジェラートの滑らかな質感は、超音波ホモジナイザーによる精密な乳化の賜物であった。

「そうそう! 脂質もバターオイルの一部をアーモンドオイルに置き換えて、ビタミンEとオレイン酸をマシマシにしてあるんだって」

 莉那(リナ)が、口の周りに白いクリームをつけたまま、知識を披露した。

「だから、むさぼり食えば食うほどお肌がツヤツヤになる、最強の美容食ってわけ! ギルティどころか、もはや義務教育で配るべきレベルの健康食だよね~!」

 

 千葉(チバ)譲二(ジョウジ)のアンドロイドは、そんな二人の騒ぎを余所に、等周問題に基づいた「最も美しい球体」のジェラートを、次々と量産していく。

「手前ミルク」の技術が可能にした、保存性と鮮度の逆転現象。

 長期保存が可能な粉末パーツが、マシンの内部で一瞬にして「搾りたて以上のジェラート」へと再構築される。

 それは、牛への負荷を最小限に抑えつつ、人間の欲望を最大限に肯定する、魔王たちの優しい革命であった。




『鋼鉄のポジティブ ~未来の世界のネコ型ロボットを迎えに行こう~』をお読みの地球の皆様へ!

いつも拙作『鋼鉄のポジティブ ~未来の世界のネコ型ロボットを迎えに行こう~』をお読みいただき、本当にありがとうございます!

物語の中で、「魔王」こと黒木万桜は、時には「水嚢の川」で災害に立ち向かい、時には中古スマホを活用したクローズドネットワークなんて突拍子もないアイデアまで生み出しています。

実は、この物語には、万桜のそんな「もしかしたら、これって本当に役立つかも?」と思えるような、たくさんのアイデアが散りばめられているんです。読者の皆さんも、「これ、面白い!」「こんな風に使えるんじゃないか?」なんて、閃いたことはありませんか?

地球のみんなぁ~! オラに「★」をわけてくれーっ!

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皆さんのその「★」一つ一つが、作者の大きな励みになり、万桜の次の「魔王案件」へと繋がるエネルギーになります!

引き続き、『鋼鉄のポジティブ ~未来の世界のネコ型ロボットを迎えに行こう~』をどうぞよろしくお願いいたします!

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