呪歌使い戦記第六十三話
「……ごめん。これ、返すね」
木彫りの蹄鉄を左手首から抜き取って、革紐ごとアスチルベに手渡す。帰って来られなかったアスチルベのお兄さんの形見は、僕に幸運をもたらしてくれた。そう、先生と一緒にあの戦場を生きて切り抜けられたのは幸運なこと。僕はただ運が良かっただけ。だから、英雄なんて言われる筋合いはない。
「ああ。これさ、あげる。俺が持ってるよりあんたが持ってた方がいいでしょ」
「でもこれは、お兄さんの形見なんじゃ」
「言ったでしょ、兄貴とおそろいって」
ほら、とシャツの下から手繰り寄せた革紐には、僕の手の中にあるものと同じ木彫りのチャームがついていた。首から下げた幸運のお守りは彼の祖父の手作りと言う。そんな大切なもの、僕が受け取るわけにはいかない。アスチルベは差し出した兄の形見を頑として受け取ろうとはしなかった。
「プイス、受け取っておきなさい」
先生にそう言われては、受け取る他にない。外した革紐は左手首にとんぼ返り。
「うん。やっぱりそれはプイスが持ってた方がいい。俺が持ってるよりずっと」
「……ありがとう……ございます……」
僕の返事を聞いて、アスチルベは一回だけ手を打ち鳴らした。この話はここまで、と言わんばかりに。
「さ! 今夜は祝勝会だ、獅子が竜に勝ったお祝いの晩餐会だよ。お湯の準備してるから湯浴みしてさっぱりさせよっか。繕い物とか洗濯物とか、その辺も出しといてくれたらやっとくし。……あ、先生様の腕、どうしよっか。介助に女官つけれるけどどうする?」
「一人で大丈夫だよ。右手は動くんだから」
「そう?」
「不便があってもプイスが一緒だからね」
「それもそっか。じゃあお湯の桶もらってくるね」
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