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呪歌使い戦記第七十六話

「……そういえばプイス、胃の方はもう大丈夫? パン粥とかにした方がいい?」

「心配ありがとう、もう平気だよ。その証拠に昨日もおとといも目の前で普通の食事を食べていたじゃないか」

「あれ? そうだったっけ?」


 アスチルベと会話する僕をよそに、先生は無言でポトフに手を付けた。


「……どう? 先生様、美味しい?」


 小間使いの問いに、言葉もなく頷く。それを見たアスチルベは満足げに微笑んだ。


「よかった。先生様のためにこの国一番の料理人が腕をふるったんだから、美味しいのは当然でしょ」


 僕も一口、美味しい。国一番の料理人と言うだけあって美味しい。ただ、何か物足りないような。先生もそう言いたげな顔をしている。


「……カーティス……元気かなぁ。風邪、ひいたりしてないかな?」


 誰のこと、疑問を抱えた目が向けられる。……気がした。前髪で隠れた目線は気配を感じ取るしかない。


「僕達が世話になっている食堂の女将さんだよ。料理上手で僕も教わったことがあるんだけど、先生は女将さんのポトフが大好物なんだ」

「へー。先生様が好きなんだから相当美味しいんだろうね」

「でも、先生が作るポトフには勝てないよ」

「先生様の先生? 昔王都にいたっていう魔法使いのことだっけ」

「うん。カーティスのは美味しいけど、みんなのために作られた味。先生のは、僕と兄さんのために作られた味」

「ああそっか、先生様にもお兄さんいたんだっけ。確か……行方不明って聞いたことあるけど」

「いたんじゃない、いるの。今は遠いとこに行って会えないだけ」


 ……ラーベと良き兄弟であったころに戻ってしまっている先生は、アスチルベの語る噂話をふくれっ面で否定する。


「ごめんごめん。先生様のお兄さんってどんな人だったの? 聞かせてほしいなー、なんて……」

「僕の兄さん? いいよ! どこから話せばいいかなぁ」


 大好きな兄のことを訊ねられたことに気をよくして、嬉々として兄弟子ラーベとの思い出を語り始めた。

 兄弟弟子として初めて顔を合わせた時の話、王都の子供にいじめられているところを助けてもらった時の話、飛行術の訓練に付き合ってくれた話……。先生の口は止まらなかった。僕でさえ初めて聞く話の数々、どうして僕には直接聞かせてくれなかったんだろう。小さな恨み言は冷めていくポトフに混ぜ込んで飲み下した。


ここまで読んでくださりありがとうございます。

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