村での生活 その4
窓から射す陽の光が瞼の奥の瞳を照らしてくる。どうやら朝になったらしい。あれ…朝?
俺は勢いよく起き上がると窓の方を見た。最後に見た時は沈んでいたはずの太陽がいつの間にか登っていた。厳密にいえば太陽は見えないのだが、朝特有の爽やかさがそれを物語っている。
隣にはスヤスヤと眠るシルクがいた。起こしてくれなかったのか…と頭を抱えつつベッドから出て服が入ってる棚を開ける。
「はあ、着替えないでそのまま寝てしまった。服、着替えないとな」
適当にシャツとズボンを取り出すと服を着替える。シルクを起こさない様にそっと部屋を出て行く。廊下を歩いてリビングに行くとグライジンがいた。老人の朝は早いなと思いつつ口から出る言葉は「おはようございます」の挨拶だけに留めておく。ゴースファータは見当たらない。まだ寝ているのだろう。
昨日から何も食べていなかったせいなのか腹が空いていた。俺は席に着くグライジンが朝食を用意してくれた。
「昨日、夕飯食べなかったからお腹空いてるでしょ?」
「はい、昨日は色々あり過ぎて疲れて眠ってしまったみたいです」
「あら、そうなの?てっきりあの人に怒られて不貞腐れたのかと思ってたわ。あの人にも実際叱りすぎたって反省してたし」
「いえ、あれは僕が悪かったですから気にしないで下さい」
「そう?アクシスがそう言うならそうするけど…それよりもそろそろ敬語で話さなくても良いのよ。家族になったんだから」
「すいません…どうも自分よりも年上の人と話す時は敬語になるのが癖みたいで…」
「ああ、別に無理に直せって言ってるわけじゃないのよ」
俺は「努力します」とだけ言って用意された朝ご飯を食べ始める。
未だに敬語のまま直せないでいるのは多分どこか彼らを信じられていない自分がいるのだろう。まあ、直すつもりもないけど。
特に会話もする事がないのでとっとと飯を食うと家を出た。シルクは多分、昨日魔法を使い過ぎたせいで魔力が回復していないのだろう。
いつもの訓練場に行き、準備運動をする。今日はシルクがいないので魔力核の実験の続きをする事にした。地面に魔法陣を展開して男の人間を創る。
俺は人形を前に前回の事を思い出す。
確か魔力核を創ったら真っ黒い球が出て来たんだよな。だが、俺が普段見ているのは虹色。ていう事は虹色の球を想像すればイケるんんじゃないか?前回は明確にイメージしなかったし。
俺はそれで行こう、と思い右手に魔法陣を展開する。
「擬似核」
魔法陣からイメージ通りの虹色の球が出てくる。それを人形の胸の中心に埋め込む。
その瞬間、凄まじい勢いで人形から魔力の波動が飛んでくる。
「うわぁー!」
アーレスに殴られた時と変わらないくらい後方に吹っ飛ばされた。何とかこれ以上飛ばされない様に地面に這いつくばる。
数分が経つと勢いも治まってきた。地面から起き上がると人形の方を見る。特に見た目は変わっていなが成功はしたのだろうか?
『魔力感知』を使い魔力核が人形に入ったかを確認する。人形の胸の辺りには虹色の球がしっかりと確認出来た。
俺は人形に近づくと他に変化がないかを確認する。
「特に異常はなさそうだな。しかし…特に変化がないな。魔力核を埋め込むだけじゃ駄目なのか?」
前にアーレスがハイ・オークを作ったとか言ってたがこんな感じで作ってたのか?アイツのは動いてたしな。分からない。だが、アイツが仮にオークを作ることができるのなら何か秘密があるはず。
「はあ…今回も失敗か。いけると思ったんだけどな」
俺は魔法陣を展開して暗黒孔で人形を消す。俺は仰向けに倒れて空を眺める。今日は何もなくてよかった。面倒な神様や上位種なんてものが来ない。平和と呼んでいい日だろう。
そう思ってた瞬間、誰かが壁の内部に入ってきた。俺は飛び上がり、急いで向かう。この中に入れるのは俺とシルクだけ。普通に考えればシルクだが、一人でここまで来れるのか?
「ひとりで行くなんてひどい」
辿り着くとシルクが腕を組んで頬を膨らませて言ってきた。
「悪い悪い。気持ち良さそうに寝てたから起こすのは気が引けてな」
俺は頭を掻きながら謝罪するが、それでも機嫌が直らない。俺は小さく息を吐くとシルクに問う。
「どうすれば許してくれるんだ?」
「これからは私が寝ていても置いてかないって、どこに行く時も一緒に連れてってくれるって約束して」
「分かったよ。これからは一緒に行くと約束しよう」
俺は約束の誓いとして握手をした。
この世界にゆびきりげんまんがあるのかは知らないが俺とシルクしかいないなら握手だけでいいだろう。お互いに知らないって事にしとこう。
それよりもふと思ったことをシルクに聞いて見る。
「そういえばここまでどうやって来たんだ?」
そう聞くとシルクは然も当たり前のように言った。
「普通に歩いて」
「オーク、じゃない魔物には会わなかったのか?」
「うん。あ、でもウサギとかシカならいたよ」
確かにここの森には沢山の種類の動物がいる。村の猟師が狩ってくる動物も日によって様々だし。ただ、たまにゴブリンの死体を持って来たり、俺が遭遇したオークをなんかもいる。だから極力シルクには一人でこの森を行動して欲しくないという気持ちがある。
今回は無事だったが次回を違うかもしれない。さっきの約束はある意味俺への忠告かもな。一応他にも聞きたいことができた。
「ゴースファータ達とか村の人にはバレてないよな?」
「気をつけて来たから大丈夫、だと思う…」
どんどんと声が小さくなっていった辺り少し不安ではあるが、魔力のオーラを視る限り誰もこちらには近づいていないようだ。多分、シルクが村を抜け出した事はバレていないし大丈夫だろう。
「多分、バレてはないと思う。それで今日はどうする?魔法の訓練はするか?」
「うん。攻撃魔法を使える様になりたい」
それから数時間ほど経過して太陽が頭上に昇っていた。俺はシルクから少し離れたところでシルクの魔法を見ていた。
「シルク、そろそろ時間だ。今日は終わりにするぞ」
「うん。わかった」
俺が声をかけるとシルクは返事をして展開していた魔法陣を閉じて俺のところに駆け寄ってくる。
シルクは集中していたのか汗が凄かった。俺は魔法陣を展開するとその中に手を入れ、タオルをイメージして作り出す。魔法陣から手を引き抜くとそのままタオルをシルクに渡す。
「アクシス、これは?」
「汗が凄いからな。これでちゃんと拭いとけ」
「わかった」
俺からタオルを受け取るとシルクは顔や首の汗を拭く。
「今日でだいぶ攻撃魔法のイメージが出来る様になったな。このままいけば俺よりも魔法を扱うのは上手くなりそうだな」
魔力量じゃ俺が勝ってるから魔法戦じゃ負けないと思うけど。いやいや、何勝手に張り合ってるんだ俺は…くだらない。俺の方が転生というアドバンテージが有るんだから当たり前の事だろ。
俺が変な考えに染まっていると
「そうなったらアクシスの役に立てる?」
俺の役に立つ?どういう事だ?俺は自分の役に立って欲しくて魔法を教えている訳じゃないんだが…
そう思いシルクにどういうことか聞く。
「いや別に役に立って欲しいから教えてる訳じゃないぞ?どうしてそんな事を思うんだ?」
「私はアクシスに助けてもらってばっかり…だから私もアクシスを助けたい」
俺はいつシルクを助けたんだ?分からない。一体いつの事を言ってるのか…
「じゃあ、本当に困ったら助けてもらおうかな」
俺は取り敢えずそう言ってシルクの頭を撫でる。シルクは擽ったそうに微笑む。
「それじゃあ、そろそろ戻らなとな。また遅く帰ったらゴースファータに怒られてしまうからな」
「分かった」
シルクの頭を撫でていた手をそのままシルクの前に差し出す。シルクはその手を取り、二人で手を繋いで村へ帰宅する。
今回は早めに帰ったので特に怒られなかった。よかった、よかった。
* * * 半年後 * * *
この世界にも四季というものがあり、今は雪の降る冬になった。貴族の時にも雪が積もったりしてはいたがそれよりも寒くて部屋にこもっていた。まだ魔法の使い方も知らなかったし。今は魔法の使い方が分かるおかげで暖が取れる。
ただ、家は木造建築の家だから防火壁部屋中に張って使っている。前世と違って灯油や薪をいちいち補給する必要がないから楽で良い。無くなるのは俺の魔力だけ。
ただこれが出来るのは俺の部屋だけでリビングには普通に暖炉があるのでそれを使っている。だが圧倒的に自分で魔法を使った方が暖かい。だから基本俺は部屋に篭っている。
そして今日も今日とて部屋に篭って目の前で揺めき、燃える炎を眺めている。雪が降ってから俺とシルクは森の訓練場には行かず、シルクに暖を取るための魔法を教えている。とは言ってもそんなに難しくない。防火壁を張って火魔法を使うだけ。これだけでも意外に魔法の訓練になる。炎の調節とか。いや決して他の魔法をサボっている訳ではない。
「今日も寒いな」
「うん」
2人で魔法の炎を囲んで暖まっている。家の手伝いは雪が積もったので無しになっている。
その時、勢いよくドアが開かれた。振り向くとゴースファータが毛皮のコートを着て立っていた。
「アクシス、雪かきするぞ」
俺は炎をバレないように消して布団にくるまった状態で口を開く。
「今日は寒いし、雪も降ってるからなしで」
「そんなこと言ってたら強くなれないぞ!」
ゴースファータは部屋の中に入ってきて俺の毛布を乱暴に剥ぎ取る。
毛布にくるまり、炎をで暖を取っていた俺は部屋の中でもそれほど厚着をしていなかった。だが今は火を消し毛布も取られてしまった。
家の中にいるのに凍えて手が震える。隙間風が吹き込んできて部屋から暖かい空間を冷ましてしまった。俺は諦めて立ち上がるとクローゼットから冬用の服を着る。
「はあ…分かりました」
「それじゃあ、行くぞ。なぁに心配するな。家の周りだけだ」
そう言って気楽そうにしているが窓を見ると前世でも見た事ないぐらい雪が降ってる。
家のドアを開けて外に出るとより実感できる。辺り一面は銀世界っていうか白銀の壁に覆われている。朝、ゴースファータが家の周りの雪かきを少ししていたのは知っていたがそれでもまた積もり始めている。
俺はゴースファータから雪かき用のシャベルを渡される。俺は少し疑問に思った事を聞く。
「これ…俺埋まりませんか?」
「大丈夫だ。最悪埋まったら掘り出してやる」
いやいや埋まったら見つけられないだろ。このジジイめ、ふざけた事言いやがって。危うく手に持ったシャベルで後頭部を殴ろうとしてしまったがギリギリ理性で抑えられた。
俺はゴースファータとは反対側、つまり家の裏側を任された。裏側の雪はどうやら手付かずだったようで表よりも積もっていた。絶対これ5歳の子供にやらせる仕事じゃないだろ…まあそろそろ6歳になるんだが。いや今はそんな事はどうでもいい。
「もう面倒臭いし魔法で融かすか」
俺は適当な広さをシャベルで雪をかいて確保して2つの魔法陣を展開する。念の為、魔法を撃つ先に人がいないか『魔力感知』で確認する。
「前方よし、火球」
バスケットボール程の大きさの火球を2つ放つ。ジュッっという音を立てて火の球は雪を融かしていく。5メートル程先で火球は消滅した。
「これは楽だな。今度はもっと大きいもので」
俺は魔法陣を3個展開する。今度はバランスボール程度の大きさを考える。そして三つの火の球を正面に向かって放つ。当たり前だがさっき以上の広さの雪を融かしていく。火球が消えると雪はすっかり消えて下の地面が見える。
まだ雪は降り続いているからまた積もるかもしれないがその時はまたその時に対処すればいい。取り敢えず、やる事はやったし家に入ろう。
俺はスコップを拾い上げ家の中へ戻った。
33話目に投稿になります。作者の霊璽です。
今回はかなり緩めの回ですね。
これで今年最後の投稿です。いや〜なんやかんやで無事に年が越せそうでよかったです。
それでは良いお年を。
そしてまた次の話で………




