村での生活 その5
部屋に戻ると一人退屈そうにベッドの上で毛布に包まっているシルクがいた。シルクは音で気づいたのか顔だけを布団から出して振り向くとベッドから毛布を肩からかけた状態で降りて駆け寄ってきた。
「もう終わったの?」
「ああ。外は寒かったしあまり長くいたくはなかったから」
俺はそう答えると足元に落ちていた毛布を拾い上げる。取り敢えず、折り畳んでベッドの上に置く。クローゼットに冬用のコートを仕舞う。
やはり隙間風が入ってきているのか外と変わらないぐらい部屋の中も寒い。これは本格的に対応しなければ凍え死んでしまう。シルクが。
一先ず、部屋全体を障壁で囲って風が入って来ないようにしよう。俺は部屋全体が入る大きさの魔法陣を展開する。
「障壁。あとは…寒いから火をつけるか」
魔法陣を展開して炎を出す。俺は炎に手を翳して冷え切った手を温める。それを見たシルクも真似をする様に炎を出して暖を取る。
シルクを見ていて思った事を口に出す。
「それにしても、だいぶ魔法のコントロールが上手くなったな」
「そう?……ありがとう」
少し照れたように頬を赤に染める。そんなに嬉しい言葉か?と思っているとこの部屋に向かって足音が近づいてくる。普段は聞こえないからかなり強めに床を蹴って歩いているのだろう。苛立っているんだろうな、と足音で判断する。
ドカッと乱暴にドアが開かれる。俺は自分とシルクの炎を消してドアに向き直る。そこにはなんとなく予想できてた人が立っていた。ゴースファータだ。
ゴースファータにバレないようにこっそりとだけを消す。
「どうしたんですか?」
「アクシス、お前が家の裏をやったんだよな?」
俺は頷きながらゴースファータの顔色を窺う。苛立っている、というよりは驚いているという感情の方が強いのか。
「一体、どうやってこの短時間であの量の雪をかいたんだ?しかも、あの量の雪をどこに運んだんだ?」
「えっと…雪は火魔法で融かしました」
俺は頬をかきながらゴースファータに言う。ここで変に嘘を吐いても意味ないと思い事実を伝えようと思った。だが、どうやら俺が言った事は少なくともゴースファータに衝撃を与えたようだ。
現に今のゴースファータは言葉を失い、目が飛び出そうなぐらい見開いている。
「あの、ゴースファータさん?どうかしましたか?」
「い、いや…何でもない。邪魔したな」
そう言ってゴースファータは部屋を後にした事を確認すると俺は再び魔法で炎をつける。
それにしても一体、何をそんなに驚くことがあったんだ?俺は雪を魔法で融かした、ただそれだけだ。
……もしかしてそれが不味かったのか?そういえば、この村の人間を半年も見てきて一回も魔法を使っているところを見たことがない。
「アクシス、大丈夫?」
不意にシルクが話しかけてきた。
「あ、ああ。大丈夫だ。少し考えごとをしていただけだ」
そう言って俺はシルクと一緒に炎に当たる。
しかし、どうしたものか…本当にこの村の人間が魔法を使わないなら俺はこの村でも異端の存在になってしまう。俺はまだ理解のある両親のおかげで匿われていたが世間では多分、俺と同じ見た目をしている人達は侮蔑されたりしているのだろう。そしてそんな存在が集められた村でも魔法が使えるというだけで外し者にされるかもしれない。
まあ、まだ推測でしかないしそれが本当に起こるかどうかはわからない。一先ず、夕食の時にゴースファータの様子でも窺ってみるか。
夕食の時間になり、四人で食卓を囲む。普段から食事中に会話はそんなにないが今日はいつにも増して静かなような気がする。ゴースファータが時折、俺の方を見てくるが俺が目を合わせようとするとすぐに目線を外してしまう。後で話しかけてみるか。
夕食が終わり、シルクを先に部屋に帰してお茶を飲んで食休をしていたゴースファータに近づく。
「あの何か話したいことでもあるんですか?」
「い、いや特に何もないが」
「本当ですか?それなら良いんですけど……」
「あ、いやちょっと待って…やっぱり少し聞きたいことがある。ついて来てくれ」
そう言われてゴースファータが立ち上がり、隣の部屋に入って行く。俺もその後ろについて行き、部屋に入り2人きりになる。俺も初めて来た部屋なので中を見回す。中にはテーブルと椅子があるだけだった。ゴースファータと向かい合うカタチで座る。
「それで俺に一体なんのようですか?」
「お前が魔法を使える理由について少し話をしよう」
やっぱりその話ですよね〜。えっと…どう誤魔化せば良いんだ?いや、それよりまずはこの村に魔法を使える人間がいるのかどうか聞く必要があるな。
というわけで質問される前に質問する事にした。
「この村には魔法を使える人はいないんですか?」
「そうだな…私が知っている中ではこの村には居ないな」
やっぱりか…ということは俺はこの村でも秘密を抱えた状態で生活しなくちゃいけないのか?それともゴースファータから村中に話されたら俺はここから追放されるのか?いや殺されるかもしれないな…多分人の手で死ぬ事はないと思うけど。
あらゆる可能性を頭の中で巡らせる。
「別にこの村では魔法が使えるだけで追放されたりはしないからな」
そんなに顔に出てたのか…
「そうなんですか?でもそれならよかったです」
「まあ、言ってしまえばこの村にいる人は皆、国から捨てられたようなものたちの集まりだからな。それより、もう話は終わりだ。いいか、念の為だがお前が魔法を使えると言う事は誰にも言うなよ?」
「はい、分かってます」
そう言って俺たちは部屋を出て俺はそのまま自室に戻り、ゴースファータはリビングでグライジンと寛いでいた。
部屋に戻るとシルクが俺のところに駆け寄って来た。
「また怒られたの?」
少し不安気な顔をして聞いてきた。
「いや、少し聞きたいことがあったそうだ。特に怒られるとかそういうのじゃなかったぞ」
そう言ってシルクの頭を撫でる。そうしたら一瞬にして安心した顔を浮かべてくれたのでよかった。
どうにもシルクが不安な顔をしていると俺も何故か心配になってしまうらしい。前世に比べたらだいぶ俺も性格が丸くなったな。
「アクシス?なんで笑ってるの?」
「ん?俺、今笑ってたか?」
「うん、何か嬉しそうな感じ。良いことでもあった?」
そうか。つい自分が丸くなったことを笑ったが顔にまで出ているとは。
俺は頬の緩みを両手で叩いて引き締める。
「まあ、少しだけ良いことがあったかもな」
そんなわけないが取り敢えず、そう答えておく。この世界に来てからはそんなに良い事はなかったが。
そんな事を思いながらベッドに倒れ込む。シルクに一言、「おやすみ」と言って俺は眠りについた。
翌日、今日も俺はゴースファータに駆り出されて雪かきを手伝わされていた。ただ今回は俺の隣にゴースファータがいた。目の前で魔法を使ってみろと言われてので人が来ない家の裏で実際に使ってみせた。
「これが魔法か…すごいな。これは確かに便利な力だ。俺も魔法が使えれば少しは楽な人生が遅れたかもしれないな。まあ、この歳になればあとは死ぬのを待つだけだがな、はははっ!」
そう言ってゴースファータは高笑いする。笑ってないで雪かきを手伝ってほしい。俺も魔法で融かしているだけだから対して苦労はしていないが。それでも魔力は減っているんだ、少しは疲れる。本当に少しだが…
『魔力感知』でゴースファータを見たが極端に魔力核が小さく魔法が使えるような大きさではない。ゴースファータだけなのかもと思ってこの村に範囲を広げて全員を見たが極端に魔力核が小さく、魔法が使えそうな奴はいなかった。確かにこれなら魔法を見たことがなくても仕方ない。不思議なのはここに来た子供も同様だということだ。イクスって魔力核が小さいものなのか?わからない、今度テオスに聞いてみようかな。ていうか、あいつと全然会わなくなったな。
俺は1人妄想に耽るゴースファータ置いて先に家の中に入る。家の中はやはり暖房が入っていて暖かい。部屋に戻り、コートを脱いでいるとグライジンがやってきた。
「寒かったでしょう?こっちに来て暖かい飲み物でもどう?」
「ありがとうございます。今行きます」
俺はそう言ってリビングの方へ向かう。ドアを開けるとそこには椅子に座って寛いでいるシルクがいた。グライジンはキッチンで俺の分のお茶を用意してくれている。椅子に座るとグライジンが目の前にお茶を置いてくれた。それを一口飲み、背もたれに体を預けゆっくりと過ごす。
ふと、何かを思い出したのかグライジンが話しかけてきた。
「そういえば、あの人はどうしたの?」
あの人とはゴースファータのことだろう。いつもゴースファータがいない時、俺たちの目の前ではゴースファータのことをそう呼んでいる。
「多分、雪かきをしているんじゃないですか?俺は自分の分を終わらせて戻ってきたのでその後のことはよくわからなですけど…」
「そうなのね。あの人何か始めるとずっとそのことに集中しちゃうから。昔なんて冬用の薪を取りに行ったきり一日帰って来なかったこともあったわ〜」
文句を言いながらも幸せそうに話す。昔の思い出をこんなにも楽しそうに話せるのはすこし羨ましいな。俺は自分の過去はどんなことでもそんなに楽しそうに話せる自信はない。そもそも俺は昔の事は結構すぐに忘れてしまうし。前世のことだってもうそんなに覚えていない。魔法を使っているおかげで激しく燃える炎や吹雪などはテレビで見た、ということは覚えている。しかし、それ以外の学校のクラスメートや親の名前や顔は記憶に霞がかかってはっきりと思い出せなくなってきた。
それに俺自身昔のことを忘れてもそんなにショック受けているわけではないしまあ、別に過去なんかどうでも良いのだ。という考えで昔からずっとやってきている。
「アクシス、どうしたの?具合でも悪いの?それとも朝早くからあの人に雪かき手伝わされて疲れたの?」
ぼーっとしていたのだろう。グライジンが不安そうな顔をして声をかけてきた。
「いえ、なんでもないです」
俺はそう言ってお茶を飲む。グライジンはかなりおっとりした性格だが、人のことをよく見ている。この半年間でシルクが具合悪くなった時、朝起きて顔を合わせただけで気づいてたからな。人間のことをよく見ている。このままだと俺も心の中を見透かされそうだからひとまず部屋に戻ることにした。
「でも少し疲れたみたいです。休んできます」
俺はそう言ってお茶を飲み干して部屋に戻る。
34話目の投稿になります。作者の霊璽です。
明けましておめでとうございますというにはもう日にちが遅いですね。ただ新年初の投稿なので一応挨拶しておきます。
今年も月に一、二回。多くての三回は投稿できるように努力していきます。ただ今年はもう一年分のやることがあるのでそんなに更新できないかもしれないです。
その時はこっちの活動報告とTwitterの両方に投稿しますのでよろしくおねがいします。
それではまた次回の話で……




