呪歌使い戦記第三十七話
鋭い目が向けられる。竜の国の呪歌使いにあの赤い槍を向けられた時のような緊張が背筋を走る。その恐ろしさに思わず膝をついた、命乞いをするかのように。
「申し遅れて申し訳ございません。僕はプイス・キャンウィール、ルイス・キャンウィールを師に持つ呪歌使いの一人でございます」
「何? ルイス・キャンウィールだと?」
鋭く細められた目が、今度は驚きに見開かれる。ルイスはプイス先生の弟子、ならばそのルイスの弟子である僕は孫弟子にあたるのだから。
「ルイス・キャンウィールと名乗るものを、私は一人しか知らぬ」
「僕はその、貴方様が知るたった一人のルイス・キャンウィールの弟子でございます。貴方様のことは師から聞いております」
「……」
僕の目をじっと見下ろす二つの眼。品定めされているのだろう。孫弟子だと名乗る僕が、「プイス」の名を継ぐにふさわしいかを。
「……それは」
金の指輪をはめた右手人差し指が、僕の胸元へ。石工が精巧に彫り抜いた美しい指先は、成人の祝いのために用意されたと聞く蛍石のループタイに向いている。
「それは、私があの子のためにと用意させたもの。それを何故、お前が持っている」
「先生から、ルイスからお借りしています。今の僕に必要なものだと」
「……私と同じプイスの名を持つものよ。お前は私に何を求める。何故私を呼んだ、神の御手の中に眠る私を叩き起こしてまで、何の知恵を求めている」
「僕は恐ろしいのです。先生から教わった魔法を人殺しに使うのが。我が師がプイス先生から教わったという魔法を人殺しに使うのが、とてつもなく恐ろしいのです」
「……お前の話は今一つ要点を得ん。最初からかいつまんでわけを話せ」
獅子の国と竜の国の間で戦争が始まったこと、先生が兵器として召集されたこと、竜の国の陣営に死神と呼ばれるまでに強い魔法使いがいること、魔法を人殺しに使ってはならないと説く先生が戦場で魔法を使うこと。時系列を追って話した。僕達が悪魔の禁忌を行使したことは伏せて。
「……なるほどなぁ」
空を駆け行く星々の下、プイス先生は口を挟むことなく僕の話に耳を傾けてくれた。




