呪歌使い戦記第七十一話
「……先生は、お優しい人だった」
永遠にも思える祈りの後、先生は顔を上げて言う。
「己の死後も王都を見守れるように、己の死が小さな命を繋ぐ糧になるようにと、墓標を林檎の木としてここに墓を作ってくれと、常々言っていた。先生のその願いを叶えて以降、ただの一度もここを訪れたことはなかった」
穏やかな風が、白い小さな花を揺らす。昼前の陽光を透かした花びらは、夢で会ったプラチナブロンドの髪を思い起こさせる。プイス先生は、待っていてくれたのだろうか、僕達が悪魔の禁忌に触れてでも叶えたかった願いを掴み取って、ここに来ることを待っていてくれたのだろうか。
「先生……来るのが遅くなってごめんなさい。僕は……怖かった……。ここに来たら、先生の死を認めることになってしまうから。また独りぼっちに戻ったことを認めることになってしまうから。先生も兄さんもいないあの街で独りぼっち、それが耐え難くて、認められなくて。王都を捨てて旅に出た」
その旅の中で僕のいた孤児院に立ち寄って、僕と出会って。
「……ねえ、先生。今も僕を見てくれているかな。僕にも弟子が出来たんだよ。先生から名前をもらって、プイスって言うの。先生みたいに料理も薬作りも上手でね、僕が教えられること、もうなぁんにもないの。これから何を教えたらいいかなぁ」
墓標に話しかける先生の顔は、すっかり子供の頃に戻っている。時間がプイス先生を失った十四年前で止まってしまっているのだと思うと、胸が苦しくなる。迷子の指先を胸元のループタイに縋らせて、紡がれ続ける言葉に耳を傾け続けた。話は僕のことから、兄弟子ラーベへと移っていく。
「兄さんもね、全然変わってなかった。ずっと、ずうっと僕に優しいまんま。でもね、仲直り出来なかった。仲直り出来なくて、どこかに行っちゃった。僕、どうしたらよかったのかなぁ……」
続く話に相槌を打つかのように、林檎の枝が揺れる。
「……次会えたら、今度こそ仲直りして一緒に暮らしたいな。あの赤レンガの家で、僕と、プイスと、兄さんの三人で暮らしたい。出来るよね、僕なら……出来るよね? ねえ、先生……」
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