呪歌使い戦記第七十八話
「……それはわからないよ」
アスチルベの後悔に、ぽつりとつぶやき返した先生。
「私は、魔法の才能があったから先生に拾われた、助けられた。しかし、だからこそ戦場に行った。魔法は私を助けてくれたけれど、力にはなってくれなかった。君に魔法が扱えたからといって、お兄さんが兵士にならない未来が確定したわけじゃない。……力を持っているのに出来ないというのは、酷く歯がゆいものだよ。あったらあったで辛いなら、最初からない方がずっといい」
先生の顔が、言葉が、子供の顔を脱いだ。
「じゃあ先生様は、魔法なんかいらないって言うの?」
「魔法なんか、ない方がいい。考えてもごらんよ。君の周りで私達以外に魔法を使うものはいるかい? いないだろう? つまり、世界は魔法が無くても保たれる。魔法は世界を回す力ではない。あれば便利だけれど、なかったとして世界は変わらない。世界はもともと魔法が無くても回るように出来ているのだから、世界から見れば私達魔法使いは異物でしかないのだ。……そう、私達は世界の異物でしかない」
「……ごめん、先生様。俺、そんなこと言わせるつもりじゃ……」
「これだけは覚えておいてくれないか。魔法は万能ではない、扱いを間違えれば永遠に苦しむものも出る。私達はそんな危険なものを扱っているのだ。君の手の中に魔法がないことを、神に感謝しなければいけないくらいに」
「神に感謝って……また大げさな……」
その言葉は大げさではない。魔法を使って苦しんだのが、この場に二人もいるのだから。僕と、先生。証明はそれで十分だ。
「さて、アスチルベ。一つ頼みを聞いてもらっていいか」
「何々?」
「朝食を平らげるのを手伝ってもらえないだろうか。私達のためを思ってたくさん用意してくれたのだろうことは感謝している、だがこうも量が多いと二人では食べきれなくてね」
空気を切り替えるべく、先生は明るい声でアスチルベに頼みごとを持ちかけた。しかし、それは小間使いの彼の想像を超えた頼みだったらしい。
「え……でも俺は小間使いだから王様の客人と同じ食卓には……」
「君にはずいぶんとよくしてもらった。特にプイスの世話を焼いてくれただろう。我が弟子、我が子の友として食卓を囲みたい。客人がそう言ったのならば、食卓を共にしたことをとがめるものもいないだろう」
「それもそっか、じゃあお言葉に甘えて……。小間使いとか女官の食事って大体が余りものだからこんな豪華なの初めて」
「話が長くなってしまったから冷めてしまったけれど、皆で美味しくいただこう」
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