呪歌使い戦記第四十三話
「それでも僕は! 未来を先生と生きたい! 戦争によって理不尽に散らされることなく、先生と生きていきたいだけなんです!」
「それがお前の答えか」
「これが最善か、これが正解かなんて僕にはわからない、わかるわけがない。でも、僕が先生と生きていたいんです。この先、どんな形で先生を失うかなんて知る由もない。戦場で殺されるより惨い別れ方をするかもしれない。それでも、このまま何も教わらないまま別れるなんて絶対に嫌だ!」
湧き上がる感情のまま喚き散らす。嫌だ、絶対に嫌なんだ。子供のまま先生と別れるなんて、先生が殺される様をただ黙って見ている子供の姿のままでいたくはない。あがいてあがいてあがきぬいて、絶対にあの戦場を二人で生き抜いてやる。
プイス先生はそんな僕を見つめたまま黙り込んでいる。天頂を過ぎた不完全な満月が、プイス先生の瞳を覗き込む。月に覗き込まれた瞳が上を向いたと思ったら。
「……私にも、お前ほどの何かがあれば……」
ぽたり。透明な水が玉となって零れ落ちた。
「……あの子たちは道を違えずに済んだのだろうか。私に、何かもう一つの感情があったなら……」
その先の言葉は、冷たい夜風がさらっていった。月を見上げたまま力を失くした体を支える。
「……私と同じ名を持つ少年よ、教えてくれ。私が死んで、あちらではどれほどの時が過ぎた。私が神の御手の中に来て、どれほどの年が過ぎたのだろうか……」
「僕が聞いた話では、十四年と」
「ラーベ……ルイス……」
僕に出来るのはプイス先生の言葉を聞くだけ、寄り添うだけ。月が照らす草原のど真ん中、賢者と呼ばれた人の声に耳を傾けることしか出来なかった。
「わた……私は……あの子たちに何を遺してやれただろう……。私は……私は……。遺してきたあの子たちに何が出来る……。死者の声は生者に届かない、生者の声もまた、死者には届かない。今更、私があの子たちにしてやれることなど、新たに遺してやれるものなど……」
抱きしめた腕の中、言葉と雫が次から次へと溢れ出す。
「ラーベ……私の一番弟子……。あの子は無茶をしておらんだろうか、足りぬ足りぬと己を追い詰めてはおらんだろうか。あの子は大変な努力家であった、裏を返せば足るを知らぬ子。それも当たり前のこと、あの子は獅子の王都の貧民街の出。足りぬことは知っていても足ることを実感したことがない。そんなあの子に、父は何度も言って聞かせた。過ぎたるはなお及ばざるがごとしと。あの子はそれを覚えているだろうか」
「……」
「ルイス……ルーイ……。あの子は病んではおらんだろうか。あの子はもともと肺が弱かったがそれだけではない。心を……心を病んではおらんだろうか。あの子は苦しみを抱えて、なかなか外には出そうとしない子だった。何もかもを自分の腹の中に収めて、自分一人が我慢すれば。そう考える子だった。多少の吐き出し方は教えたつもりだが、あの子は今それを実践出来ているだろうか」
バリトンの声がほどけていく。バリトンからテノール、アルトからソプラノ、どの音域にも聞こえる不思議な声。




