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呪歌使い戦記第二十六話

 翌日からも先生は目覚めて朝食を口にした途端に大人達の話へと出かけて行った。僕も朝食を食べればすぐに剣術の稽古。兵士達の使うような長い剣は重くて扱えない。ナイフを護身に使う程度の剣術を長い繰り返しの度に習ってきた。護身の術としてはもう十分ではないかと言う兵士もいた。それでも、あの戦場に出るにはまだまだ足りない。僕の相手はあの呪歌使い、死神と恐れられた竜の国の呪歌使いなのだから。いくら稽古したって足りない。あの竜の国の呪歌使いを退けるには、まだまだ足りないのだ。


「なんでそんなに必死なの。魔法使いって言うくらいなんだから魔法を使って倒せばいいじゃん」

「それはだめなんです。僕達の魔法は人殺しに使えない、使ってはいけないんです」

「ええ。魔法使いって面倒くさい決まりに縛られてんだね」


 兵士達に交ざって稽古の途中。僕のために用意された昼食を持ってきてくれたアスチルベはそう言うが。


「僕自身が魔法を人殺しに使いたくないんです」

「へぇ。でもさ、竜の国の呪歌使いは兵士殺しまくってるじゃん。あれはいいの?」

「……彼には、僕達に理解出来ない何かがあるんでしょうね」

「そういうもんなんだ」


 小間使いの持ってきてくれたパンを頬張る。宿場街で見かけたことのない白いパンは高級品、港町の孤児院にいた頃は重要なお祭りの時にだけ食べていた記憶がある。


「それで、仕事に戻らなくていいんですか」

「客人の話に付き合ってたって言えば怒られないよ」

「宮仕えというのも気楽そうでいいですね」

「身分の高いおっさんどもの機嫌取りしなきゃいけないのは面倒だけどね。魔法使いの決まりとかしきたりよりはずっと楽なんじゃない?」

「僕は人に囲まれるよりも薬を作って売る方がずっと好きです」

「その生き方も楽しそうじゃん」

「……そういう生き方をしていたから戦場に呼ばれたんですよ」

「おっと。こりゃ失礼」


 昼食を食べ終えて稽古に戻る僕を見届けてから仕事に戻ったアスチルベ。彼は兵士達の間でも有名なようだ。


「あの目を隠した不気味なやつだろ。何考えてるかわかんなくて怖いよなぁ」

「向こうが何考えてるかわからないのに、向こうはこっちが何考えてるかぴたりと当ててくるんだよ。やりにくいったらありゃしない」


 兵士達からの評判も僕が抱いた印象と似たようなもの、その中で。


「アスチルベのやつにはな、兄貴がいたんだよ」

「いた、と言うのは?」

「殺されたんだ、竜の国の死神にな」

「じゃあ、あの人のお兄さんは」

「この国の兵士だったんだ。将来有望株でな、この俺も稽古をつけてたんだが……」


 そんな話を聞いた。つまり彼は。彼が僕達を気にかけてくれるのは。


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