村での生活 その8
ドアを開けるとゴースファータとグライジンが2人で談笑しているところが目に入った。俺は2人に近づくと対面に座る。
「どうしたんだアクシス?」
普段この部屋に来ることがない俺がきて疑問に思ったのだろう。俺は手に持っていた似顔絵を見せてゴースファータとグライジンに問う。
「この絵の子供、2人は知ってる?」
2人は絵をじっくりと見た後に暫し考えるようにして黙った。
「あ!思い出した。確か、ブラスが引き取ったんじゃなかったっけ」
口を開いたのはゴースファータだった。引き取った人の名前が出た瞬間にグライジンも思い出したように頷いていた。
ブラスって名前は聞いたことがある。この村で唯一の鍛冶屋をやっていたような気がする。最初にこの村に来た時にゴースファータに案内された。
家の場所もなんとなくだが覚えている。最悪、分からなくてもこの村で唯一の鍛冶屋なら誰かに聞けば教えてくれるだろう。
俺が1人で勝手に納得し、部屋に戻ろうと席を立つとグライジンに呼び止められた。
「待ってアクシス。この紙はどうしたのかしら?」
その言葉を聞いた瞬間、体が停止した。グライジンに顔をチラリと見れば優しく微笑んでるように見えるが目だけは笑っていない。グライジンが今何を思っているのかが全く分からない。
ただ、こうは思っただろう。この村には紙を作る技術はない。さらに言えば紙自体がこの村には存在しない。存在しないものをなぜこの子供は持っているのか、と。
自分でも思うが間抜けだ。本当に間抜けだ。普通に考えれば誰でも思う疑問だろう。
「そんなに難しい質問をしたつもりはないのだけれど……」
俺がいつまでも答えないからグライジンが痺れを切らしてさらに言葉の圧をかけてきた。
良い言い訳が思いつかない。グライジンは嘘をついても見抜いてくる人間だ。一体どうすれば良いのか……
「その紙は儂が試作品として作ったのをアクシスにあげたんだ」
心のなかで頭を抱えながら悩んでいるとまさかのゴースファータからの助け舟が来た。ゴースファータの答えを聞いたグライジンはゴースファータを質問責めにしていた。
彼女の視界からは完全に外れた今、俺は安心してだが急いで部屋に戻った。部屋に着くとベッドの上で寝転がっていたシルクが駆け寄ってきた。
「あの絵の人、誰かわかった?」
「本人の名前はわからなかったが、引き取った奴の名前は分かったから明日その家に行こうと思う」
「そう……なら私も着いていく」
「まあ、別に構わないぞ」
俺の返事を聞いたシルクは一瞬、目を丸くしたがすぐに笑顔になった。最近はシルクの感情が豊かになってきているので何をすれば喜ぶのか分かり易くなってきた。
そのことに少しの喜びを感じながら似顔絵の紙を探す。
そういえば、部屋に戻ってくる時にグライジンに似顔絵を取られたままだった。仕方ないまた新しく描き直さないとな。
俺は机に向かうとまた魔法陣を展開して紙を創造し、顔を思い出して描く。
「よし、これで良いだろう」
紙とペンを机に置き、完成したものを確認する。自分でも意外に絵が上手いなと感心しながら机の引き出しに絵をしまう。
あとは明日やれば良いだけだから今日は暇になったな。あとは自由に過ごそう。
* * * 翌日 * * *
俺とシルクは朝食を済ませ、似顔絵の描かれた紙を手に持ち家から出る。出る直前にゴースファータの顔を見ると昨日1日グライジンに聞かれたのだろう、疲れ切った顔をしていた。
まあ、そんなことは大したことではないしどうでも良いんだがな。
俺とシルクはブラスという男の家に向かって歩いている。ゴースファータから聞いたところによれば10分ほど歩けば着く距離に家があるらしい。
「ゴースファータの話だとこの辺なんだが……」
しばらく歩いて辺りを見渡すと作業場と居住スペースの合わさった家が目に入った。
「見つけた。多分あそこだ」
シルクの手を掴み、走っていく。
家のドアの前まで辿り着くと中に人がいるか魔力が視えるようにして確認する。中には男が1人いるのが確認できた。
強さを確認するために『魔力感知』を使って魔力核の大きさを見るが一般人と比べても核は少し大きいぐらいだ。ということは万が一襲われても勝てるだろう。
「よし、中にいるようだし行くか」
そう言うとシルクも黙ったまま頷く。
俺は拳をつくってドアを3回ノックする。暫くすると中から足音が近づいてくる。
勢いよくドアが開かれたことに驚き俺とシルクは一歩後ろに下がる。そして中から現れたのはボサボサに伸びた髪の毛に無精髭を生やした男が出てきた。
「誰だよ、朝っぱらから……」
めんどくさいと言う感情を隠しもせずに呟きながら出てきた男の目線は俺たちを捉えることはなく、それよりも上に向けられていた。
「なんだよ、誰もいねぇじゃねぇか」
「下です。下」
男の独り言に返事をすると言われた通りに視線が下に向き、俺とその男は目が合う。俺を見た瞬間に眉間に皺を寄せ怒鳴ってきた。
「俺は忙しいんだ!くだらねぇいたずらで邪魔するな!このクソガキ!」
そう言って男は俺に掴みかかってきた。いや、どちらかといえば身長差が大分あるので胸ぐらを掴まれて持ち上げられていた。
シルクは後ろでどうして良いか分からずにオロオロと動揺している。
俺は持ち上げられた状態で男に話しかける。幸いにも喉は閉まっていなかったので声は出た。
「別に悪戯をしに来たわけじゃないです。少し話を聞きにきただけです。それとできれば降ろして欲しいんですけど……苦しいので」
実際は苦しくはないのだが掴まれていた手を叩きながら苦しいように聞こえる声をわざと出す。シルクはその声を聞いてさらに動揺する。
男も我に返ったのか掴んでいた手を離した。俺は地面に落ちて着地も受け身も取れずに尻から盛大に落ちた。俺は尻をさすりながら立ち上がると男の方も遅れて謝ってきた。
「すまん。ところで話ってなんだ?俺は忙しいんだ。手短に終わらせてくれ」
「大丈夫です。すぐに終わりますから。それじゃあ、早速本題に入りますけどこの少年知っていますか?」
俺は手に持っていた少年の似顔絵を男に見せる。その似顔絵を見た瞬間に男は分かりやく視線を泳がせた。
「……い、いや、俺は知らないな。このガキがどうかしたのか?」
「そうですか……いや、別に大したことじゃないんです。最近見かけないなぁ、と思いまして。おじさんはこの少年を見かけませんでしたか?」
「すまねぇな、俺はこの作業場に篭りっきりだからほとんど外には出ねぇんだ」
「分かりました。それじゃ、僕たちは帰ります」
俺は一礼してからシルクに声をかけて男の前から立ち去る。チラッと後ろを見ると男は急いで家の中へ戻っていた。
暫く歩いたところで服の裾を引っ張られた。振り向くとシルクが口を開いて聞いてきた。
「結局、その子のこと分からなかったね」
「いや、そうでもない。あの男は多分だが、嘘を吐いている」
「そうなの?」
「ああ、最初に俺を掴みかかってきたときには殺してやるとでも言わんばかりの視線で睨んでいたが俺がこの似顔絵を出した瞬間に俺と目を一才合わせなくなった。これって怪しいだろ?」
「うん、確かにおかしい」
そう言いつつもシルクは理解していないようだった。なんとなくだが頭の上にハテナマークが浮かんでいるのが見える。
目は口ほどに物を言う、という諺があるくらいだ。大抵の人間は口よりも視線を気にしたほうが相手のことはわかるだろう。ただそれを5、6歳の少女に理解しろと言う方が難しい。
「別に無理して理解する必要もないさ。そのうちに分かるようになる」
シルクの頭を撫でながら言う。
「このあとはどうする?」
シルクは心地良さそうな顔をしながら俺に聞いてくる。俺は頭を撫でるのをやめ、腕を組んで考える。一瞬シルクが残念そうに眉尻を下げた。
「特に考えてなかったな。シルクはどうしたい?」
「アクシスに任せる」
そう言う回答だと思った。シルクは自分の考えを率先して言うタイプじゃないしな。ただそう返されるとこっちも困るんだけど。
「……一回家に帰るか」
暫く考えた後に出た答えが家に帰るだった。というわけでひとまず俺とシルクは一緒に家に帰った。
玄関のドアを開けてリビングに行くとグライジンが1人で編み物をしながら過ごしていた。シルクはなぜか部屋まで走って行き俺はリビングに取り残された。
俺に気づいていない様子にグライジンに一応挨拶はしておく。
「ただいま……です」
「あら随分と早かったのね。あの子とは会えたかしら?」
「いえ、昨日教えてもらった人のところに行ったんですけどその人は見たことないって言ってました」
「そうなの?確か、ブラスが引き取ったと思うのだけれど……」
グライジンは頬に手を当てて「どうだったかしら?」と独り言を言いながら考えている。思い出そうとしてもはや俺が視界に入ってない状態だった。仕方なく部屋へ戻ることにした。
グライジンと話てみて思ったがやっぱりあの男は嘘をついていたようだ。今日の夜にでもあの男の家に忍び込んで何か証拠がないか調べてみるか。
今回で37話目の投稿になります。作者の霊璽です。
この話から物語が少しずつ動いていくと思います。何もなければですけど……
大体頭の中で急に浮かんだアイディアを採用することも少なくないのでどうなるかは正直作者自身もわかってないです。
すでに次の話の準備もしているので大丈夫だとは思いますが何卒温かい目で見守ってください。
それではまた次回の話で……




