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呪歌使い戦記第五十八話

「兄さん!」


 力なく膝をついたラーベ。それを見た先生が悲痛な叫び声を上げた。鴉の足元に血溜まりが出来ている。あのままでは失血死の危険性がある。早く彼を逃がさなくては。でも、どうやって。竜の国の兵士達は数を増やしつつある。僕と先生二人で相手取るなんてとてもではないが無茶だ。それでも、何か方法はある。この状況をひっくり返す方法が必ずあるはずなんだ!

 槍を向けてくる兵士に火の塊をぶつけて時間稼ぎしては戦場を見渡す。今何処に何がある、誰がいる。銀のナイフは何処にある、手放してしまった銀獅子は何処にいる。お願い、応えて!

 首を垂れる呪歌使いの長い髪を乱暴に掴み上げた竜の兵士。ラーベはぴくりとも動かない。抵抗する力もないのか、あるいは。だめ、そんなのさせない。だめ。


「ラーベ!」


 動いた。かすかながらに指が、動いた気がする。僕が呼んだ声に反応して、動いた。まだ、生きている。ならば、助けなくては。僕の目の前で最悪の事態なんて絶対にさせない!


「プイス!」


 僕を呼ぶテノール。振り返れば何かを持っている。照り返しのある白色に赤い点、まさか!

 竜の兵士達の合間を縫って先生が投げて寄越したものを拾い上げる。銀のナイフ、銀獅子のナイフだ。これなら、かつて竜を討ち滅ぼした銀のナイフなら、獅子の国を守護すると言う銀獅子がこの手の中にあるなら。ハーゼルからもらったハンカチでナイフを右手に固定する、もう二度と取り落とさないように。


「その人から手を離せ!」


 兵士の掴む濡れ羽色の髪を断ち切って、そのまま兵士に音の刃をぶつける。僕が出せる最大限のバリトン、これでしばらくは起き上がれまい!

 近寄ってくる兵士達がこれ以上近寄れないように、大きな霜柱で周囲にぐるりと円を描く。分厚く、尖った霜柱。獣避けの罠の応用だ。

 腰まであったはずの髪はもはや肩までの長さになった。軽くなった己の髪を呆然とした様子で触りながら、鴉は呟く。


「……先生……。俺は……生きていていいのでしょうか……。先生……プイス先生……」

「貴方は生きなくてはいけない。生きて、この戦場から出なくてはいけない。ここで死んではだめなんです!」

「俺は……プイス先生を殺した。周囲の国の兵士をたくさん殺した。お前や、あいつを殺そうとした。それでもか?」

「それでも! 僕は貴方に生きていてほしい。貴方の生存を先生やプイス先生が願ったからじゃない。僕が心の底から、貴方に生きていてほしいと思っているから!」


ここまで読んでくださりありがとうございます。

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