呪歌使い戦記第五十六話
指し伸ばされた細い手を掴んで立ち上がる。細く筋張った先生の手。突如かけられたかつての弟弟子の声に鴉は目を丸くする。
「ルイ……ス……」
「やっと、僕を呼んでくれたね。兄さん……会いたかった……」
兄弟の再会に、無粋な赤い槍は姿を消した。やっと、やっと決着か。僕達が望んだ以上の結末を迎えられる。
僕の手を掴んでくれた右手は鴉……ラーベの肩へ回される。片腕だけの抱擁に、かつての兄弟の声二つが潤みだす。
「兄さん……兄さん……。ずっと、ずっと会いたかった……。無事でよかった……生きていてくれて本当によかった……」
「やめろ。俺をそう呼ぶな。俺にはもう兄さんと呼ばれる権利などない」
「違う。貴方は何があっても僕の兄さんだ。先生がいなくなって、僕が成人して、僕が弟子を取って。あれから……兄さんが獅子の国を出て行ってから何年経とうと、何があろうと、貴方は、僕の……」
「……ルイス……ルイス……。お前は、まだ……俺を……!」
「帰ってきて、お願い。僕のそばにいて。先生はもういない。兄さんがいなくて寂しかった。お願いだよ、獅子の国に帰ってきて……。僕達の家で、一緒に暮らそう……?」
何か、違和感がある。何か、大切なことを見落としている気がしてくる。何だ。何を見落としている。僕は何を見落としている……!
「獅子の国にも、俺の居場所はない。俺は、人殺しの罪人だ。それでなくとも……。……っ! ルイス! 離れろ!」
「うわっ!」
「先生!」
ラーベが先生を突き飛ばす。その瞬間。鴉の腹を、無粋な横槍が貫いた。
「ぐうっ……」
「兄さん!」
竜の国の呪歌使いの腹を貫く槍を見てみれば、持ち主の鎧に竜が刻まれている。まさか、竜の国は自軍の魔法使いを処分しようとしているのか?
「逃げろ! ルイスっ!」
ラーベが吠える。気が付けば包囲されていた。竜の紋章を刻んだ鎧の兵士達が、僕達魔法使いを取り囲んでいた。
「竜が勝とうが負けようが、俺はここで殺される。竜の国に魔法使いはいらんのだ。得体の知れぬ力を持つ俺など危険分子でしかないのだ……!」
竜の兵士がじりじりと僕達に迫ってくる。槍を、剣を僕達に向けて、僕達の命……違う。狙いは僕と先生ではない。この兵士達の狙いはラーベだ。ラーベの命を奪おうと迫ってきている。戦場の混乱に乗じて始末するつもりなのか……!
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