呪歌使い戦記第七十九話
新たな友と囲む食卓は和やかに終わった。食事が終わるころには、先生もずっと僕に見せていた大人の顔に戻っていた。
「美味しかった。貴族って毎日こんなもの食べてるんだね、そりゃ太ったのが多いわけだよ」
「さて、私達はそろそろ城を出る準備をしないとな」
「……やっぱり、今日帰るんだね」
「私達の役目は終わった、ここで果たす目的ももはやない。ならば、あとはそれぞれの日常に帰るだけ。……私に、王都の騒がしさは合わなくてね。国境近くの草原の静けさが一番性に合っているようだ」
「寂しいな。弟分がいなくなるなんて。ね、たまに手紙書いていい? プイスんちの近くに宿場街あるんでしょ? 手紙出すからさ、そっちの生活とか教えてよ」
「もちろんだとも。私達二人で返事を出そう」
空になった食器を載せたワゴンは厨房へと帰っていく。僕達も、荷物をまとめなければ。
「それじゃ、またね。プイス」
「ありがとう、アスチルベ。帰って落ち着いたら手紙出すから、元気でね」
「それはこっちのセリフ。俺がいないからって寂しがって胃を痛めたりしないでよ?」
「だからそれはもう大丈夫だってば」
「はは、冗談」
「……それじゃ、またね」
「うん、またね」
そうして友と別れたのは、教会の鐘が十一回鳴る頃だった。石造りの城に、人でごった返す騒がしさに別れを告げて、南門を出た。
「……のんびり帰ろう。もう急ぐこともない」
「……はい……」
左手に鞄を提げて街道を進み始めた背中を追う。進行方向右手に、白い花をつけたままの林檎の木が見えた。その近くに、誰かがたたずんでいる。あの木がプイス先生の墓標だと知っている街の人だろうか。ここからでは遠くてどんな人なのかは良く見えない。
林檎の木と人影に気を取られていたら、大きな背中がずいぶん遠ざかっていた。急いで追いかけなければ、見晴らしのいい道とはいえ先生とはぐれてしまう。
……さようなら、プイス先生。
最後に、林檎の木に向かって一度だけ頭を下げた。
「先生! 待ってください!」
僕達以外は誰もいない街道を、走って追いかけた。よほど機嫌がいいのだろう先生は、鼻歌交じりで僕を待ってくれていた。
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