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呪歌使い戦記第三十八話

「つまりお前は、腰抜けというわけか」


 その言葉は、僕の胸を貫くに十分だった。どうしてそんなことを言うの。


「お前も獅子の国に生まれたのだろう? ならば戦で大きくなった国というのは聞いておろう。戦とは殺し殺されの世界、子供じみた甘い考えではただ食われるだけ。獅子の国に生まれた男児がこうも腰抜けでは先が思いやられるな」


 僕よりも頭一つ分小さな背丈のプイス先生。その小柄な体からは、美しく優しい笑みを浮かべていた顔からは想像も出来ないほどの侮蔑に満ちた感情が漏れ出している。


「ぼ、僕は腰抜けなんかじゃ」

「ならば何と言う。今のお前を言い表すにこれ以上の言葉があると言うのか? ご教授願えるか、獅子の国生まれの少年よ。なにぶん私は鯨の国の生まれ、外つ国であった獅子の国の言葉は未だ上手く扱えんでなぁ」


 侮蔑、嘲笑、失意、その他悪意に満ちた目が僕を見上げている。その目が恐ろしくなってきて、言葉は何も出てこない。


「どうした。私に聞きたいことがあったのではなかったのか? 黙っていては何もわからんぞ? それとも何だ、私に全てを見抜いてみせろとでも?」


 一歩、一歩、また一歩。足音もなくあの白金色の頭が、あの蜂蜜色の瞳が迫ってくる。


「いいぞ、全て見抜いてやろうではないか。そら、私にお前の全てを見せてみなさい」


 これが、この人がプイス先生だと言うのか。獅子の国の王都で人々の悩みや迷いを救い、賢者か神の子とまで謳われたという呪歌使い、プイス・キャンウィールその人だと言うのか。

 かの賢者の瞳が僕の目を覗き込んでくる。目を逸らしたくなるほどに恐ろしい、なのに目を逸らすことは一切出来なかった。


「……ふん。このような腰抜けの小童に叩き起こされるとは、私も堕ちたか。悪魔が人類に与えた禁忌の一部になり果ててしまったか」


 興味を失くしたと言わんばかりに目の前の瞳がそっぽを向いて、僕に小さな背中を向けた。


「ま、待ってください!」

「これ以上私に何を出せと言うのだ。死者たる私に縋り付いて、何を得ようと言うのだ。……ああいや、みなまで言うな。お前の望み、見抜いてやったぞ」


 去ろうとする背中に声を投げた。その声を受け取って、三つ編みに垂らした髪がこちらを振り返る。どうして、そんな冷たい目を。以前夢で僕に新たな道を示してくれたプイス先生はそこにいなかった。僕の目の前にいたのは、竜の国の呪歌使いと同じく身が竦むほどの殺気を垂れ流しにした魔法使いだった。


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