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呪歌使い戦記第四十四話

「わかっている、全てわかっている。私の選択が間違っていたことも、私が力不足であったことも。だから世界は今、こうなっている。仲の良かったはずの兄弟が二つの国に分かれて争っている。それも全て私が……」


 悪魔の禁忌に触れたから。あの願いを叶える呪歌を記した魔導書は、プイス先生が持っていたもの。プイス先生亡き後先生の手に渡り、僕が一度目の戦場で死んだ時行使された。僕達の全ては、そもそもがプイス先生から始まった。プイス先生の願いの結果が、僕達の地獄に繋がった。それは事実。


「……プイス先生が正しいことをしたとは、僕には思えません」

「つまり何か。神の定めた運命に抗った私が間違っていたとでも言うのか?」

「いいえ。その選択が間違っていたとも思わないのです」


 弱々しい月の光の中、僕一人分の鼓動に耳を澄ませる。風の音も、星の瞬く音も、僕の鼓動以外聞こえるものは何もない。


「プイス先生の選択があったから、僕は先生に出会えた。プイス先生と兄弟子ラーベを同時に失って失意の中獅子の国を旅する先生が、北西の港町に孤児として生まれた僕を弟子にしたのです」


 長い繰り返しを思えば、もう何十年、何百年も前のこと。それでも、僕の親になりたいという手紙が届いた日のこと、初めて僕の親になりたいと言う先生と顔を合わせた日のことははっきりと覚えている。


「おそらく僕は先生に引き取られなければ生まれた港町で漁師として育っていたでしょう。プイス先生の選択がなければ僕が呪歌使いの弟子になることも、こうしてプイス先生にお会いすることもなかった。プイス先生の選択が正しかったから、僕は呪歌使いの弟子になった。プイス先生の選択が間違っていたから、呪歌使いの一人として戦場に立つことになった。僕にプイス先生の行動の正誤は決められない。ですが、結果論的には間違いではなかったのだと思います。だって、僕は先生に出会って呪歌使いになった。先生だって、独りぼっちではなくなった。プイス先生の選択の先に、今の僕達がいる。これだけは、間違いようのない事実です」


 穴の開いた満月が、南東の地平線に沈みゆく。月が生んだ僕の影の中には大師匠の小柄な体がすっぽり収まっていて、星々の繭を紡いだ髪が赤っぽく見える。


「……少年、私の名を継ぐ少年よ。一つ頼みがある」


 アルトとテノールの間、いや今はアルトに近いプイス先生の声。大師匠から孫弟子への頼みごととは、何だろう。


「全てわかっている。お前が何を願い、何を成そうとしているのか、この私には全てわかっている。それを知ったうえで、お頼み申し上げる。我が弟子らを、救ってくれ。あの子たちが再び仲睦まじく手を取り合ってなど贅沢なことを言うつもりは今更ない。ただ、生きてさえいてくれたら。それ以上望むものはあるまい」


 塩辛い雨が冬の草原へと滴り落ちていく。師から語られたプイス先生を聞けば神か、それに近しい人に思えたが。……神の子も元を正せば人なのだ。プイス先生も、未来が見えただけのただの人の子なのだ。


「あの子は本来、人殺しなど出来る子ではない。そんなあの子が戦場で死神などと呼ばれておるのだろう? 竜王に支配されているに違いない。知っているぞ、かの国の王は目的のためならば手段を問わぬような血も涙もない残虐な男だと。用済みとあらば血を分けた己の兄弟すら首をはねるような男だと聞く。この戦争が終わった時、ラーベが竜の国にいればどんな未来が考えられようか。竜の国は実力主義でも何でもない、ただ王の役に立たねば殺される国なのだ。かつて獅子の国にいた魔法使いが手の中にあるならば、脅威にならぬうちに始末されるが関の山」


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