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呪歌使い戦記第二十七話

「あ、その話聞いたんだ?」


 お兄さんの話を聞いたその日の夕食時、小間使いの彼に直接訊ねてみた。返ってきた答えは酷くあっさりしたもの。


「うん、そうだよ。俺の兄貴ね、殺されたの。竜の国の呪歌使いに」

「……」


 こんなところに、竜の国の呪歌使いの被害者が。こんなところに、鴉の被害者が。


「竜の国の呪歌使いってさ、めちゃくちゃ強いんでしょ? うちだけじゃなくて他の国も攻め込まれて被害甚大って話じゃん。……倒してくれないかなって。兄貴の仇、討ってくれないかなって」

「……ぼ、僕達は……」


 言えない、あの呪歌使いは先生の兄弟子だと。言えない、お兄さんの仇を僕達が生かそうとしていること。そんなこと言えないよ。


「ねえ。俺がお願いしたら倒してくれる? 兄貴の仇、討ってくれる?」

「そ、それは確約出来ません。僕達だって、殺され……」


 声が掠れて、暖炉の火が爆ぜる音にかき消される。


「……そっか。そうだよね」


 僕は当たり前のことを忘れていた。ラーベが、鴉が、竜の国の呪歌使いが、先生の命を奪った。先生だけじゃない。獅子の国の兵だけで、何十、何百も、あの戦場に残して帰ったことを僕は覚えている。もちろんその全てを竜の国の呪歌使いが手にかけたわけではないが、あの戦場でたくさんの命が奪われたことは事実。遺されたものがどう思うかなんて、誰を恨むかなんて。何故、こんなにも当たり前のことを忘れていたのだろう。


「ごめんね。意地悪なこと言っちゃった」

「い、いえ……そんなことは……」


 右手に嫌な感触が蘇る。あの銀のナイフを竜の国の呪歌使いに突き立てた時の感触。銀獅子の牙で服を皮を肉を切り裂いて、彼は。


「大丈夫? 顔真っ青だよ」

「す、すみません……。ちょっと気分が悪くなってきてしまって……」


 胸の奥にもやもやとした違和感。どんどん大きくなる違和感は胃を圧迫して、息苦しさと吐き気を誘発する。


「先生、呼んでくる?」

「大事なお話中でしょうから……」

「……バケツ、置いとくね。吐きたくなったらこれ使って」

「ありがとうございます……」

「夕飯、食べられなかったらこのワゴンのまま部屋の外置いといていいからね。適当な頃合いで回収に来るから」


 そう言い残して部屋を出る小間使いにかける声もなく、ベッドに倒れ込む。胃が気持ち悪い。視界が回る。回っているのは僕の体のような気さえしてくる。気持ち悪い。先生、先生。助けて。握りしめた胸元の蛍石は何も言わずに僕の体温を奪っていった。


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