村での生活 その6
翌日、俺は冬服を着て練習場に1人でやって来ていた。その理由は簡単だ、まず1人なのはシルクは寒いのがダメらしく外に出たがらないから。そして練習場にきた理由はゴースファータに毎日やらされる雪かきが嫌で逃げてきたのだ。
俺は練習場の雪を魔法で全て融かし、下に生えている芝生が見えてくる。しかし、今日も雪は降っているのでそのうちまた積もってくるだろう。そう考えた俺は魔法陣を展開してその中に手を突っ込み前世での傘をイメージする。傘を掴むと手を引き抜き傘を取り出す。傘を広げて雪がかからないようにする。
「はぁ…手伝いが嫌でつい逃げてきてしまったがここにきてもすることがない。なにしようかな〜」
俺は傘を差した状態で練習場を歩き回る。立ち止まって考えるよりも歩きながらものを考えた方が俺は頭がよく働くと思っているからだ。
半年間はこの村に適応するのに精一杯で他のことはほとんど考えていられなかったが今はだいぶ余裕ができてきた。そして今思いついたことがある。
それは…街に行くことだ。そう俺は『転移』ができる。この半年間で村のある程度は知った。しかし、外の状況はさっぱり入ってこない。多分、この村が世間では認知されていないからだろう。全く酷いもんだ、せめて王国のニュースとかを新聞とか言伝でも良いから教えてくれれば良いのに。まあ、この村の誰もそのことを知りたいと思っていないようだしそれにこんなこと思う俺の方が変なのかもしれない。
ただ俺が変人なのは前世からだ、それは自覚がある。クラスメートからはサイコパスだのなんだの言われてたし…いやそんなことはどうでもいい。
俺は街のことが知りたい。例えるなら都会を夢見る田舎者の気持ちみたいな感じか。ま、俺の場合は街に行ってもこれがしたいって目的がないがな。
気づけば練習場の反対側まで歩いてきていた。そろそろ行ってみるか。
俺は足元に魔法陣を展開し、詠唱する。
「『転移』」
目の前が一瞬、白くなり視界が晴れると懐かしのガーディナ家本邸の裏庭にきて居た。
まさか、街をイメージしたら無意識に一番来ていた家の裏庭に来るとはな。しかしここに来るのも半年ぶりだからな懐かしい。
俺はバレないように足音を立てないように歩く。一先ず、この家から出よう。それが今の目的だ。で、そのあとは街を適当に散策して日が暮れないうちに帰る。それで行こう。
俺は魔法陣を展開して、中からフード付きの外套を取り出し羽織る。そして自分の髪の色を金色にイメージして魔法を使う。これで最悪、この家の人間に見られても俺だとバレることはないだろう。
裏庭から門に向かって走り出そうとした瞬間、足音が聞こえた。俺は咄嗟に足元に魔法陣を展開して透明になるイメージをして詠唱する。
「『透明』」
実感はないが多分透明になっているだろう。それよりもこんなところに来るなんてどんなもの好きだよ…そう思い、一応誰なのか確認する事にする。そしてやって来たのは何とリリアだった。
「今こっちにアクシス様の気配がしたような…?」
いや、怖いな…半年も立ってるのに何で俺の気配がわかるんだよ…半年も経てば普通忘れるだろ。ま、今は透明になってる大丈夫だろう。
そう思い、俺は歩き始める。ただ誤算があったとすればこっちにも雪は降る。そうすると足跡が雪の上に残る。まあ、そうなると気配だけでここに来たリリアにはわかってしまう訳で。
「見つけました。そこですね!」
的確に俺がいる場所に飛び込んでくる。俺は後ろに飛ぶ。だがどうやら俺が後ろに飛ぶことまで予想していたようで避けられなかった。透明になっているはずなのにがっしりと掴まれている。
「捕まえましたよ、アクシス様。もう逃げられないんですから姿を見せてください」
「はあ…分かったよ」
俺は魔法を解き、姿を表す。
だがフードは外さない。顔は見せたくない。見せてしまったら俺だと認めることになってしまう。ま、髪の色がそもそも違うから大丈夫かもしれないが気配だけで俺を捕まえたリリアは侮れないからな。
「お久しぶりです、アクシス様。できればお顔を見たいところですが見てしまったら旦那様と奥様に会わせてしまいそうなのでやめておきます。お忍びできたんですよね?」
なぜ、ここまで俺のことがわかるんだ?まだ一言しか俺は発してないぞ?
「久しぶりだな、リリア。確かに村の人たちにも黙ってこっちに来ているからな。今俺がここにいるのを知っているのはリリアくらいか。それよりも何で俺がここに来たことが分かったんだ?」
「それは私のスキルの力のおかげです。半年前、アクシス様がここから出ていかれる前に契約をしたのを覚えてらっしゃいますか?」
「ああ、もちろん覚えているが…」
「私のスキルの名前は『主護』と言います。その効果は私が主人と認め、契約した者を護るというものです。具体的には主人と定めた者の位置が分かるとか窮地に陥っていたらそこまで転移できるとかですが」
何でもないように言ってるが十分すごいスキルだな。そんなにすごいスキルを持っていたのか。でもそうなると疑問が出てくる。
「でもそれは父上に使わなくてよかったのか?」
「はい、そもそも旦那様も私のスキルについては知らないので。それに自分が仕える人は自分で決めたいじゃないですか」
「そうなのか?俺は誰かに使えるなんて一生ないと思うからな。その気持ちは分からないが」
「アクシス様はどちらかといえば1人でいたいタイプの性格ですよね」
「ほんと、何でそこまで分かるのかな…」
「それは私がアクシス様を主として認めるためにずっと見てましたから」
なにそれ怖いんだけど…まあそこまで大切に思われてたのは純粋に嬉しいが。
それよりも早く街の様子を見に行かないとずっとリリアに抱えられたまま1日が終わってしまう。俺はそう思い、リリアの拘束から逃れる。
少し残念そうな顔をしたが、俺にもここに来たのには理由があるからな。
「悪いが、そろそろ行くわ。時間も限られてるからな」
「はい、元気そうで何よりでした。私はいつでもアクシス様を見守ってますからね!」
何か含みのある笑みを浮かべているが、見なかったことにしよう。俺はリリアに手を振り、跳躍して門を飛び越えていく。そしてそのまま走り去る。
家の近くには特になにもない。だから『魔力感知』と魔力のオーラを視ながら人混みができている場所へ向かう。人がたくさんいる、ということはそれだけ最新の情報が手に入り易いはずだ。5分ほど走って人がたくさんいる市場らしき場所にやってきた。
フードを目深に被り、顔をできるだけ見られないようにする。そして誰にも気付かれないように魔法陣を展開し、その中に手を突っ込む。イメージをして作った小銀貨の入った巾着を取り出す。
ざっと50枚くらい入っているだろう。前回、本を買ったときに一回見てるから作るのは容易い。ただ、今の俺は小銀貨しか作れないがな。
そんな事を思いながら、俺は歩きながら店を見回る。
こういう場所には初めてきたから少し楽しい。前世はショッピングモールとかしかいかなかったし、こっちの世界はではそもそもそんなに家から出られなかったし。
しばらく歩いているとどこからともなくいい匂いが漂ってくる。俺はその匂いのする方へと無意識に歩いていた。辿り着くとそこには串焼きの店があった。そういえば腹が減ったな。朝ごはんはちゃんと食べてきたはずなんだが…多分、場の雰囲気でそうなったのだろう。俺は店に近づくと店主が話しかけてきた。
「いらっしゃい」
年齢は四十前半といったところか。見た感じ気前のいい人のようだ。
「串焼き一本ください」
「一本、小銀貨一枚だ」
俺は巾着から小銀貨一枚を取り出し、店主に渡す。店主はそれを受け取るとその代わりに串焼きを一本渡される。俺はそのまま店から離れ、近くにあったベンチに座り串焼きを食べながら次はどこに行こうかと思案する。周りを見渡せば他にもたくさんの店がある。
「やっぱりこういう雰囲気は場にいるだけで楽しいよな」
俺は串焼きを食べ終わり、ボソッと呟く。人は右から左へ、左から右へ流れていく。この特に誰も俺を気にしていない感じ、この世界に俺が認識されていない感覚、結構好きだ。昔から他人からは変人なんて呼ばれてきて発言とか何かと注目を浴びてたからな。
そんな事を思いながら周辺に人が集まってる場所を見つけた。ただ少し違和感があった。具体的にはその人が集まっている場所が地下だということだ。気になった俺は串を魔法で燃やしてベンチから降りて人だかりの方へと向かう。
人の間をすり抜けながら見た感じ近道である裏路地へと入っていく。しばらく歩くと一つの扉の前に来た。『魔力感知』と魔力のオーラで見たところここの扉を開けて階段を降りていくと着きそうだ。ちなみに魔力のオーラは無機物は出さないのだが、生命が出しているオーラが壁を反射して地形を把握することに使える。森なんかだとそれぞれが個々にオーラを出しているから視てる景色も少し変わってくる。
って俺は誰に説明してるんだ?それよりもいってみるか。
俺はそう思い、扉を開ける。下に続く階段がひたすら続いている。灯りがついていないのか少し先からは真っ暗になっていて目視では確認できない。
俺は魔法陣を展開して炎を灯して下へ降りていく。
35話目の投稿になります。作者の霊璽です。
今回は久しぶりにリリアが登場しました。こんな感じで少しづつ出てくるかもしれませんが出てこないかもしれません。まあ、理由としては話を頭の中で構成してメモとか一切とらないからです…つまりこの話も最初に始めた時は考えていませんでした。
というわけでこれからも頭で考えていくので伏線回収とかできないところもあるかもしれないですがよろしくお願いします。
それではまた次回の話で……




