呪歌使い戦記第七十話
無駄に時間を過ごした一月の間、会議の間の先生はずっと冷たい表情をしていた。食事時や客間に戻って休む時だけは、いつも通りの笑顔が戻るのだ。アスチルベも先生の様子がおかしいことは察していた。彼には精神的な疲れが溜まっているようだとだけ伝えたが、実際のところは僕にもわからない。何も語ってはくれなかった。
何の意味も見いだせない会議に、僕が出続ける必要はあったのだろうか。これならば王城の侍医と共に薬を作っていた方がずっと有意義だっただろう。だが、それは許されなかった。王城というのは、政とは、何と窮屈なのだろう。僕を貴族の娘婿に、という話もあったがそんなもの、こちらから願い下げだ。僕はあの赤レンガの家で薬を作っている方がずっと性に合っている、貴族の世界なんて僕には合わない。
退屈だ、早く客間に……いや、家に帰りたい。我が家が恋しくてたまらない。いつになったら帰れるのだろう。そんな考えが一日中頭を支配するようになったころ、やっと会議はまとまった。どんな風にまとまったかなんて興味がない。興味なんか湧くわけもない。やっと帰れる。重苦しい会議の中で強張った体に客間の暖かい空気をめいっぱい取り込んだ時、先生がぽつりと言った。
「……プイス。明日は出かけるぞ」
「お出かけ……ですか?」
「ああ。……行きたいところがあってな……」
その言葉通り、翌日は久しぶりに城の外に出た。昼前に城を出て、王都の南門を抜けた。僕達の目的地は王都の南門から少し東に歩いた小高い丘、そこには一本の広葉樹が立っていた。白い花をたくさんつけて、誰かと待ち合わせでもしているかのようにたたずんでいた。
「先生、この木は」
「……この木は、先生……プイス先生の墓。墓標代わりに、林檎の木を植えてくれと。しかし、林檎の花がこの時期に咲くなんて。二か月ほど早い気がする」
これが、この林檎の木が、プイス先生の。
鞄を置いて木の根元に跪いた先生は、手を組んで祈りを捧げる。その隣に膝をついて、所作を真似た。
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