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呪歌使い戦記第二十三話

「……そか、そっかぁ。とうとう行ってまうんやね」


 その、カーティスさんの食堂で。営業前の仕込みに忙しい中、家の鍵を預けに来た僕達を笑顔で出迎えてくれた。


「すまないが、鶏小屋と畑の管理だけお願い出来ないだろうか。あの畑はプイスが作る薬の材料になる薬草を育てている、必要であれば使ってくれてかまわない」

「そんなん言うて、どの子がどんな効果あるかなんてわからんよぅ。素人は大人しゅうプイス君の薬使わせてもらいます」


 そんな僕の薬を、今日はたくさん置いていかなければならない。


「カーティスさん。これ、赤切れのお薬です。この瓶は旦那さん用の咳止めシロップ、こっちの小さな壺はハーゼル用の傷薬……」

「またえらいぎょうさん用意してくれたんやねぇ、ありがとう」

「僕達も、いつ帰って来られるかわかりませんので……」

「せや。ハーゼル! ハーゼル、おいで! プイス君ら来てるよ!」


 厨房の奥から、ばたばたと慌ただしい足音が近づいてくる。


「プイス君おはよう! すっごく早いね!」

「ハーゼル、おはよう。これから王都に行くんだ」

「いつ帰ってくるの?」

「いつになるかは僕達にもわからない」

「……そっかぁ」

「何してん。あんたプイス君に渡すもんあるんかったんちゃうの」

「あっ! いけないいけない……」


 ハーゼルはそそっかしい子。元気があるのはいいことだが、ばたばたと走り回ってはよく転んで膝をすりむいている。頼まれごとだって、メモがなければすぐに忘れてしまう。仮にメモがあったとしても文字が読めないから結局のところ意味はないが。そんなハーゼルが僕にと差し出してきたのは、白い木綿のハンカチだった。ハーゼルの手で僕の名前が縫い取られている。


「僕の名前、覚えてくれたの? すごい、僕の名前の綴り、間違える人が多いのに」

「自分の名前すらまだ書き間違えるけどなぁ」

「もー女将さん! それは言わなくていいじゃないですか! ルイス先生にもあるんですからね!」

「はは、私のためにありがとう。うん、私の名前も間違っていない、プイスの教えの賜物だな」

「それで、食べるもん持ってるん? 王都まで歩いていくんやろ、すぐ包んだるからうちで買って行きいや」

「それではお勘定の計算はハーゼルに頼もうか。女将さんの特製サンドイッチ二つ、私たちは何枚の銅貨を出せばいいかな?」

「えっと……えっと……」


 そんなやり取りの後、ハーゼルからもらった刺繍入りのハンカチとカーティスさんのサンドイッチを鞄に入れて宿場街を出る。ここから王都まで歩いて三日。何度も何度も歩いた道、今更新鮮味など感じない。空を見られなくなった今、目を向けるのは足元しかない。これでいいのだろう、今の僕にとっては。今ある道を転ばないよう、一歩一歩踏みしめて歩く。整備もろくにされてない、行き交うのは馬車くらいの王都までの街道。休み休み歩き続けて三日目の昼、とうとう王都に着いた。赤レンガの家から一番近い宿場街よりもずっと人の多い大通りを抜けて、王城の門を叩いた。


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