呪歌使い戦記第六十七話
……これでよかったのだろうか。こんな結末で、よかったのだろうか。……もう、あれこれと考えるのはやめなければいけない。ラーベを生かす選択をしたから、先生と二人生きて帰って来られた。ラーベを生かす選択をしたから、リーラローゼの友を想う涙を見た。ラーベを生かす選択をしたから、犠牲者を一人も出さずに済んだ。この結果は全て、僕が選んだ末のもの。僕が選んだ結末だからこそ、僕は英雄と呼ばれるようになった。
「……僕は、まだ修行中の身です。魔法使いとして、呪歌使いとして、まだまだ半人前でございます。ですが、獅子の国の男として戦場に立ったのは紛れもない事実。僕がした選択……竜の国の呪歌使いを生かして逃がしたことによる結果の責任は僕にあります。……正直、半人前の僕には荷が重いように思います。しかし、これも兵士の一人となった獅子の国の男ならば、大変名誉なことだと言うのもわかっています。英雄と呼ばれること、お引き受けいたしましょう。僕なぞを英雄と呼ぶのなら、求められるまま振る舞いましょう。それが力を持つものの使命だと先生は説きます」
将軍はそれを聞くとただ静かに目を閉じた。じっくりと、僕の言葉をかみしめているかのよう。
「男子三日会わざれば刮目して見よ。そんな言葉があると聞いたことがありますが、まさしくその通りですな。あの戦場を通して、プイス殿はお強くなられた。男として一皮剥けたと言えばよろしいだろうか。覚えておられますでしょうか、客間のプイス殿を訪ねに参った日を。あの時はお体の調子を悪くしておられたと記憶しております」
「あれは……その……」
「あの時はずっと俯いておられた。お背中も丸く、縮こまっておられた。ですが今やどうでしょう。背筋は伸び、宝石が如き眼は前を見据えて輝いておられる。かつて王都で人々を救っておられた貴方様の大師匠、プイス・キャンウィール殿を思い出すお姿。……立派になられましたな、プイス殿。師である魔法使い殿も、大師匠殿も鼻が高いでしょう」
「い、いえ……。すみません。褒められ慣れていないものでして、あまりそういったお話は……」
マグカップのミルクは冷えて、白い湯気は失われた。忍び寄る寒さに吐息が白く凍り付いてしまいそう。
「これは失礼。兵をまとめる立場として新入りと関わることが多くて。将来有望な若者にはつい」
冷たい光を投げかける満月の下、銀の将軍は笑みをこぼす。
「さて、月が天頂を過ぎましたな。そろそろ戻らねば」
「僕も部屋に戻ります。お付き合いいただいてありがとうございました」
ぬるくなったミルクは僕のお腹の中。女官にマグカップを返して将軍と共に石の廊下を戻った。
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