呪歌使い戦記第四十一話
「……これを受けてなお、立っている……か」
落ちた星が巻き上げた土煙が晴れた。プイス先生は未だ空の上。今度は、こちらの番。
火種の歌。大きく育てた火種を上空のプイス先生目掛けて放つ。次! 次は魔力で作った氷の礫を氷柱に育てて火の玉を追いかけさせる。
「この程度か」
案の定火の玉は消された。その後ろからプイス先生を狙うのは鋭い氷柱!
「っ!」
氷柱をみとめた呪歌使いの表情がゆがむ。好機! プイス先生が氷柱の対処に気を取られている。月が出ている中、必要なのは太陽。月の光を掻き消すほどに強い、太陽の光! 狙うはプイス先生の目の前、夜の世界に昼を作る小さな太陽を作るのだ!
「しまっ……!」
目の前に現れた小さな太陽を直視した体が大きく傾ぐ。このままでは落ちてしまう。それを見た瞬間、体が勝手に動いた。
小柄な体が地面に衝突するだろう地点に体を滑り込ませる。そしてそのまま、落ちてきた先生を開いた両腕の中、抱きしめた。
「……お前、正気か? 私は、お前の命を狙った人間だぞ」
「……わかっています。頭では、理解しています」
「ならば何故、こんな真似を」
「僕は、呪歌使いです。ですが、それと同時に薬師でもあります。目の前で失われる命を、一つでも減らしたい、一つも出したくない」
「私は」
「たとえ貴方が死者であったとしても! それでも僕の目の前で怪我をしそうなのであれば、それは阻止しなければならない」
「……何を甘いことを……」
死者の冷たい体は、僕の腕の中からするりと逃げ出した。
「……プイス先生。一つ、お聞かせ願えますか」
「……何だ。手短にな」
ずっと、ずっと疑問だったこと。先生から大師匠の話を聞いてから、ずっと疑問に思っていたこと。穴の開いた満月が照らす小さな背中に問いかける。
「貴方様は、未来が見える方だと聞きました。ならば何故あの日を、貴方が死ぬことになった日を、予見出来なかったのですか。未来が見えるなら、それを避ける方法だって」
「…………何故だろうなぁ?」
ゆらりと振り返った顔は、笑っているようにも、苦痛に大きくゆがんでいるようにも見えた。
「私とて、ただの人の子。市井のものらが言う賢者や神の子ではない。言うなれば……悪魔の囁きによって禁忌に触れたもの。悪魔が呼び寄せた禁忌に触れただけのもの」
悪魔の禁忌。痛いほど身に覚えがある。願いを叶える呪歌、あれを僕達は悪魔の禁忌と呼ぶ。プイス先生の言う悪魔の禁忌とは似ているようで少し違う気がする。
「あの日私が死んだのは、悪魔との契約の代償。己が念願を叶えるための代償。私の念願の成就には、私の死が必要だっただけのこと」
「先生を、ラーベを置いて死を受け入れることが代償……。その代償と引き換えに悪魔に何を願ったと言うのですか」
「お前の知ることではない」
アルトとテノールの間にあるはずの声が、バリトンへと下がった気がする。バリトンの、圧倒されるような威圧感。プイス先生は、一体何を隠しているの。
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