村での生活 その2
シルクを呼ぶと目線を乾き切った服から俺に移った。
「どうしたの?」
「もう少しシルクのスキルの性能を確かめたいんだが…」
「えっ……」
今すごい嫌そうな顔をしたぞ。なんというか…顔が引き攣っている。そんなに嫌なのか?いやまあ、嫌な理由は俺が作ってしまったんだが…
「大丈夫だ、シルク。今度はお前に向かって魔法を撃つんじゃなくて俺が発動させた魔法に触ってもらうだけだ。そうすれば水魔法なら濡れることもないだろうし、他の魔法でも安全だろう」
「じゃあ、最初からそうして欲しかった…」
シルクにそう言われて俺は何も言えなくなった。本当に申し訳ないと思う。俺がもっと考えていればよかった。まあ人には生きている間にもミスがつきもんだからな。今回はたまたま判断ミスだったということで。でももう一度謝っておくか。
「そこに関しては本当にすまなかった。それでやるか?それともやらないのか?そこはお前に任せる」
俺がそう言うと一瞬考えた素振りを見せた後に俺の方を見て、
「やる。でも、また同じようなことが起きたら…しばらく口聞かない」
少し考えた後に出てきた言葉は結構、決意の籠もった言葉だった。
「結構、根に持つなぁ」
俺は苦笑しながら魔法陣を手の平に展開する。魔法陣を起動して水球を生成した。先程と同じくらい大きさの水の球をシルクの前に差し出す。
シルクはビクッと震えたが飛んで来ないと分かると俺に様子を窺うように見てくる。
「大丈夫だ。さっきと同じように意識して触るだけでいい」
念の為にシルクの方には水が飛ばないように障壁を張っておこう。これで万が一、水が弾けてもシルクに水が飛ぶことはないだろう。
シルクはゆっくりと水球に手を伸ばす。そして指先が触れた瞬間、水球を維持する為の魔力の制御が出来なくなり、水球は形を崩してバシャッと地面に落ちた。手の平を見ると水球を生成する為に展開した魔法陣そのものが消えていた。
なるほどなぁ。魔法に触れると魔法を生み出したそのものから無効化するのか。結構、凄いスキルなんじゃないか?もしかしたら俺の『超越』も無効化されるかもな。いや、『無効化』を『超越』するのか?その辺もいつか確認したい。
色々と考えながら横目でシルクを見ると水が飛んで来なかったことに安堵しているようだ。今のうちにこっそり張っておいた障壁を解除しておく。
「良かったな。成功して」
「ほんと、よかった…アクシスと口聞けなくなるとこだった」
そっちかよ、と心の中でツッコミを入れているとシルクが俺の服の裾を優しく引っ張ってきた。
「まだ、スキルの確認ってやる?」
首を傾げて聞いてきた。俺は少し考える。先程思った疑問のことや『無効化』というスキルの底を見てみたいという気持ちもある。まあ別にそんなに急いでやる事でもないか。
「もう少し試したいこともあるが、スキルの確認は今日はもうやめるか」
俺がそう言うとシルクは少し考えて何かを決心したような顔を見せた。
「その、私も魔法を使ってみたい。だめ…かな?」
緊張しているのか少し顔が赤いような気もする。しかし、シルクが魔法に興味を持ってくれたのは嬉しい。
「もちろん、いいぞ」
「本当!?…やった!!」
かなり嬉しいのだろう。ピョンピョンと跳ねている。可愛い。しかしこっちの世界に来てからかなり心が穏やかになっていると思う。
そんな事を感じながら俺は少し離れた場所に魔法陣を展開して木製の人形を出す。俺はそれに指を指しながら、
「じゃああれが的だ。一先ず、火魔法から教えよう」
「うん、よろしくお願いします」
シルクは可愛らしくお辞儀をする。かなりやる気があるようだ。
それから俺はシルクに魔法を教えた。前回、そうルナに教えた時は魔法が暴走してとんでもないことになったから、最初は木を集めて火をつける練習から始めた。小さい火をコントロールするところから始めれば暴走する事もないだろう。
それから2週間が過ぎた。ゴースファータの手伝いなどがあったから実質5日くらいしかやっていないのだが…それでもシルクはあっという間に上達し火や水、風などの基本属性的なやつは一通り使えるようになっている。まあそれでも基本的には生活でしか使えない魔法を教えた。
攻撃魔法はまたこれからだ。何かあって前回みたいに暴走したら面倒だし。まあ俺がちゃんと言っておけばシルクだから勝手なことはしないだろう。
いつもの訓練場に2人で行く途中に思いながら歩いている。
「ねえ…アクシス。私も魔法を使いたい」
訓練場につき、しばらくいつものように基礎の練習を3時間くらいやった後の休憩中にシルクが俺に言ってきた。
どういうことだ?魔法ならもう教えたが…もしかして攻撃魔法を教えて欲しいのか?でもシルクの前で攻撃魔法なんて使ったことあったか?
俺は心の中で色々と考える。そんな俺を見たシルクが肩をポンポンと叩いてきた。
「どうした?」
振り向き様のシルクに問う。
「私も、その地面を動かしたり、火でもっといろんなことがしたい…」
どうやら俺の察しが悪いのを察したらしい。しかし見られてたのか…盗賊に襲われた時だよな、多分。まあそれは仕方がない。御者の『強制睡眠』のスキルもシルクのスキルで無効化されてたし。多分こっそり見ていたのだろう。
「攻撃魔法か、自分の身は自分で守れた方がいいだろうし…いいよ。まあ、シルクなら簡単にできると思うぞ」
「ほんと!?やったぁ!それでいつからやる?明日からそれとも今から?」
グッと顔を寄せて聞いてくる。
「今からは少し厳しいと思うし、明日からな」
そう言うとがっかりした様な顔をする。
魔力を視えるようにするとオーラがいつもよりも弱まっていた。ついでに『魔力感知』を使ってみるとシルクの魔力核の色が薄くなってきている。多分魔力切れが近いのだろう。他に見たことないしよく分からないが。
本人にも体の異常がないか聞いてみよう。
「それよりシルク。気分が優れないとか、体に異常はないか?」
俺がそう聞くと首を傾げた後に元気をアピールする為なのか俺の周りをくるくると走っている。そのあと俺の目の前に来て
「元気。特に異常はない」
「そうか。それならそろそろ戻るか」
「うん」
気がつけば太陽が西側に傾き始めていた。感覚的には午後の3時くらいだろうか?障壁の一部を解除して2人で森を歩き、家へ向かう。その途中で森の中に入る時は必ず使っている『魔力感知』に大きな魔力核が視界の端に映る。距離はまだあるが感覚的にはオークくらいだろうか。
俺はシルクの手を掴むと急いで走り出す。
「えっ!?あ、アクシス…?どうしたの?」
「悪いな。少し急ぎの用事を思い出したんだ。急ぐぞ」
シルクは小さく頷くと村まで一直線に走った。相手に出来ないわけじゃないが、シルクがいるなら話は別だ。安全に村まで行かなければ。ちなみに守れない訳じゃないが守りながら戦うのが面倒なだけだ。あそこのオークはあとで処理しに行くがな。
しばらく走り、村に辿り着くと俺は繋いでいた手を離しシルクに向き直る。
「あー、しまった。忘れ物をしたから取りに行ってくる」
棒読みだった。何をやっているんだ俺は。もう少し感情を込めた言い方だって出来たはずなのに…まあ最悪シルクに気がつかれなければいいか。
そう思いシルクの様子を窺っていると
「でも、アクシスあそこには何も持って行ってなかった」
そっちの方を疑っていた。確かに行くときには何も持っていかなかった。どう言い訳するか…
俺は少し考えた。ほんの一瞬だ返事に変な間が開かないように頭をフル回転させて全力の嘘を考える。そして出た結論は、
「帰る直前にな薬草を見つけたんだ。それを摘んでけばゴースファータも喜ぶかと思ってな」
「なら私も…」
ついて来ようとするシルクを手で制する。
「いや大丈夫だ。それよりもあの2人のところに行ってくれ。多分何処で何をしていたのか聞かれると思う。その言い訳をしておいてくれ。内容は、そうだな……2人で村を散策していた、とでも言っておいてくれ。この村広いから、とか適当に付け足しておけば大丈夫だろう」
俺がそう言うとシルクは頷いた。俺はそれじゃあ伝言よろしく、とシルクに言うとオークのいるところに向かおうとする。
「待って」
走り出そうとしたところでシルクに声をかけられる。俺は歩き出そうとしていた足を止めて振り向く。
「どうした?まだ何か気になることでもあるのか?」
「アクシスがいないのに2人で村を散策していた、なんて言っても信じてもらえないかも…」
「あー、そっか。じゃあ俺が何処に行ってるか聞かれたら、まだ散歩してる、とでも言っておいてくれ。それと言い忘れてたが、今日の事は絶対に誰にも言うなよ」
「うん、わかってる」
シルクが返事をするのを聞くと俺は今度こそオークのいる場所へと走り出す。さっきよりも村に近づいてきているな。まあ、すぐに片付くだろう。
そこら中にある木の枝や蔦に引っかからない、もしくは吹き飛ばしながら走る。距離的にそんなに遠くなかったのと足の速さのおかげですぐにオークたちを目視することが出来た。もちろん茂みに隠れている。
数は3体。その中の1体は他のオークと比べて体型が1.5倍ほど大きい。
オークの上位種か何かか?まあどっちにしろあれはなかなか楽しめそうだ。最近はあまり体を動かしていなかったからな、楽しみだ。
俺は木陰に隠れて準備運動をしてオーク達の目の前に飛び出る。俺を見つけると上位種らしい個体以外が俺に向かって手に持っていた棍棒を振り下ろしてきた。
「危なっ!」
俺は後ろに飛び退き攻撃をかわす。振り下ろされた地点を見ると10cmほど地面が凹んでいた。
「前回見たやつよりも力が強いのか。それに奥のデカいやつは見てるだけだし、なんだか違和感のある奴等だな」
2体のオークの攻撃をかわしながら観察をする。一体あのオークがなんなんだ?何もして来ないただ見ているだけだ。武器も体も通常のやつよりもデカいのにやけに慎重だな。
しかし、鬱陶しいな。俺は攻撃してくる2体はかなりしつこい。流石に逃げてるだけじゃ駄目そうだな。
俺が足を止めるとオーク達はチャンスだと思ったのか2体同時に棍棒を振り下ろしてきた。
俺は両手を上に突き出し、2本の棍棒を受け止める。
「まあ、やっぱり受け止められるよね〜。自分でも思うけどこの体どうなってるんだろうな…」
そんな事を思いながら手に力を込めて握力任せで棍棒を破壊する。オーク達は驚いたように一歩後ずさった。奥で見ていた奴も少し目を見開いていた。
そりゃそうだろう。人間のそれも子供に自分たちの武器を破壊されたんだからな。
オーク達は手に持っている元棍棒を放り捨て、拳を振り下ろしてきた。
「よっと、危ない危ない。ほら、こっちだこっち」
俺は拳を避けて挑発をする。まあ、言葉は通じないから伝わらないんだけど。魔法陣を両手に展開して一体ずつに魔法を放つ。
「ファイアボールッ」
直径1メートル程の大きさの火球がオークに直撃する。断末魔をあげながら少しづつ体が焼けていく。少しするとオークは綺麗に焼けて、骨ぐらいしか残らなかった。
オークの焼死体を眺めていると後ろから残りの一体の特殊なオークが棍棒を振り下ろしてきた。俺は前に跳び紙一重でかわす。
「そういえば、もう一体いたの忘れてた」
俺は地面に魔法陣を展開して剣を想像してみた。
「武器創造」
適当に思いついた言葉を詠唱すると魔法陣が発動し、剣が魔法陣から出てきた。剣の柄を掴むと魔法陣が消えた。剣を試し振りをしながらオークの攻撃を避ける。
「適当に作っただけだが、なかなかの出来だろう。多分」
俺はオークから少し距離を置き、剣を構える。いくら普通よりデカイとはいえ頭自体はそんなに変わらないのかオークが棍棒を振り上げて走ってくる。俺はそのまま立ち止まり攻撃の瞬間をただ待つ。
オークが棍棒を振り下ろした瞬間に地面を蹴って跳び背後に回る。そして脇腹を狙って横薙ぎに剣を思いっきり振るう。その時、
バキッ
音がした瞬間に持っていた剣が軽くなった。剣を見ると真ん中あたりからふたつに折れていた。急いで距離を置き、どうして折れたのか考える。
「マジかよ…強度が足らなかったのか?それともただ単にアイツの皮膚が硬いだけか…」
オークの体を見ると傷一つ付いていなかった。ただ剣だけをイメージしただけだからいけないのか。もしそうなら、もっと硬い剣を作るまでだな。
「武器創造」
詠唱してもう一度剣を創造する。見た目は先程と何一つ変わっていないが多分さっきよりは強度が上がっている筈だ。
俺は剣を構えてオークに向き直る。
「行くぜ」
地面を蹴って駆け出す。寸前で高く跳躍し、オークに向かって剣を振り下ろす。
オークは太い腕を頭上に持ち上げて剣を防ごうとしたが肉を切る感覚と視界に赤い液体が広がるのが見えた。俺が地面に着地する時に切り落とした腕も同時に落ちていた。
振り返るとオークが無くなった腕を押さえて出血を止めようとしていた。
「どうやらちゃんと強化出来たみたいだな。じゃあ、そろそろ終わりにするか」
剣を再び構えてオークに向かって走り出す。向かってくる俺に気付いたオークは出血の事は無視をして残った片方の手で持っていた棍棒を振り下ろしてきた。寸前でかわし今度は首に狙いを定めて剣を振るう。
剣に付いてしまった血を振り払い、魔法陣を展開してその中に入れる。後ろでゴトリと音が聞こえ、振り返るとオークの頭が地面に落ちていた。
両手を組んで上に上げ体を伸ばしながら死体に近づく。
「久しぶりに運動したなぁ。それよりこの死体どうしようかな…持って帰るわけにいかないし…ここに残して置くわけにもいかない。燃やすか?」
取り敢えず、3つある死体を集める。
それでも燃やすにしても周りは森だからな障壁を張らなくちゃいけないし、何かめんどくさいな。もうこのままでもいいかなぁ。
「ねーねーその死体返してくれない?」
急に耳元で話され、俺は声がした方とは逆の方向に跳んで距離を置く。俺が先程まで立っていた場所には人間?らしき者が立っていた。
焦った。ていうか全く気が付かなかった。
「誰だ。貴様は?」
「ん、僕かい?僕は、そうだなぁ。何だろうね?」
お久しぶりです。31話目の投稿になります。作者の霊璽です。
だいぶ久しぶりの投稿になりますね。一ヶ月も開けてしまい待っていた読者様には申し訳ないです。色々と用事が重なって書くことすら出来ずに一ヶ月過ぎてしまいました。12月は頑張って3話くらい更新したい…取り敢えず新キャラがまた出てきました。どういう感じになるかは次回を読めば分かると思います。
それでは後書きも書くことが見つからないのでこの辺で
それではまた次回の話で………………




