村での生活その3
「誰だ、お前?」
「ん、ボクかい?ボクは、そうだなぁ、なんて言えばいいんだろう…分かんないや。一体何だろうね?」
「いや、俺が聞いているんだが…」
見た感じは人間の18歳くらいの青年っぽいな。髪は透き通る様な白色、瞳は深海の様に深い青色。確実に俺やイクス達と同じなのだろうが村でこんな奴見たことないし、いやあの村結構広いからまだ会ったこと無いだけかもだけど。
しかしいきなり現れてきて何なんだ、コイツは?不思議と人間って感じはしないんだよなぁ。
剣を握る力を強めて見ていると謎だらけの奴が両手を上げながら
「まあまあ、そう構えないで。それを返して欲しいだけだから」
そう言って指をさした方を見るとオークの死体が転がっている場所だった。何故こんなのを欲しがるのか分からない。
実際俺も処理に困ってたし貰ってもらえるなら嬉しいんだが、何故か気に入らない。自分の獲物を横取りされそうになる動物の気持ちがもしかしたらこんな気持ちなのかもな。
「断る」
俺がはっきりと言うとまるでそう返されることがわかっていたように平然としている。
「やっぱり?そっか〜そう簡単には行かないか。じゃあ仕方ないけど無理にでも持って行くから」
そう言って死体の方へ歩き出す。俺は地面を蹴って急いで奴と死体の間に割って入る。奴は少し驚いた様な顔をしていた。
相手は俺を頭から足の先までジロジロ見ながら
「意外と早く動けるんだね。見た感じまだ長く生きている様には見えないけど…人間ってみんなそんな感じなの?それとも君だけ?」
「多分、俺だけだと思うがそんな事はどうでもいい。そもそもお前は何者だ?」
ようやくしたかった質問が一つ出来た。聞かれっぱなしは癪に障る。俺の中の予想じゃ人間ではないって事だけ以外は確信が持てない。そもそも俺に気づかれずに近づける奴なんかいる筈がない。普通の動物だったらな。
「ボクは亜神アーレス。亜人種族の上位種って言えば分かるかな?」
なんだと!?上位種って事はもしかして俺よりも強いのか?亜人って何種類いるんだ?やばい。謎が多すぎて何から確認すればいいか分からない。でもコイツが俺より強かったら一番まずいとだろう。問題に優先順位を付けていく。
ひとまず最初に疑問に思った事を確認する為に魔力を視える様にし、『魔力感知』を使う。オーラも魔力核も普通のオークよりは大きい。だが、それだけだ。実際魔力量は俺の方が上だろう。
俺がアーレスの魔力量を見ていると俺が何を考えているのか気付いたのかこんな事を言ってきた。
「君は僕より魔力が多いかもしれない。それでも君は僕には勝てないよ」
「まだ戦ってもないのにか?」
「僕の種族は亜人、そしてその特徴は魔力よりも筋力。君がさっきまで戦っていたオーク、それに他にもオーガやトロルなんかが僕の統括する種族だけど基本的には物理攻撃だからね。君のその貧弱そうな体を見る限り僕に敗北はない、ということ」
長々と説明された。まあ確かに納得のいく理由ではあるが、だが俺はテオスに馬鹿力を授けられている。
確か…幻獣種の5倍だったか?よく覚えていない。それでもどの幻獣種の5倍なのかは分からないが一先ずコイツには勝てるだろう。
そして一つ分かったことがある。上位種と幻獣種は同じだということ、だ。多分だが上位種とは自分達の種族の上位の存在の時。幻獣種は他種族の上位の存在を指す時、なのだろう。
俺は手に持った剣を構えるとアーレスは目を丸くした。
「まさか、ほんとにボクと戦う気?」
少し小馬鹿にした様な笑いと共に俺を見つめる。そしてどうやら俺が本気だということが分かるとオグルも拳を構えた。
「はぁ…面倒くさい。もうとっとと回収して帰りたいし、殺しちゃおっかな」
アーレスの何気なく息をする様に口から出た言葉だったが、前世も含めて感じたことのない程の寒気がした。初めて本当に殺されると思ったかもしれない。
そう感じた瞬間から足が動かなくなった。恐怖が身体を支配し全身の筋肉が硬直してしまったのだ。俺は全く動けないでいると
「あれ、来ないの?じゃあ、ボクから行くか」
そう言ってアーレスが一歩を踏み出した瞬間にいつの間にか目の前に立っていた。そして気づくと腹部に強烈な痛みが走り後方に吹っ飛ばされていた。
「グハッ!」
木を何本もへし折りながら50メートル程後ろに飛ばされ、ようやく止まった。仰向けに倒れている俺は起き上がれないでいた。
立ち上がるどころか指一本動かない程体がダメージを負っていた。呼吸もままならないところを考えると肋骨が何本か肺に刺さっているのだろう。意識し始めると余計に痛みが強くなる。その内に俺の心は一つのことで頭の中が支配された。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。
身体が動かない、声も出せない、逃げられない。死ぬかもしれない。怖い。
この世界に来て初めて恐怖と死を強く感じた。
「おお、結構強めに殴ったのにまだ生きてるよ。こんな人間初めて見た」
乱雑に髪を掴まれ、持ち上げられる。
「どうだい?もう少しで死ぬ気分は?」
アーレスは聞いてくるが痛すぎるのと出血し過ぎて、まともに思考する事すら出来なくなり始めている。流石にまだ死にたくない。何か助かる方法は…
俺は辛うじて残った少しの思考能力を使って一生懸命に探す。それでも限界は近かったらしく、走馬灯の様なものが見え始めて来た。瞼が重くなり、目が強制的に閉じらされる。
この世界に来てからの、たかが5年間の人生が駆け巡る。それでも意外に色々とやっているな。ポツンと一人プラネタリウムにでもいるかの様に暗い世界にいる。見上げると色んな事が見えては消え見えては消えを繰り返す。そしてその中に唯一助かる方法が出て来た。俺は目を見開き、これだ!と叫んだ。
「まだ死ねない、死にたくない。それにこのままじゃやられっぱなしのままだしな」
重たくなった瞼を無理矢理意識という名のバールでこじ開ける。まだ髪を掴んで持ち上げられている状態だった。アーレスはまだ俺が起きたことには気付いていない様子だ。そして走馬灯の中で掴んだ方法を使う。
「治癒」
身体の欠損した場所を把握して魔法を使う。胸を中心に魔法陣が展開してエメラルドグリーンに輝く。
「な、何だ!?」
突然俺の体が輝いたことに動揺してアーレスは掴んでいた手を離した。完治していないのでそのまま地面に落下する。少し背中に痛みが走るがその直後に治癒で痛みが取れる。そして数十秒程して怪我が治った。もう痛みもないし動かせなかった身体はいつも通りに動く。
俺は立ち上がるとアーレスは少し驚いた様にして
「へえ、さっきまで死にかけてたのに。よく死の淵から戻って来れたね」
「死にかけた事によって助かった、みたいなもんだがな」
「じゃあ、もっと殴っても壊れないよね」
そう言うと再び距離を詰めて腹部を殴ってこようとする。だが今度は拳の軌道が見えたのでギリギリ避ける事が出来た。恐怖感が何となく無くなっているおかげで身体の硬直がが解除されたっぽい。
「さっきよりは動けるみたいだね。それじゃあボクもちょっと本気で」
先程よりも数段早いパンチを顔目掛けて打ってくる。またまた紙一重で躱す事が出来た。
アレで本気じゃなかったのか…幻獣種ってのを侮っていたな。さっき戦った特殊なオークとは比べものにもならない。
どうにかして助かる方法を探さなくては。このままじゃ本当に殺される。一先ず全身に完全障壁を張る。まずは一枚でどれくらい持つのか試さないとな。
俺は棒立ちになる。
「あれ?遂に諦めちゃった?」
アーレスは拳を握って俺の鳩尾を殴る。
「ウッ…」
一瞬で障壁が割れ、俺は数十メートル後ろに吹っ飛ばされた。俺は起き上がると殴られた部分を触る。が、
特に痛くも何ともない。完全障壁が一瞬で破られた事に少しショックだが、何十枚も重ねれば大丈夫だろう。
俺は障壁を二十枚重ねて張る。
「第二ラウンドだ」
今度は俺から攻撃に出る。拳に全力を込めてアーレスの顔面を目掛けて殴る。避けるとか受け止めることをすると思っていたのだが何故か奴は殴られ、そのまま後方に飛んで行った。
「避けるとか何かしろよ…」
そんなことを呟きながら飛ばされた方に歩いて行ってみると服に付いた砂や埃を払っていた。本気で殴ったのにケロッとされると無性に腹が立つ。
「いや〜いいパンチだったよ。うん、なかなか効いた」
「全然そんな風には見えないんだが?」
「まあ、それでもボクも力と頑丈さには自信があるからね。それで何だけどさ、そろそろ帰りたいからあれ持ち帰っていい?」
そう言って指差す方にはやはりオーク達の死体がある場所だった。
最初は知らなかったから断ったがまた本気で殴られたら障壁ごと俺の体を貫いて来そうだし。たかがオーク如きの死体を守るために自分が死んだら意味ないしな。
俺はしばらく考えた後で、
「ああ、持ち帰ってくれ」
「ありがとう〜。…流石にハイ・オークはまだ実験段階で人間に見られる訳にはいかなかったからよかったよ。君が証言しても子供の戯言だとしか言われなさそうだし」
小声だったがハッキリと聞こえた。そのまま帰ろうとしているアーレスの手首を掴む。
「あの特殊な一体ってハイ・オークなのか?」
「…ううん、違うよ」
首を横に振りながらそう答える。だが、明らかに挙動が不審だったので嘘だとすぐにわかった。そもそも独り言の様に呟いたこともしっかりと聞こえてたからな。
「それじゃあ、帰るね!」
そう言うとアーレスは自分の掴まれていた手と逆の手を手刀にして腕を切り落とす。掴んでいた手と本体が離れたのでアーレスはそのまま走り去って行ってしまった。
残された奴の腕はボロボロと崩れていき無くなってしまった。
「クソ、もっと聞きたいこともあったのになぁ。いつの間にかオークの死体も持ってかれてるし。全部において敗北した気分…」
アレが人生で初めて見た上位種(幻獣種)かなんか想像していたのと違ったな。もっと獣っぽいのかと思ってた。ていうかアイツ何処に行ったんだ?一瞬で見えなくなった。あの強さといい、速さといいやっぱり人間じゃないんだろうな。
「帰ろう」
服に付いた血を魔法で洗浄すると荒れ果てた森を背に俺は村に帰った。
村に着くとゴースファータとグライジンに森から出て来たところを偶然に目撃されてかなり怒られた。アーレスと戦った時よりも疲れた。途中からシルクが二人を止めてくれたから良かったもののそれでも1時間以上説教された。
部屋に帰ると早々にベッドに寝転んだ。シルクは俺の隣に座る。外の方を見るといつの間にか夕方になっていた。
今日は大変だったな、と色々考えながら物思いに耽っているとシルクが話しかけて来た。
「忘れ物はあった?」
「ん?忘れ物の?………ああ、あったあった」
危ない危ない。一瞬何言ってるのか分かんなかった。そういえばそういう事にしていたな。特に何も持って来てないし証明する方法は無いんだが、聞かれないことを願うことにしよう。
「それで、忘れ物って何?」
早速聞かれた。何故、世の中は望まないことの方が起きやすいのだろうか?いや、俺が勝手にそう感じているだけかもだけど。
それよりも何か出さなければ、シルクに怪しまれる。
「まあ、アレだ。現地に着いたら結構たくさんあってな」
「そう」
なんとか誤魔化せた、のか?まあいいや。聞かれない事に越したことは無い。忘れ物がないってバレたら何を聞かれるか分かったもんじゃない。
「シルク、俺少し寝るけど夕飯の時間になったら起こしてくれ」
「分かった」
俺はシルクに「おやすみ」と言うと目を閉じた。シルクは気を遣ってくれたのか俺が目を瞑るとベッドから立ち上がって部屋を出て行った。わざわざ部屋を出ててかなくても良かったのに…優しい奴だな。
そこで思考を放棄して俺は深い眠りについた。
32話目の投稿になります。作者の霊璽です。
ツイッターで言った通り無事に今週は投稿できました。よくやった自分。来週も頑張って投稿出来る様にします。
さて今回は前回の続き、そして死にかけたアクシス君。一回死んでるのにやっぱりまた死ぬのは怖いそうです。
次回からは多分日常に戻るでしょう。
結構適当な後書きで申し訳ございません。
それではまた次回の話で………




