呪歌使い戦記第五十七話
だめだ。それはだめだ。先生と約束した、プイス先生とも約束したんだ。ラーベを助けると。僕と先生が生き残って、そのうえでラーベを助けると約束したんだ!
竜の兵士が動き出す前に動かなくてはいけない。動きを真っ先に封じなくてはいけないのはラーベを槍で刺した兵士、効力を持つぎりぎりの速度で呪歌を唱えて光球を目の前で炸裂させる。兜を被っていても隙間から強烈な光が差し込んできたら成す術はないだろう。狙い通り行動不能に陥った兵士がたまらず膝をつく、その手は槍から離れた!
「こ……小僧……何故……」
「貴方には生きていてもらわなきゃだめなんです。貴方の無事を祈っている人がいるから。約束したんです、その人と。貴方を助けるって!」
危ない。先生の右手側から兵士の剣が迫る。
「先生! 右!」
手は届かない。ならば矢を飛ばせ。光の矢よ、一直線に飛べ! 剣を握る手に当たった! 光の矢は鎧を貫けない、代わりに当たった衝撃が強い。剣を落としたところに先生の呪歌の追い打ちが入る。土を耕す呪歌を応用した落とし穴だ!
「よし!」
「……そこをどけ、小僧」
腹に槍が刺さったまま、立ち上がった鴉。どけと言われても、その傷では。そう言おうとした瞬間。短い呻き一つだけ漏らして、腹側から長い槍を引き抜いた。鴉の体を通った槍は赤い。
「そんな、めちゃくちゃな!」
「私からすればこの程度、蚊に刺されたようなものだ。内臓に至る傷でもないからな」
腹に開いた穴からは赤い血が流れているが、それをものともせず、彼は赤く染まった槍を握り直した。
「この程度の傷で倒れる私ではないことは、お前たちも重々承知だろう。私を殺したくば、この胸を貫け! 私を殺したくば、この首を取ってみせろ!」
鴉のその言葉に一人、また一人と刃を向ける兵士達。しかし、手負いのはずの呪歌使いは一薙ぎで返り討ちにする。重い鎧を着込んでいる兵士達は草原に沈み込むような音と共に叩きつけられていく。手には己の血に染まった赤い槍。美しさすら覚える、覚えてしまう。どれだけ傷つこうと己の運命に抗う一人の男の姿は、この戦場に立つ男達の中で一番美しいと言えるだろう。
しかし。どんな豪傑だろうと、どんな英雄だろうと、いずれは限界が来る。敵兵を薙ぎ倒した力強い槍も今はよろめいている。鮮やかだった赤も赤黒く冷えてしまった。
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