呪歌使い戦記第八十五話
「こらこら! プイスせんせは今から大事なお仕事行くんやから勝手なこと言うて困らすんとちゃうの!」
カーティスさんの助け舟に、可愛らしいブーイングが出た。
「お歌はルイスせんせに習お。ルイスせんせはプイスせんせのお歌の先生やねんから、みんなでルイスせんせに教えてください言いに行こな」
「じゃあ、今日はみんなでルイス先生にお手紙書きましょ! お歌教えてくださいって!」
ハーゼルの言葉に、子供達は色めき立つ。あのそそっかしくておっちょこちょいなハーゼルが街の子供達のまとめ役だなんて、未だに信じられないくらい。
「……ほんま、ハーゼルもプイス君も大きなって。ルイスせんせの背丈、追い越したんとちゃう?」
「とは言ってもほんの少しですよ。……昨日、家の柱を使って背比べをしたんですけど、僕の人差し指の幅の分だけ、僕の方が高かったんです。ね? ほんの少しでしょう?」
「十分やって。あのおうち来たばかりの頃はうちのテーブルと同じくらいの身長やったのに。……男ん子ってほんますぐ大きなるんやから……」
「女の子だってすぐ大きくなりますよ。ハーゼルだって去年の春までは僕が教えていたはずなのに、いつの間にか教える側に回ってる。僕よりずっと教え方が上手いのではないですか?」
「どう頑張ってもルイスせんせやプイス君にはかなわんよぉ。あの子もまだまだ勉強が必要や」
「……そろそろ行きますね。名残惜しいけれど、そろそろ行かなくちゃ」
懐から、一封の厚い手紙を出す。僕の署名と、封蝋印を施したもの。それをカーティスさんに渡せば、彼女はきょとんとした顔をする。
「その手紙、先生に届けてもらえませんか。……先生と約束したんです、旅先で手紙を書くって。いつ帰ってくるかはわからないけれど、手紙ならどこにいても届けられるから」
「……ほんまに行ってまうんやね、この街も寂しなるなぁ。ずっとこの街におってくれたら、って思うんやけど……」
「これは僕が決めたことなんです。……本当は僕だってあのまま先生と一緒に、でもそれでは僕はずっと子供のまま。子供のまま先生やカーティスさんに守られるのは嫌です。成人したからには、大人にならないと」
子供の頃から通い続けたカーティスさんの食堂は、居心地が良くて離れがたい。このままここに留まって、先生と共にあの家で。……それではだめなのだ。僕は戦争に出て初めて世界を知った。家の外の広い世界を知った。この世には、僕の知らないことがごまんとある。知らないことを知る、それが僕にとっての使命だと思うから。知らないことを知って、それを人に広め伝えるのが僕の使命だろうから。
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